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パネルディスカッション「スポーツとまちづくり」

チャレンジデー2011事後ワークショップでは、パネルディスカッションとして、登壇いただいた青島氏、長崎氏、武藤氏より、体験された各実施自治体の取り組みについてやそれぞれの視点で「スポーツとまちづくり」に関するお話をいただきました。

パネリスト

青島健太氏 スポーツキャスター/笹川スポーツ財団 理事
長崎宏子氏 ゲンキなアトリエ取締役/笹川スポーツ財団 評議員
武藤泰明氏 早稲田大学スポーツ科学学術院教授/笹川スポーツ財団 スーパーバイザー

チャレンジデーがスポーツを通じたまちづくりに

黒田:

3月11日に発生した東日本大震災によりクローズアップされているのが、「まちづくり」、そして、人々の「絆」です。今年のチャレンジデーは、被災された多くの方々にスポーツで勇気と元気を送りたい、全国の参加自治体・地域の皆様が、被災地の1日でも早い復興を願うとともに、「わがまち」を見直し、地域の一体感を実感できる1日となるように思いを込めて、「スポーツの力で日本を元気に!」をテーマに開催しました。

チャレンジデーが、スポーツを通した「まちづくり」と「絆」にどのように係わったのか、そして、今後どうあるべきかを、この1時間、皆様と一緒に議論をしていきたいと考えています。

パネリストの皆様には、実際に参加自治体を訪問した感想と併せて、「地方のスポーツのあるべき姿」、「地域のスポーツによる活性化」、「スポーツをいかに楽しむか」について、それぞれお話を伺います。

それでは早速、青島健太さんからお話を伺います。よろしくお願いします。

青島:

チャレンジデーは、去年、姫路市から車で40分くらいのところにある兵庫県の神河町にお伺いしました。日本の美しい山はこういうところだというような、幻想的な深い緑の山々に囲まれ、その山を縫ってきれいな川が流れるすばらしいところでした。

たいへんに広い町で、山の中の平野部に町役場があり、そこに、ウオーキングコースが5コース設けられていて、いくつか設定された起点から、ゴールの役場に向かって参加者が歩いてくるというウオーキングに参加させてもらいました。また、年配の方々のゲートボールの会場にも伺いました。

ウオーキングは、自分の体力や目的に合わせて好きな距離を選んで参加することが可能で、一番長い距離で20㎞ぐらい歩く人もいれば、ごみ拾いをしながら歩く人もいました。

実際にご一緒したのは、時間の都合でそのうちの2つでしたが、自分の住む町をみなさんで歩くという試みは、とても魅力的なことではないかと思いました。
少し話が変わりますが、実は、私自身はプロ野球にいて、引退後の約1年間はオーストラリアのビクトリア州に行っていました。初めて行った町で、言葉や文化の壁といった不安の中で、学校の行事でオリエンテーリングがあり、参加しました。

オリエンテーリングは、オーストラリアはじめ海外では極めてスポーツ的に行われていますが、自分がいる町をくまなく歩くことで、どこに何があるとわかることで自分にその地域が近づく、仲良くなる感じがしました。また、大事なものがどこにあるのかということを知ることができ、自分の町にはいったい何があるのかをつかむことで、たいへん町に愛着が湧くとともに、町の全体像がつかめて暮らしやすくなることを体験しました。

もう一つビクトリア州では、銀行がスポンサーとなって、高校生が自転車で1,000km近く州内を走るイベントが約10日間行われていました。だいたい毎日100kmぐらい走ります。1,000人を超える高校生が参加しておりこのレースを生徒たちと一緒に走りました。例えると兵庫県内を自転車で走り回るようなイベントです。これも同じように、自分の住む町に親近感が湧くイベントでした。

町内を歩くというシンプルな行為ですが、機会がないとそういうこともなかなかなく、まちの活性化や住民の地域に対する意識向上などに有効的なプログラムであると思いました。

8,000人ウォークに参加 チャレンジデー2010(兵庫県神河町)私がお伺いした神河町は、山と川というロケーションですが、場所によっては、どこに海があるとか、どこに高台があるとか、どこに広場があるとか、そういう意味では、何かのときに自分の生活するところにどういう場所があるのかということを理解しておくのは、今回の震災のような事態のときにも、役に立つ情報であると思います。

自分の生活するエリアをしっかり把握するということで、チャレンジデーの取り組みで自分たちの町を歩いてみるということは、いろいろな意味合で大切なことだと思います。

長崎宏子さん同様に、どちらかというと、私も競技スポーツに長らく取り組んできました。競技者として取り組む中で、感じたことや学んだことはたくさんあります。しかし、世界とどう戦うかという取ければいけないのは、スポーツにはもうひとつ大きな役目があるということです。それは今日1日をどう楽しく送ろうかとか、夜のビールをどうやっておいしく飲もうかとか、友達ともっと仲良くなるにはどうしたらいいか、というようなことです。

