COLUMN
スポーツ・ボランティア論

都市をあげて開催するロードレースなど、大規模なスポーツイベントには、多数のボランティアによるホスピタリティ溢れる大会運営が不可欠である。同時に、長野五輪・日韓サッカーW杯・東京マラソン等の実現により、今後は「する」スポーツのみならず、「支える」スポーツの振興が、新たなスポーツへの参画方法としてその認知度向上に貢献することは明白である。3回連載でスポーツ・ボランティア論を展開するとともに、笹川スポーツ財団が推進するスポーツボランティア・リーダー養成研修会の試みを紹介する。

第1回 『スポーツボランティア』の現在そして将来 07.11.06

「スポーツボランティア」という言葉の認知を夢見て

本コラムの表題が「スポーツ・ボランティア論」と表示されたことに表れているように、「スポーツ」と「ボランティア」2つの単語は、並列されていると考えるのが一般的な理解です。「スポーツボランティア」が一つの単語として、広く認知されているとはまだいえません。

しかし私は、近い将来、これが一つの単語となって「・」なしに表記されることを期待しています。当然、辞書にも「スポーツボランティア」の意味が、単語として明記されることを夢見ている一人です。

また、「スポーツボランティア=スポーツアルバイト」と理解されている向きもあるようです。ボランティアとアルバイトとの違いは、ボランティア活動は積み重ねていくと高い評価が得られるのに、アルバイトは提供した時間や労力がどんなに積み重ねられても、評価の対象にはなりません。こんなところが今日の日本のスポーツボランティア理解の基本ではないでしょうか。

「ボランティア」の3原則は、「自主性・無償性・公益性」であります。当然、「スポーツボランティア」にもこの柱は貫かれています。ここ数年、スポーツボランティアに携わってきた経験から、私が特に重要と考えることは、ボランティアを志す人々の組織化です。個人だけではスポーツボランティアは成り立ちません。そして組織にはリーダーが必要です。「組織の運営・管理」とリーダーを含めたメンバーの「資質向上」を軸として初めて、「スポーツボランティア」の活動が可能となるのです。これを以下にまとめてみます。

・  概念:各種ボランティアと同様、基本の3原則に「継続性と先駆性」という2項目を加えて、5原則とします。
・  目的:スポーツに関連する各種支援において、ボランティア活動をもって充実および満足を得ることを目的とします。
・  組織:心ある(ボランティア精神、心がけなど)仲間が、任意団体やNPO法人などの組織を軸に、活動を展開します。
・  活動:資質向上につとめる一般メンバーと、資格認定されたリーダーによって役割分担された枠組を展開することと、
支援者(イベント主催者や協賛者など)の啓蒙、教育、研修活動を継続実施すること。

「東京マラソン」とスポーツボランティア

日本におけるスポーツ自体が未成熟であることは、関係者の多くの方々が指摘しているところです。そのスポーツに対して「ボランティア」による活動を啓蒙、普及しようとするならば、「スポーツボランティア」には当然、「スポーツ」そのものも成熟するような方策を、同時進行で仕掛けていかなければならないと考えます。

幸いなことに、2007年2月に「東京マラソン2007」が荒天のなか開催され、ランナー3万人(フルマラソンと10km合わせて)が参加し、完走率96%を超えるという好結果を出しました。日本の首都「東京」で「マラソン大会」が開催されたことは、スポーツの可能性への再確認を促し、スポーツへの関心者を増加させる誘因ともなり、このことがスポーツボランティアへの理解を深めることにもなったのです。

そのことは、今日、指導現場での直接的な感触として、初心者対象の「ランニングクラブ」が、3年前から全国的規模で設立されたことにも表れています。その中の一つ、東京都心のクラブの例ですが、募集1ヶ月にもならないうちに数百人がエントリーしたこと、そのうち未経験者が半数以上にものぼったことに驚きを感じています。彼らが本当の意味でのスポーツファンとなってくれるか否かは、今後の現場の技量次第であるかもしれないのです。

次回「東京マラソン2008」(2008年2月17日開催)の準備の一つとして、「スポーツボランティア募集、約1万2千人」が目標とされましたが、実は、募集開始から約1ヶ月で定員に達し、募集終了となりました。これは、笹川スポーツ財団(SSF)はじめスポーツボランティア関係の活動の成果と考えています。手前味噌ですが、「スポーツボランティア」への関心がようやくここに高まりつつあるといえるでしょう。

これに並行してSSFとNPO法人「NSVA(日本スポーツボランティア・アソシエーション)」と合同で開催した「スポーツボランティア・リーダー養成研修会」に、400人を超える応募があったことも報告しておきます。これもまた、いよいよ日本でも「スポーツボランティア」への理解が深まり、大きく広がりを見せてきた兆候と理解したいところです。

スポーツボランティア・リーダーの育成

約3年前から前出2団体は毎年「スポーツボランティア・リーダー養成研修会」を実施し、200人を越える認定者を輩出してきました。本年2007年度は、2月18日に開催された「東京マラソン2007」のボランティア経験者を対象に募集しました。

応募してきたスポーツボランティアは400人以上。講義内容は、実地経験者であることを鑑み、まず「ボランティア」の3原則(自主性、無償性、公益性)に先駆性、継続性が加わる5原則の再確認をしました。そしてSSFの経験と豊富なデータによる情報をもとに、スポーツボランティアの現実や理想像を紹介するという内容でした。

認定については、これまでのいろいろな認定研修では、参加した時間を満たすと自動的に「認定証」が交付され完了、というケースが多く見られました。しかし本研修は、単に講義を受講し実習を重ねただけでの認定はしていません。受講後に「レポート」提出を課し、その評価と実習研修の評価を加えて、「審査委員会」が判定をする形を取りました。中にはレポート再提出を経て認定されるケースもありました。こうした形に至った背景には、NSVAが独自に設立した「日本スポーツボランティア学会」(2003年12月設立)が、これまでに毎月開催している「勉強会」の成果を踏まえて実施された計画がありました。

現段階での理論的確立は至難の作業でありますが、長年にわたるスポーツ先進国の実績に追いつくべく開拓者としての努力が欠かせない状況と考えます。それには、スポーツボランティアの普及や啓蒙が不可欠であると機会あるごとに声にし、そうした機会を意識的に創造して進むべき時期と考えています。こうした活動が実を結んだとき、「スポーツボランティア論」が示せるのではないでしょうか。

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WRITER PROFILE

宇佐美 彰朗(うさみあきお)

東海大学教授、NSVA理事長。新潟県出身。 日本スポーツ賞、日本学生陸上競技連合功労賞受賞など多数賞を受賞。
1968年メキシコ、1972年ミュンヘン、1976年モントリオールの3回連続、五輪マラソンに出場。2003年2月には、NPO法人日本スポーツボランティア・アソシエーションを設立、マラソンやロードレースイベントのみならず、多くのスポーツイベントにおけるボランティア活動の充実と組織化を通じたスポーツ振興に取組んでいる。

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