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開催報告

2014年度開催報告

第4回 7月30日(水)19:00~20:00開催

障害者スポーツの発展のために ~車椅子バスケットボールを例に~

7月30日、車椅子バスケットボール男子日本代表ヘッドコーチの及川晋平氏、特定非営利活動法人Jキャンプ事務局長の金子恵美子氏をお招きし、今年度第4回目となるスポーツアカデミーを開催いたしました。
今回は、「障害者スポーツの発展のために」と題して、車椅子バスケットボール(以下、車椅子バスケ)を題材に、障害者スポーツの現状と課題、将来の環境づくりに向けたヒントなどについてお話しいただきました。

【当日の概要報告】

※以下の報告は、別掲の当日資料と合わせてご覧ください。

1. 講義~主なポイント~

1)講師自己紹介

及川 晋平 氏
金子 恵美子 氏

<及川氏>

アメリカ留学時代に学んだ車椅子バスケが自分の中の核になっている。アメリカで出会った車椅子バスケの楽しさを日本に持ち帰りたいと考えたのが13年前にJキャンプを始めた原点。

<金子氏>

障害者スポーツ全般のことに関わりながら、車椅子バスケの普及にも深く携わっている。本日は活動を通して知りえた海外の事例を、現在われわれが抱える課題へのヒントとして紹介しながら、皆様と意見を交換したい。

2)「Jキャンプ」の活動(2001~2013年)

  • Jキャンプの5つの目的・狙い

    ①「車椅子バスケの楽しさ」を伝えたい! から
    ⑤多くの人とスポーツの楽しさを分ちあうこと まで

    Jキャンプを始める際、発展させていくにあたり、やみくもに人を集めて始めても続かないと思い、5つの目的を掲げた。

    ①車椅子バスケの楽しさを伝えたい!という目的を一番初めにおいたが、具体的に楽しさをどう伝えていくか?を考え「一生懸命頑張ること」「チームワーク」などのキーコンセプトを固めた。

    ③障害のある人の可能性を追求する場、というのは、いきなり「教え/教えられる」場とするのではなく、まず「できる(できた)!」という体験を一つひとつ積み重ねてもらう場にしたいということ。コーチングでも、まずできたことをどんどんほめた上で「こうしたらもっと良くなるよ」と助言するようにしている。

    ④広く市民に障害者に対する理解を深める機会を提供する、ことも目的に掲げた。多様な関係者(施設、メディア、交通機関、地域、スポンサー等)の理解を促し、巻き込んでいくには丁寧に説明していくことが重要。これは⑤多くの人とスポーツの楽しさを分かちあうこと、という目的にも共通している。選手とコーチ以外の関係者に、なるべく広く関わってもらい、喜びを共有してもらうことを重視してきた。そうした多様な関係者のご理解と協力があって10年間活動を続けてこられた。

  • Jキャンプの主な7つの事業

    ①ベーシックキャンプの開催 から
    ⑦通訳の派遣 まで

    はじめは、①の「ベーシックキャンプ」を1年に1回開催するのが主な活動だったが、ある時点から、複数の地域で開催してほしいとの声があがるようになり、②「ミニキャンプ」を開催するようになった。レベル分けも必要になって③「Jキャンプビギナー」を始め、指導者の育成のために④「Jキャンプfor コーチ」を始めた。
    その他、スタッフを海外で育成する⑤「海外研修派遣」、大会等への⑦「通訳の派遣」、⑥「情報発信」などを行いながらこれまで活動してきた。

3)課題 ~活動を通して見えてきた課題~

  • <課題1> 障害者アスリートのキャリア形成

    アスリートになるためのキャリア形成が難しい環境
    例えば、「車椅子バスケを競技として始めたい」と中高生世代の障害者が考えた場合、障害者アスリートとしてキャリアを積んでいくのは容易ではない。通学先の学校には、特に一般校であれば障害のある子どもが参加できるクラブも指導者も不在であることも多い。最終的にはクラブチームが受け皿になるが、参加者の年齢や志向は多様で、競技志向の強い若い障害者アスリートが同世代と切磋琢磨する場とはなりがたい。

