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国際情報
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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

スポーツアカデミー2015 第9回

スポーツアカデミー2015 特別編 ~SSF研究報告会~

2015年度の第9回スポーツアカデミーが2016年3月15日に開催されました。
今回は笹川スポーツ財団の高橋 光 研究員と上 梓 研究員が講師を務めました。

笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 研究員 髙橋 光

笹川スポーツ財団
スポーツ政策研究所 研究員
髙橋 光

地域スポーツとトップスポーツの好循環 ~総合型クラブの取り組み事例から~
髙橋 光 研究員

※以下の報告は、別掲の当日資料と合わせてご覧ください。

主な講義内容

2012年に策定されたスポーツ基本計画の、一つの政策目標を達成するため、文部科学省(以下、文科省)は「地域スポーツとトップスポーツの好循環推進プロジェクト」事業を始め、主に総合型地域スポーツクラブ(以下、総合型クラブ)へ委託した。当該事業における「トップアスリートの巡回指導」と「小学校体育活動コーディネーターの派遣」の2つの取り組みを調査した結果を報告する。

1. トップアスリートの巡回指導

事業を受託した総合型クラブ(以下、受託クラブ)が地域にいるトップアスリートを集め、近隣の子ども達が通うスポーツ団体や学校運動部活動へ巡回指導にあたってもらう取り組み。

(1)巡回指導の現状
笹川スポーツ財団は今回の調査により、どのようなアスリートがどこで指導していたのかを明らかにした。巡回指導者として「総合型クラブと関わりのない地域スポーツ指導者」を確保したクラブが61.5%と最も多く、次いで「企業スポーツ・プロスポーツチームの指導者」が57.7%であった。競技種目は「サッカー」が54.2%と最も多く、「陸上競技」が50.0%と続いた。巡回指導先は「小中学校」が83.3%、「総合型クラブ」が72.9%、「スポーツ少年団」が60.4%であった。

(2)「Yu-Gaku加茂スポーツクラブ」の事例=島根県雲南市
休部となった島根三洋電機ソフトボール部のメンバーで構成されるTEAM-DANDAN所属の選手たちが、市内の中学校・高校・スポーツ少年団に平均月1~2回巡回指導した。
また、バスケットボールのプロリーグ、bjリーグの島根スサノオマジック所属の選手には、シーズンオフに中学校・スポーツ少年団・総合型クラブで計10~12回、バスケットボールの指導にあたってもらった。クラブが近隣の学校やスポーツ団体との関係を一から築き上げ、本事業を実現した。

2. 小学校体育活動コーディネーターの派遣

小学校の体育の授業を充実させるため、授業計画づくりの補助や授業中に動作の手本を示す"小学校体育活動コーディネーター"を受託クラブが派遣する取り組み。

(1)活動の現状
どのようなコーディネーターが活動しているのかを調べたところ、受託クラブの指導者・スタッフが79.7%と最も多く、地域スポーツの指導者が59.3%と続いた。コーディネーターの派遣先の数と派遣回数のそれぞれの年間平均は、1クラブあたり9.1校、983.1回(1回=授業1コマ)であった。

(2)「希楽々(きらら)」の事例=新潟県村上市
2013年度は43人のコーディネーターを市内17校に派遣した(村上市の小学校は20校)。派遣回数は3,356回で、主にスキー、陸上競技、水泳の授業を支援した。コーディネーターの育成を図るため、新しいコーディネーターは経験者に同行させた。

3. まとめ(事業の成果)

総合型クラブが事業の受け皿となり、優れた経験と技術を有するトップアスリートを発掘できたこと、地域の子どもたちにより良いスポーツ環境を提供できたことが事業の成果としてあげられる。事業に財政的な裏付けを与え、どう継続させていくかが今後の課題である。

笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 研究員 上 梓

笹川スポーツ財団
スポーツ政策研究所 研究員
上 梓

障害者のスポーツ環境づくりのための大学の取り組み ~海外事例調査から~
上 梓 研究員

※以下の報告は、別掲の当日資料と合わせてご覧ください。

主な講義内容

笹川スポーツ財団では、2012年度から14年度にかけ、「地域における障害者のスポーツ・レクリエーション活動に関する調査研究(文部科学省受託調査)」、2015年度に「障害者のスポーツ参加促進に関する調査研究(スポーツ庁受託調査)」を実施。その中で実施した「諸外国における障害者のスポーツ環境に関する調査」について報告する。

1. 障害者スポーツにおける大学が担う主な役割

障害者スポーツにおいて、大学は自前の施設や人材などを活用し、障害者アスリートや指導者の育成、障害や障害者スポーツに対する理解の促進、研究・医学的サポートなどを担うことができる。わが国においても、立教大学の室内プールは障害者水泳の練習拠点として利用され、青山学院大学の陸上部は盲人マラソンの伴走者の育成に取り組み始めた。和歌山県立医科大学は障害者スポーツの医科学研究活動の拠点になっている。

2. イギリスのウスター大学の取り組み

(1)障害者スポーツ指導者養成学科
学生が地域で教育実習をした際、クラスの障害児が体育の授業では審判や得点係を任され、スポーツを楽しめていないことが問題視された。学生が健常児も障害児も学校体育に参加できるよう教員養成カリキュラムに障害児の運動・スポーツの指導法を追加するべきではないかと大学側に提案したことをきっかけに、1999年より「障害者スポーツ」の12週間のコースがスタートした。2011年からは、学位が与えられる3年間のプログラムとして実施している。同校は学生数1万人のうち約1割が何らかの障害がある学生である。

(2)人材育成
大学が地域のスポーツクラブと連携し、ボランティアや実習の一環として学生をクラブに派遣。重度の障害児・者を対象にリラクゼーションプログラムを提供する慈善団体や、サッカープレミアリーグのウェスト・ブロムウィッチ・アルビオンFC傘下のアルビオン障害者スポーツクラブで、水泳や電動車いすサッカーなどを指導。

(3)障害者スポーツと街づくり
ウスター地域では、大学を拠点として、障害者が住みやすい、学びやすい、スポーツをしやすい環境づくりに取り組んでいる。大学内の施設をバリアフリー化し、身体障害者に限らず、発達・学習障害がある学生にも必要に応じた授業支援を用意するだけでなく、卒業後の雇用などにおいても障害者が健常者と同じような生活を送ることができるよう街づくりが行われている。

3. カナダのアケィディア大学の取り組み

(1)S.M.I.L.E.プログラム(Sensory Motor Instructional Leadership Experience)
1982年に運動療法学の受講生向けの実習としてスタートした同プログラムは、障害者・児の運動スキルの習得、知覚機能の向上、他者との信頼関係の構築を目的とした社会参加/社会復帰のためのリハビリテーションプログラムである。近隣の学校や施設から自閉症、知的障害、脳性まひなどの障害児・者280人が参加している(2015年)。

(2)学生ボランティア
学生数約4,000人のうち2015年は600人がボランティアを希望。抽選が行われるほど人気の高いプログラムとなっている。学生は障害がある参加者とペアを組み、16週間にわたって活動する。プログラムの質の維持・向上および参加者に関する情報共有のため、トレーニングセッションと定例の打ち合わせが行われている。ボランティアを経験した学生には、卒業後、地域で福祉・スポーツ分野で活躍する者も多数いる。

4. まとめ

歴史、文化、地域性などの多様な背景が影響することから、必ずしも海外の大学の取り組み事例を直接日本に導入できるとは限らない。今後はこれら海外の事例を参考にして、日本型モデルをいかに構築していくかを検討する必要がある。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを契機に、大学が人材と施設を活用して障害者スポーツの振興に取り組み、地域と障害者をつなぐ橋渡し役を担っていただきたい。