チャレンジデーという1日の取り組みですが、これを通じて身体を15分間動かしたというのは、多分、最小限な楽しみ方でしょう。むしろ、友達と一緒に20km歩いた、知らない人と手をつないで何かをした、今まで話したことのない人や役場の職員と仲良くなれたというようなことを通じて、いかに次なる広がりを作れるかというところに、さらなる面白みがあると思います。

今日も、そういうものを模索して、残る時間の中でも少しでもそういうところに触れられたらと思っています。

黒田:

ありがとうございました。次に、長崎宏子さん、よろしくお願いします。

長崎:

笹川スポーツ財団さんとは随分長いお付き合いをさせていただいています。毎年、このチャレンジデーの前に、「長崎さん、大使としてどこかに行かれませんか」という声がけをいただいていましたが、チャレンジデーは5月の最終水曜日ということもあり、私は、水曜日に水泳教室を持っていて、なかなかそちらを離れられず、毎年、「残念ですが」とお断りをしておりました。青島さんから昨年の評議員会でチャレンジデー参加自治体の訪問の報告を受けた時に、そんなにすばらしい経験だったら私もぜひ行ってみたいと思い、それで今年は、お声がけをいただいたときに二つ返事で、「行きます」とお答えしました。

行き先は、初めてのチャレンジデーの訪問ということもあり、私は秋田県出身なので、これは秋田県しかないということで選んでいただいたのだと思います。今日は、秋田県から大勢いらしているようですが、皆さんたいへん熱心にチャレンジデーに取り組まれており、秋田県はチャレンジデーのメッカだと思いました。今年は、その中から仙北市にお伺いしました。大変お世話になり、ありがとうございました。

私は、秋田県で生まれ育っていますが、ずっとプールにいたので、広い秋田県の中をほとんど回ったことがありません。正直、地理的にもあまり詳しくありません。仙北市にお伺いした際、角館の武家屋敷のストリートを華麗な秋田美人たちが着物を着た姿でウオーキングをするのを見てご一緒したり、少し足を伸ばして田沢湖で秋田犬と一緒にウオーキングをしてまいりました。

また、とてもきれいな桜並木に肥料を与えながらウオーキングをしている中学生や特別支援学校の生徒たちとご一緒したり、さまざまな活動を実際に見たり体験したりして、これがチャレンジデーだということを体感し、とても幸せな1日でした。

オープニングセレモニーは、グラウンドゴルフの会場でした。会場では、恐らく普段から熱心にグラウンドゴルフを行っている方々が大勢集まっており、私のオープニング挨拶の有無に関係なく、スタートの号砲を今か今かと待ちわびている姿が印象的でした。

普段からスポーツをしている方々にとっては、15分間のスポーツ活動はたいしたことはないはずです。でも、私が一番感動したのは、参加している方々もそうですが、その方々よりも、中心となってチャレンジデーに取り組まれている自治体や体育協会等の方々です。今回は特別に、普段水を張っていないプールに水を張ってもらって水泳教室を実施しました。これがとても冷たく本音はたいへんだったのですが、このような地元の水泳協会の方々の熱心な取り組みを目の当たりにして、この方々がいないとチャレンジデーはまず成り立たないと思いました。

住民の方々は声をかけられれば、「ああ、今日はチャレンジデーなんだ。やってみるべかな」と行きますが、リーダーシップを執る方々は、それがどういう結果につながるつながらないは別にして、とても熱心で元気が良かったです。こちらもそれについつられてしまうというか、高齢化や過疎化が進んでいる地方で、身体を動かすことによってまちや地域を活性化していこうという気持ちの原点というか、元気の源が、一生懸命取り組んでいるリーダーの方々にあることを痛感しました。なお、その方々のほとんどが私よりもずっと先輩の方で、私の父よりも少し若い世代の方々だったと思います。また、その方々と対照的だった参加者が、水泳教室に参加してくれた約50人の小学生で、今回お世話いただいた方々のお孫さんだったり、ご近所の誰々さんのお孫さんだったり、おじいちゃん・おばあちゃんと小さいお子さんたちのつながりをものすごく感じたチャレンジデーでした。私たち世代の働き盛りのお母さん、お父さんたちの姿は、残念ながらあまり見ることはできませんでしたが、水曜日という理由からでしょうか、「農作業で忙しい時期だからな。土・日だったら集めやすいのにな」と皆さんが言っていました。でも、1年のうちの平日に行うことに意義があるということも感じました。