  • <課題2> 地域における障害者スポーツの環境

    車椅子バスケをする場(バリアフリー/人口が少ない/駐車場)や指導者が少ない
    例えば、公共スポーツ施設を借りる場合に、施設によっては様々な事情から使用が難しいなど、場が限られる。適切な指導者が不足していることも大きな課題である。

4)大学における普及と育成 ~海外での取り組みを通して~

上記の課題を踏まえ、海外にこの問題を解決する糸口を見出すべく、いくつかの事例を皆さんと共有したい。具体的には課題にきちんと焦点を当てて、大学における車椅子バスケに組織立って取り組んでいる(いた)事例として、アメリカ、ドイツ、イギリスの例をとりあげる。

  • イリノイ大学(アメリカ)の取り組み
    DRES:Disability Resource & Educational Service

    障害のある学生のために適切な教育を提供する大学内の機関。50年ほどの歴史をもつ。学業のサポートはもとより、住居(寮)の紹介、キャンパス内外でのバリアフリーサービスの紹介などといった生活面、環境面でのサポートも行う。
    そのなかに「アスレチックプログラム」があり、車椅子バスケや車椅子で行う陸上競技のチームを有している。車椅子バスケは平日、毎朝6時半から数時間練習を行っている。

    <大学にとっての利点>

    • ユニークな価値のある取り組みに対する外部評価
    • 学生の獲得(奨学金制度も有する)、学生が関わる場の創出
    • 障害者スポーツの研究・発展の場=雇用の可能性が広がる(卒業後、指導者として戻ってくるケースも少なくない)

    一方、大学所属の車椅子バスケチームはNCAA(National Collegiate Athletic Association)に所属し、リーグ戦や大学選手権を行う。学業成績に応じたスポーツ活動への制限もルール化されており、学業で一定程度の成績を収めなければ退部・退学もありうる。

    ※「障害のある人にとっての利点」および「一般学生にとっての利点」は別掲資料参照

  • 大学の車椅子バスケ(各国の状況) ※別掲資料の一覧表を参照

    「参考」の欄には、公式リーグへの健常者の参加条件を記載した。アメリカと違い、ドイツ、イギリスでは健常者が「持ち点4.5」で参加することが認められている。
    (車椅子バスケでは、プレーヤーの障害程度に応じた持ち点が与えられ、その合計が5人で14.0点以内でなければならない)
    健常者の参加を認めた理由は、ドイツ(重度障害者の参加機会創出)とイギリス(国内選手の海外流出によるレベル低下の防止と国内リーグの活性化)で異なる。

  • 大学選手権について

    ドイツ、イギリスにおける大学選手権の概要を一覧にして比較した。日本でも大学選手権が行われているが、参加選手はほとんどが健常者である。

    <ドイツの大学選手権>

    地域のスポーツクラブが盛んなドイツでは、車椅子バスケチームもクラブの一部門として存在するケースが多い。主に大学施設を活動場所とするので、大学が自然と地元在住の障害者にも開かれる環境にある。大学選手権は大学在学中の健常者を中心に30年前から始まったが、現在では健常者がドイツ国内すべての公式戦に出られるようになったことにより、障害のない大学生がクラブチームにどんどん参加していき、そもそも地域に開かれていたことから大学というくくりがあまり意味を持たなくなった。その結果、大学チーム間の大会という位置づけとしての大学選手権は自然消滅した(大学に通う年代がそもそも多様であることもおそらく手伝ったと思われる)。

    <イギリスの大学選手権>

    イギリスの大学選手権は、今年が初開催(5校が参加)。2012年のロンドンオリンピック・パラリンピックを契機に、イギリス車椅子バスケットボール協会が学校(大学含む)へのアプローチを積極化した。すべての大学において障害のある学生が仲間たちとスポーツをすることができるようにするというのが同協会の目標である。今年は5校でスタートしたが、来年は9校の参加が確定。参加希望を表明している大学は現時点で20校ほどある。現在は障害のある選手とない選手がミックスだが、障害のある子どもたちの大学進学を増やしたいという意向ものと活動を展開している。

