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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

スポーツアカデミー2016 第5回

部活動の社会的意義と課題

2016年度第5回目のスポーツアカデミーが12月1日に開催されました。
今回は首都大学東京都市教養学部人文社会系准教授の西島 央 氏にご講義いただきました。

【当日の概要報告】

※以下の報告は、別掲の当日資料と合わせてご覧ください。
首都大学東京都市教養学部人文社会系准教授 西島 央 氏

首都大学東京都市教養学部人文社会系准教授
西島 央 氏

主な講義内容

中学校、高校における部活動の指導が教員の負担となり、教員から改善を求める声が強まるなど部活動が問題視されるケースが増えている。今回は昨今の部活動における問題点、部活動の意義を明らかにし、今後のあるべき姿について考える。

1.部活動のあり方をめぐる昨今の動向

(1)教員の労働時間の国際比較
OECDの調査*によると、教員の1週間あたりの総労働時間は参加国平均が38.3時間なのに対し、日本は53.9時間。課外活動指導にあてる時間の参加国平均は2.1時間。日本はその4倍近い7.7時間だった。日本の課外活動指導の多くは部活動の指導と推測される。
*国際教員指導環境調査(TALIS:Teaching and Learning International Survey)学校の学習環境や教員の勤務環境などに関する国際調査

(2)教育現場からの声と国の動き
部活動の改善を目指す公立中学校教員など有志数名による任意団体「部活問題対策プロジェクト」が、2015年末よりSNSを使って部活動指導の負担を改善する署名を集めたところ1万人を超える署名が集まった。今年6月には文部科学省も、休養日設定の徹底、外部指導員の導入、複数の顧問教員の設置などを盛り込んだ部活動運営に関する新たな方針を示した。また、次期学習指導要領等の策定に向けては、単独ではなく複数の中学校を含む一定規模の地域単位で部活動を支える体制を構築すること、生徒のバランスのとれた生活や成長に配慮すること、教員の負担軽減の観点も考慮することなども検討されている。

(3)改善策の問題点
外部指導員制度の問題点は、指導員を確保できる地域、できない地域が生じること、外部指導員設置にかかる費用はどの地域においても大きな負担となることなどがあげられる。 また、休養日を多くした場合、生徒たちが放課後の時間を過ごす受け皿不足が課題となる。複数顧問制についても、限られた人員でそれを成立させることの難しさがある。学校以外の個人・団体(外部指導員や民間クラブなど)と連携する場合、そのために多くの書類を作成したり、密に連絡を取ったりすることが求められ、教員の負担軽減になるのか未知数である。

2.部活動の歴史的経緯

1980年代にゆとり教育が導入されて授業時間が減り、クラブ活動の時間を授業時間内にとることが難しくなった。そこで週1時間のクラブ活動を放課後の部活動でまかなう部活代替制度が一部で始まった。1989年版学習指導要領でこの制度が認められたため、有志だけが参加していた放課後の部活動に全生徒が参加する必要が生じ、より多くの教員が部活動に関わるようになった。1998年版学習指導要領で、授業内のクラブ活動が廃止され、全員が部活動に参加する必要がなくなったあとも、部活動が廃れることはなく、教員の負担も軽減されなかった。

3.部活動の社会的意義と課題

(1)部活動の社会的意義
部活動への参加は、競技力や技能の向上を主要な目的にしていると思われがちだが、それだけではない。我々が過去におこなった調査結果を見ても、友人をつくったり、放課後や週末の居場所をつくったり、各家庭の経済状況による文化的な格差を縮減する役割も担っていることがわかる。人間が健康的で幸福な生活を送るうえで、スポーツや芸術は大きく寄与しており、部活動を通じてそうしたものに触れられるという点に社会的意義はある。

(2)部活動の課題
どの意義や役割を重視するかで部活動のあり方は変わってくる。毎日厳しい練習をすることは競技力の向上には役立つが、友だちづくりや、卒業後の生涯学習に取り組むきっかけになるかといえば、必ずしもそうならない可能性がある。意義や役割を理解した上で、部活動のあり方を考える必要がある。

4.社会におけるスポーツ・芸術活動

日本の社会は、スポーツや芸術に触れる機会の多くを学校に依存している。学校を卒業すると、スポーツや芸術に親しむ場がないという例も少なくない。スポーツや芸術に親しむ場を社会として提供できるよう、考えるべきではないか。教員への調査では、部活動の指導は学校以外に任せ、活動の場として学校を提供する、という案を押す声も多かった。 スポーツや芸術活動のあり方は、地域社会によって違っていてよい。一方、各地域においてスポーツや芸術活動に関わるさまざまなアクター(自治体、競技団体・芸術団体、総合型地域スポーツクラブなどの社会教育関係団体、スポーツクラブや音楽教室などの民間企業)が、以下の点に留意していくことで、部活動をとりまく環境の改善が図れていくのではないかと考える。

  1. スポーツや芸術の裾野の拡大、競技力や技能の向上が部活動に依存されていることへの認識
  2. 部活動が担っている意義や役割をどのように分担するかを考え、取り組むこと
  3. スポーツや芸術には社会的な役割があるから存在しているという側面をもっと評価し、社会的責任をどのように果たしていくべきかを考え、取り組むこと
  4. さまざまなアクターからなるそれぞれの地域社会にふさわしい、スポーツや芸術活動の場を共同でつくっていくこと

ディスカッション:主なやりとり

Q.(フロア)定年退職した教員を再雇用し、課外活動をサポートすることは有効か?
A.

(講師)少子化により1学年6クラスあった学校が2クラスになるなどして、学校に空き教室が生じているケースが少なくない。退職した教員がそうした空き教室を使って、午前中は高齢者向け、お昼からは専業主婦向け、3~4時からは小学生や中学生向け、夜は勤め帰りの社会人向けのプログラムを実施するなどは十分考えられる。

以上