子どもたちへの水泳指導(秋田県仙北市)先ほど青島さんからお話がありましたが、私はずっと競技スポーツに携わっていたので、笹川スポーツ財団と一緒に仕事をするようになってから初めて、「スポーツ・フォー・エブリワン」という、一人一人のスポーツについて携わるようになりました。そして、スポーツはこれだけ幅が広いということを学んでいますし、いろいろなスポーツへの取り組みがあると思います。
私は、今回、そのきっかけを作ってあげるのがチャレンジデーだと感じました。

「来年のチャレンジデーを目指してまた頑張るべ」も良いのですが、そのチャレンジデーから1週間後、1ヵ月後、2ヵ月後、夏休みにチャレンジデーみたいなことでみなさんで集まって何かをしようとか、みなさんが身体を動かすことで表情も生き生きし、コミュニティも明るく、いろいろな人と顔見知りになって、そこからまちがどんどん活性化していったら良いと心の底から思った1日でした。また、ぜひ伺わせてください。

黒田:

ありがとうございました。続いて、武藤泰明先生、お願いします。

武藤:

チャレンジデーで発見したことがひとつありました。スポーツには三つあるのではないかということです。スポーツで三つというと、昨年、文部科学省の出した「する・みる・ささえる」というのも三つですが、言いたいこと、感じたことが少し違います。1枚だけスライドを用意しています。ひとつ目は「スポーツをする」で、二つ目は、「スポーツに参加する」です。参加するということは、主催者がいます。だから参加できます。あるいは、一緒にやる相手がいるから参加できます。主催者は、スポーツをしたいと思う方のためにいろいろな準備をしてくれるし、スポーツをしたいと思う人が集まってくるので、この段階で既に地域づくりになっていると思います。

あえて脱線しますが、アメリカにロバート・パットナムという有名な政治学者がいて、この人が書いた面白いタイトルの本で「孤独なボウリング-米国コミュニティの崩壊と再生」(柏書房)というものがあります。これは政治学の名著ですが、読むことは薦めません。なぜかというと、日本語訳で六百数十ページもあるからです。学者も嫌がる厚い本なので、ごく簡単にポイントをお話してみたいと思います。

アメリカのコミュニティで、老人、主に男性だと思いますが、最近はボウリング場でひとりでボウリングをする人が増えてきています。ボウリング場は、昔、コミュニティの社交場でした。ですから、そこに行って友達とボウリングをするということでしたが、ひとりでボウリングをする人がどんどん増えてきて、「スポーツ無縁社会」みたいな状態になったのはなぜだ、どう解決するのかという話になっていきます。

ひとりでボウリングということになると、「スポーツをする」ではありますが、スポーツに参加していない状態です。ですから、かつてのボウリングはスポーツにみんなで参加するという、地域社会がまだあったアメリカのいい状態の象徴だったと思います。

三つ目は、「スポーツで参加する」です。呪文のようなことを言っていてわかりにくいと思う方もいるかもしれません。例えば、このチャレンジデーで言えば、昨年までのチャレンジデーは対戦形式を採っていたので、チャレンジデーに参加したみなさんは、スポーツをして、スポーツに参加して、スポーツで地域間交流に参加していました。今年は、震災の影響で対戦形式が採られませんでした。では、「スポーツで参加する」という活動があったのかなかったのかというと、やはりありました。先ほどのグループワークで書いていただいた取りまとめの中に、「大槌町さんの支援をしながらの参加で、スポーツだけでなく絆ができていった」と記述されているのがありました。みなさんは、チャレンジデーに参加することによって、スポーツで被災地に思いを寄せていたはずです。

チャレンジデーは、今見てもらっているような「スポーツをする」という行為、また、「スポーツに参加する」、「スポーツで参加する」という三つを併せ持っている奥の深いものだということに気が付きました。このような活動を、できればひとりでも多くの方、あるいはひとつでも多くの地域に参加してもらえると良いと願うようになりました。

プロフィール

青島健太氏 スポーツキャスター/笹川スポーツ財団 理事
慶應大学、東芝を経てヤクルトスワローズに入団。公式戦初打席で初本塁打を放つ。1989年に退団後、オーストラリアで日本語教師を務める。帰国後、ライターおよびキャスターとして、スポーツの醍醐味を伝えている。

長崎宏子氏 ゲンキなアトリエ取締役/笹川スポーツ財団 評議員
1984年ロサンゼルスオリンピック、1988年ソウルオリンピックに水泳・平泳ぎで出場。日本オリンピック委員会(JOC)職員、国際オリンピック委員会(IOC)選手委員会委員を経て、スポーツコンサルティング会社「ゲンキなアトリエ」取締役に就任

武藤泰明氏 早稲田大学スポーツ科学学術院教授/笹川スポーツ財団 スーパーバイザー
東京大学大学院修士課程修了後、三菱総合研究所に入所。2006年4月から早稲田大学教授。専門は、マネジメント、スポーツマネジメント。

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