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国際情報
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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

スポーツアカデミー2019 第3回

選手が主役!一人ひとりが自ら考え、積極的に行動する力を引き出すために
~人間力を育成するためのボトムアップ理論~

2019スポーツアカデミー・運動部活動シリーズ
講師
畑 喜美夫 氏(一般社団法人ボトムアップパーソンズ協会 代表理事)
会場
日本財団ビル会議室
畑 喜美夫 氏

畑 喜美夫 氏

主な講義内容

当時、広島観音高校サッカー部の顧問に就任した畑氏は、選手たちの自主自立性を重んじたボトムアップ型の指導でチームをインターハイ優勝に導いた。ボトムアップ理論のキーワードを掲げながら説明する。

■根が丈夫でないと木は育たない

人目につかない部分は頑張っても評価されにくいので、多くの人がないがしろにしがちだ。しかし木と一緒で人も組織も見えないところがしっかりしていないと何かあったときにつぶれてしまう。部室をきれいにし、自宅の勉強部屋を整理整頓する理由はそこにある。あいさつ、掃除という単調な作業を根気強く続ける必要がある。

■観察

どういうタイミングで子どもたちに話しかけるか。子どもたちをよく観察し、現場で学ぶ。子どもから教えてもらえることがたくさんある。「教えない、解説しない」もキーワード。選手の判断する機会を奪わないために、あえて教えない指導もある。

■トップダウンとボトムアップ

トップダウンは上意下達で監督主導、指示命令、管理方式。行き過ぎると体罰、暴力、パワーハラスメントにつながる危険性がある。ボトムアップは現場主導で下から意見を吸い上げていき意思決定する。ボトムアップ理論の方が生産性の向上につながる。

■見て、感じて、気づいて、実行する

「ごみが落ちているから拾え、壁が汚れているから掃除しろ」。これはトップダウン。感性が上がってくるとごみが落ちていれば自然に拾い、壁が汚れていれば自然に掃除するようになる。
見返りを求めずに動けるようになれるかが大事。見返りを求める選手はパスがこないと「何でパスを出さないんだ」となるが、見返りを求めない選手は9本パスがこなくてもスペースに飛び込み続け、1本きたパスでシュートを決めることができる。

■トップダウンとボトムアップの融合

トップダウンとボトムアップは二者択一ではない。私の場合はトップダウンが2、ボトムアップが8という割合。大きなミッション、ビジョンはトップダウンで落とし込む。そこから指導者は徐々に距離を置き、あとは選手たちで考え、自立型の組織を促す。

■人間力

気力、知力、体力、実践力、コミュニケーション力。勉強(知力)が苦手でも社会に出たら実践力がものをいうことも多い。人間力を構成する5つの要素をバランスよく育てていくことが大事。

■時短練習

部活動のガイドラインにより、練習時間が少なくなったと嘆くのではなく、この中でやっていこうと前向きに考えることが大事。働き方改革もしかりで、休みが多くなればその中でいかに効率的に仕事をし、成果を出していくかを考える。

■終わりを決める

赴任していた安芸南高校は全体練習が週2日で午後5時半に部活動が完全に終わる。終わりが決まれば始まりも決まる。グズグズしていたら好きなサッカーを楽しむ時間が減ってしまう。そう考えると効率的になる。安芸南高校は県の一番下に位置する4部からスタートして、5年で県ベスト8に入った。

■チームの規律

たとえばカンニングが発覚した場合、その選手は学校から指導を受けるが、サッカー部としても何らかの指導をする。何か問題が起きたときは学年ごとや、グループごとに、選手たちで問題を解決させるようにする。指導者は観察する、見守る、気づかせる。

■ 24時間をデザインする

1日24時間を自分自身でコーディネートできないといい選手になれない。日常生活の大切さを小学校のときから説いていく必要がある。

■チャレンジなくして成長なし

挑戦そのものを否定してはいけない。挑戦=成功というイメージをしっかり持つこと。失敗は挑戦しないこと。最初に勇気をたたえて、別の選択肢があったことを示してあげる。挑戦をほめる習慣を身に着け、挑戦しやすい環境を作る。

■可能性を見て指導する

つい限界のふたをしてしまいがちだが、指導者は可能性を見て「キミならできる」と言ってあげないといけない。可能性は未来の力。

■強気、冷静、ワクワク

パフォーマンス向上のキーワードは強気、冷静、ワクワク。いかに練習をワクワクさせるか。気持ちのいい現場を作るか。笑顔が増えれば組織力も高まる。

■風土改革

人は組織のルールではなく、風で動く。いかにいい風をチームに吹き込むか。ディズニーランドのように周波数の高いところに行くと人はワクワクする。
周波数の低いところに行けば気持ちは沈む。周波数の高い人のところに周波数の高い人たちが集まる。
指導者がポジティブに構えていると、選手もポジティブになる。

■選手の3本柱

あいさつ、返事、後片付け。後片付けは心を整える。
8年前の安芸南高校のサッカー部は部室が汚かった。
掃除の素晴らしさ、楽しさを覚えていくと、心も磨かれる。四畳半の部室をきれいにできなくて、ピッチの中を整えることはできない。

■組織の3本柱

量より質、信頼、自主自立。週3日、週2日の全体練習で質を求める。
信頼は20年間欠かさず続けた生徒との交換ノート作り。自主自立のキーワードは自分で決める。自分で決めると、監督が決めるよりはるかにパワーが出る。

■ミーティング

発言の仕方と受け止め方に注意する。批判、攻撃、文句はNG。提案、アドバイス、勇気づけを心掛ける。
聞くときは変なプライドを捨て、過大評価、過小評価に気を付ける。ハーフタイムで相手チームと合同ミーティングをすることもある。
お互いに意見を出すと何がよくて、何が悪いかがよく分かる。自分たちだけでは分からなかったことが分かってくる。

■ファシリテーション型リーダーシップ

俺についてこいではなく、中立的な立場で、みんなの意見を抽出しながらチームを導いていくリーダーシップ。
ミーティングではファシリテーター、書記役、フォロワーの3つの役を用意し、すべての選手がファシリテーターを務める。
これにより人前で話せるようになり、聞けるようになり、考えるようになる。

ディスカッション:主なやりとり

Q.(フロア)いまジュニアを教えているが、小学校3 年生以下はどのように教えればいいのか。
A.

(講師)その年齢の子どもたちにできそうな領域を作って、そこを任せてあげればいい。1、2年生なら選手たちに試合をするメンバーを決めさせても面白いかもしれない。最初は仲のいい子だけで集まって、試合をして10-0で勝ったとしたら、きっと「これで練習になるのか」と考えるようになる。トライ・アンド・エラーをしながら成長してくことが大事。うまくいかないことを作ってあげることも成長につながる。

Q.(フロア)観察をするときに意識すること、ヒントを教えてほしい。
A.

(講師)動き出す瞬間を意識している。その瞬間を考えないで「おい、こうやったらうまくいくだろ」と言ったら選手の判断、行動、想像を奪ってしまうことになる。だから動き出す瞬間を計りながら観察する。選手がいい動きをしたら承認する声を出してあげることも大事だと思う。