  • ドイツの状況

    大学と地域の有機的な交流により、老若男女、障害の有無を問わず多くの人がスポーツを楽しむことのできる環境となっている。車椅子バスケのリーグは6部まであるが、ホビーリーグといった完全にクラブ会員間の交流や親睦のためのチームもある。一方、日本を含め、世界中からプロ契約を結んで渡独する選手が存在するなど、裾野が広がるだけでなく、山の頂も高くなっている。

  • イギリスの状況

    今年、大学選手権の初開催会場となったWorcester大学が代表チームの強化拠点として機能し、国際大会も多数誘致している。ホテル建設なども進み、地元のまちおこしにもつながっている。同大学は、学内に障害のある学生が寝泊まりしながら学問もスポーツも学べるアカデミー形式の施設設置を検討中である。イギリスの国内リーグは4部あり69チームが参加している。

5)課題に対するヒント

3)で示した「課題」に対するヒントは以下の通り。

<課題1>障害者アスリートのキャリア形成の課題

課題解決のヒント:

  • 大学に車椅子バスケチームがあることで、障害のある子どもたちが文武両道を目指すことができる。将来のキャリアの選択肢、可能性が広がる。
  • 大学において同年代で競い合うことで競争力を養うことができる。「競い合い」「挑戦」「悔しさ」をともに体験する仲間ができる。

<課題2>地域における障害者スポーツの環境

課題解決のヒント:

  • 大学が地域に開かれることで、場と人材の確保が同時に解決できる。

2. ディスカッション

聞き手:笹川スポーツ財団研究員 小淵和也

<主なやりとり>

ディスカッションの様子

聞き手個人がボランティアとして障害者スポーツをささえていきたいと考えた場合、どのようなアプローチが適切か?

講師これが正解というアプローチはないが、まずは、障害者スポーツについて「知る」というプロセスをきちんと踏むことが重要。「知る」ことに時間をかけてから、どのような「関わり方」をしたいかを考えるというステップが適当と思われる。いきなり「関わり」を求めて、抱いていたイメージと現実とのギャップに戸惑う方も少なくないので。

フロア体格などで劣る日本代表チームが2016年のパラリンピックで活躍するために必要なことは?

講師体格のハンデに対抗しうる緻密な戦略。
先日の世界選手権では、健常者の日本代表チームのアシスタントコーチやNBAでのアシスタントコーチを経験されている方を戦略コーチとして招へいし、NBAなどで採用されている戦略を車椅子バスケに応用して組み立てた。世界でセオリーとされている車椅子バスケの基本理論のうえに、日本人ならではの緻密な戦略を構築していくことに挑戦している。今のところ、この挑戦は戦略的にはフィットしてきているとの実感がある。日本人特有の「調和」や「連携」などにいっそう磨きをかけたい。

フロアスポーツ施設を日本と海外で比較した場合、バリアフリー化の点で日本の施設に不足している点があればご指摘いただきたい。

講師欧米の施設の場合、バリアフリーへの配慮のあるなしに関わらず、そもそもの作りが大きい。例えば、日常用のものより幅の広い競技用の車椅子は、日本のドアは通れない場合が多いが、欧米の場合、ほぼそのまま通れる。トイレや更衣室などの作りも大きく、自然とバリアフリーになっているケースも少なくない。多機能化も重要だが、シンプルに解決が可能な側面もあると思う。

フロア本日お話しいただいた海外事例のように、日本においても、大学が障害者スポーツの発展を担えるようにするにはどのようなことが必要か?

講師2020年に向けて、保有しているリソースを有効に活用したいと考える大学は少なくない。スポーツ施設を車椅子バスケのキャンプなどで使えるようにするための助言を求められることもある。大学がキャンプや練習用施設を提供し、地域と連携して内外の関係者に周知啓発していくことができれば、まち全体の環境整備にも貢献できるのではないか。

以上

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