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オリンピックの経済レガシーと地方創生

三﨑 冨査雄           【 レガシー コラム 経済 】

ロンドンオリンピック期間中にライトアップされた五輪マーク(2012)

ロンドンオリンピック期間中にライトアップされた五輪マーク(2012)


  小池新都知事のもと、2020年東京オリンピック・パラリンピックの大会開催費用が最大3兆円を超える可能性があるということで、一部の競技会場の見直しが取り沙汰されてきた。一部の競技が東京から離れた地方部で行われる可能性もあるということで、東京周辺に留まらない、地方での経済効果を期待する声もあった。
  安倍政権の掲げる「地方創生」の推進と相俟って、競技の開催はなくても、2020年大会の経済効果の恩恵にあずかろうとしている地方自治体は多い。特に、「訪日外国人観光客の地方への誘客」と「各国選手団の事前キャンプの誘致」は、いずれの地域もが掲げる定番施策である。ただし、どちらの取組も地方にとってそれほどの経済効果があるとは期待できないし、経済レガシーにもなり得ない。

 
ロンドンオリンピック・国旗を持つ地元イギリスのサポーター(2012) ロンドンオリンピック・国旗を持つ地元イギリスのサポーター(2012)

  まず訪日外国人観光客であるが、2020年夏のオリンピック・パラリンピック開催期間中は、飛行機代・宿泊費の高騰や混雑を嫌って間違いなくその直近の数字よりも減少するだろう。実際にロンドンオリンピックが開催された2012年7月から8月の訪英外国人数も対前年同月比で約6%減少した。このような時期に敢えて高い旅費を払ってでも東京を訪問する外国人は、大会関係者かメディア関係者か、余程のオリンピック好きがその大半であって、彼らが東京に来たついでに観光のために地方へ足を延ばすことは考えにくい。 ロンドンオリンピックでも地方を訪問した観戦客は極めて少なかったというデータが残っている。

 
リオデジャネイロオリンピック閉会式でオリンピック旗が次期開催都市東京小池知事に引き継がれた(2016) リオデジャネイロオリンピック閉会式でオリンピック旗が次期開催都市
東京小池知事に引き継がれた(2016)

  次に、各国選手団の事前キャンプ誘致も、政府が「ホストタウン構想」を推進するなど国を挙げた取り組みとなっているが、国際交流の促進や経済効果といった成果に結びつけるのは容易ではない。2002年のサッカー日韓W杯でも、数多くの自治体が相当の費用負担を行う形で各国代表選手団の事前キャンプ誘致を実現したが、カメルーン代表のキャンプ地となって全国的に有名になった大分県中津江村以外で、芳しい成果やレガシーを残した地域はほとんどなかったと言えよう。オリンピックはサッカーW杯と異なり、複数競技の大会であることから、当該国のNOC(国内オリンピック委員会)がキャンプ地を決めても個々のNF(国内競技団体)が別の場所にキャンプするようなケースも少なくない。その国の選手達が皆、合宿に来てくれることを宛てにしていても、実際には契約した事前キャンプ地に来ない可能性も高いのである。

  むしろ、何が経済面でのレガシーとなり得るのだろうか。東京と同様に成熟都市で開催されたオリンピックとして、ロンドンの例が参考になろう。オリンピック開催期間中の訪日外国人数は確かに減少するだろうが、ロンドンの場合、オリンピック開催によりロンドン並びに英国の地域ブランドが向上した影響で、閉会後の2013年以降の訪英外国人数は年率5%以上増加し、外国人旅行客の消費額も過去最高を記録し続けている。東京大会においても、2020年夏のタイミングで東京を訪問した外国人を地方に誘客することを考えるのではなく、オリンピック開催地として注目を集める2020年までの間に日本への関心を高く持ってもらい、2020年以降の日本全体での外国人観光客を増やすとともに、地方への誘客にいかにつなげるかを考えるべきであろう。

 
FIFAワールドカップ韓国・日本大会で優勝したブラジルチーム FIFAワールドカップ韓国・日本大会で優勝したブラジルチーム(2002)

  ただし、観光需要の増分も、オリンピックがもたらす経済効果全体に占める割合は限定的である。ロンドンオリンピック開催による2004年から2020年までの経済効果400億ポンド(英国文化メディア・スポーツ省の推計)のうち、観光需要の寄与分は1%に満たない。公共投資による効果も全体の約4分の1であり、それより大きいのは全体の半分を占める「貿易と対英投資の増分」である。要するに、公共投資や観光需要の拡大以上に、オリンピックを契機に英国企業が海外企業と取引を開始・拡大したり、外国資本が英国に投資をしたりするといった効果のほうが相当大きく見込まれたというわけである。確かに、一過性の観光客よりも継続的なビジネス上の関係を中長期に渡ってきちんと作り上げていくことのほうが、効果的な経済レガシーになり得るだろう。

  具体的にどう進めるか。2020年の東京大会は、世界の投資家や企業経営者、政府高官等の要人に訪日してもらう絶好の機会であることから、地方においても、ビジネスカンファレンスの開催など様々な手段を通じて、地元企業と海外企業とのビジネスマッチングや地元への対日直接投資の呼び込みを進めて行くといった方策が想定されるだろう。

  小池新都知事が所信表明演説で示し、記者会見でもよく使われるキーワードに「ワイズ・スペンディング」がある。賢く支出して税金を有効活用しなければならないという意味だが、必要でない支出を徹底的に抑えるという考え方に過度に縛られることなく、むしろ、その後の充分な効果を生みだすものかどうかを吟味した上での「賢い支出」を、地方自治体には期待したい。

 


三﨑 冨査雄

株式会社野村総合研究所 コンサルティング事業本部 パートナー

 

 

        
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