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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

オリンピックと大学連携

【オリンピック・パラリンピックのレガシー】

2017.10.19

2014年6月に東京で開催された「大学連携協定締結式」 前列中央が森組織委員会会長

2014年6月に東京で開催された「大学連携協定締結式」 前列中央が森組織委員会会長

大学連携プログラムというのは、全国の大学・短期大学と東京オリンピック・パラリンピック組織委員会が各校個別に協定を結んで2014年に始めたプログラムである。これまでに日本にある大学や短大のおよそ800校が組織委と協定を結んでおり、連携校は全国に広がっている。

2016年には組織委幹部が各地方を回りブロックごとに大学関係者や学生と「地域巡回フォーラム」を開いて具体的な内容を話し合った。そしてオリンピックに向けてグローバル人材の育成やオリンピック教育の推進、各大学の特色を生かした広報やイベント活動を進めることなどを具体的な目標として掲げるに至った。

グローバル人材の育成に最も熱心なのは外国語大学だ。神田外語大や東京外語大など全国7つの外語大は「全国外大連携プログラム」を結成し、学生をリオデジャネイロに大会ボランティアとして送り出すなど、2020年の大会中に通訳に特化したボランティアを出すことをめざし活動を進めている。

教育の面では、大学においてオリンピック講座やパラリンピック講座を開設したり、大学が地元の小中学校でのオリンピック教育を支援するなどの活動が行われている。スポーツ科学系や教育系の学部を持つ大学が中心であるが、女子大がスポーツのジェンダー論を取り上げたり、法学部がスポーツ法の講座を設けた例もある。

2012年ロンドンオリンピックで、オリンピックパーク内に設置されたオリンピック エンブレムをかたどったモニュメント

2012年ロンドンオリンピックで、オリンピックパーク内に設置されたオリンピック エンブレムをかたどったモニュメント

全ての大学にオリンピック・パラリンピックに詳しい講師がいるわけではないので、講義の内容により組織委の幹部や職員が出向いたり、オリンピック研究の団体である日本オリンピック・アカデミー(JOA)の会員が講師になったりして大学の求めるテーマに対応している。

2016年度には大阪、京都、金沢などの大学も含め34回の講義が行われたが、地域的にみれば東京とその周辺に偏っているのは否めない。

講義の内容は、国際スポーツ・イベント開催国として解決すべき法的課題(一橋大学)、オリンピックと法律学(武蔵野大学)、オリンピックにおけるアンチ・ドーピング活動(早稲田大学)、スポーツ・ホスピタリティ(亜細亜大学)、選手村の運営(女子栄養大学短期大学部)、イベント運営論(近畿大学)、スポーツイベントを哲学する(東洋大学)、キャラクターコンテンツマーケティング(デジタルハリウッド大学)、他者との共生・パラリンピックから見える他者(フェリス女学院大学)などさまざまな学の分野にわたっている。

こうした中で気になるのは、研究と教育の先端を走っているはずの旧七帝大の動きが鈍いことだ。東京大学は「スポーツ先端科学研究拠点」を作ったものの、教養学部やメディア研究の拠点である情報学環では何の動きもない。リオデジャネイロのオリンピックには京都大から女子ラグビー、名古屋大から陸上競技で卒業生が選手として出場したにも関わらず、両大学で応援の気運は盛り上がらなかった。七帝大のスポーツは教養課程の実技と体育会の活動としてのみ認識されているのではないだろうか。

スポーツやオリンピックというのは、いわば「窓」である。それを通して政治、法、ビジネス、経済、社会、外交、文化、テクノロジーなどあらゆる分野が見えるのが現代のスポーツであり、身体運動と遊戯とのみ位置づけて教育政策をつくった明治時代からスポーツは大きく変わっている。だからこそ連携大学での講義内容が多岐にわたっているわけだ。

2016年9月に開催されたリオデジャネイロパラリンピック閉会式での2020東京大会のメッセージ

2016年9月に開催されたリオデジャネイロパラリンピック閉会式での2020東京大会のメッセージ

組織委員会では事務総長、副事務総長を初め多くの旧七帝大出身者が大会の成功に向けて努力している。一方で、その出身校がオリンピックを研究や教育の対象として顧みようとしないのは学の驕りではないだろうか。かつて単独講和論に反対する南原繁東大総長を「曲学阿世の徒」と呼んだ吉田茂元総理が生きていたら、いまの教員たちに「旧套墨守の徒」とでも言ったのではなかろうか。旧七帝大には大学連携のプロジェクトを機にオリンピック・パラリンピックに関係する学問領域の開拓と展開を考えてほしい。

スポーツ歴史の検証
  • 藤原 庸介 流通経済大学スポーツ健康科学部准教授

    東京都世田谷区出身、東京大学経済学部卒業 日本放送協会(NHK)に入社し報道局外信部記者 ローマ支局長 アトランタ支局長、報道局スポーツ・チーフプロデューサーなどを歴任。NHK在職中に国際オリンピック委員会(IOC)ラジオ・テレビ委員を8年間務めオリンピック映像のネット配信の基本ルール作りに携わる。2005年NHKを早期退職し中国北京市政府の外郭団体「北京奥林匹克轉播有限公司」(北京オリンピック放送機構)放送情報部長に就任、北京オリンピック後の2009年から10年間日本オリンピック委員会(JOC)理事を務めたほか、2013年に暴力問題で揺れた全日本柔道連盟の理事となり組織改革を実施した。