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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

2020東京大会のボランティアレガシーとは何を意味するのか?

【オリンピック・パラリンピックのレガシー】

2017.11.06

1964年東京オリンピック開催決定の知らせを受けて 喜ぶ招致関係者(1959年5月)

1964年東京オリンピック開催決定の知らせを受けて 喜ぶ招致関係者(1959年5月)

1959(昭和34)年5月25日からミュンヘン(旧西ドイツ)で開かれたIOC総会において、1964(昭和39)年の第18回オリンピック競技大会の東京開催が決定した。

開催決定当時、青少年犯罪等の深刻化していた青少年問題に呼応する形で「オリンピック青少年運動」が重要視され、その具体的な取り組みとして「スポーツによる青少年の育成」が議論されるようになった。

具体的には、「オリンピック青少年運動推進準備委員会」において「スポーツ少年団」の必要性が議論され、1962(昭和37)年6月に発足した。

このスポーツ少年団の団員は、紛れもなく1964年(昭和39年)10月10日に開幕した東京オリンピック支えたボランティアの一人である。当時、日本社会におけるボランティア活動の多くが、社会事業と関連した奉仕活動、慈善的、恩恵的な活動と理解されていた。よって、64年のオリンピックにおいてボランティアという用語は積極的に使われていない。しかし、かれらは国旗掲揚等の業務を大会組織委員会より正式に委嘱され、しっかりと活動を果たした。スポーツ少年団は1964東京大会の組織的レガシーとされているが、そこにはボランティアレガシーも重なっていることを忘れてはならない。

2016年に笹川スポーツ財団が実施した「スポーツライフに関する調査」によれば、2020東京オリンピックでのボランティア実施希望の推計人口は1,084万人、パラリンピックでは967万人に上るそうだ。もちろん全国の18歳以上の人口をベースに推計したものであるので、地方別には大きな差があるかもしれない。しかし、この結果の興味深いところは、年代別で18・19歳の実施希望が最も高く28.4%、次いで20歳代が17.0%と、若い年代ほど希望率が高いということである。2020東京大会におけるボランティアの魅力とは何であろうか。

これまでの数々のボランティア研究が示しているように、ボランティアへの参加動機や活動の価値観は実に多様である。特に、若い世代が高い参加希望を示していることの背景には、2011年の東日本大震災でのボランティア認識や、教育機関によるボランティア教育の展開、さらには、キャリア教育やアクティブ・ラーニングにおけるボランティア教育の導入等の効果もあるのかもしれない。あるいは、オリンピック・パラリンピックボランティアというネームバリューもあるだろう。

歴史的にもこれまで多くのボランティアが、大会にさまざまな想いで関わってきた。2004年のアテネ大会からは、自国のボランティアのみならず海外からも多くのボランティアが大会を支えた。2012年のロンドン大会では、大会ボランティアの「ゲームズ・メーカー」と観光ボランティアの「チーム・ロンドン・アンバサダー」合わせて7万人以上が活躍した。特に、オリジナルであるこの2つの名称からは、ボランティアを「レコグニション」(認める)という哲学が感じられる。

空港では案内ボランティアが笑顔で出迎えてくれる (2012年7月/ロンドン)

空港では案内ボランティアが笑顔で出迎えてくれる (2012年7月/ロンドン)

ゲームズ・メーカーには、「ゲームを一緒に作り上げる人」という主体性、アンバサダー(大使)からはおもてなしの最高称号を彷彿させる。こうしたボランティアの主体性を高め、その認知を呼称とともに広げたロンドン大会は、まさにボランティアイノベーションを達成した。
特に、ロンドン大会後はボランティアを経験者、応募者、合わせて25万人の個人情報をデータベース化し、「Join in」という新規組織がその運営を担うことで、多くのボランティアニーズに対応したボランティアマッチングシステムを構築した。ロンドン大会から一定の時間が経過した現在も、当時のボランティアが立派なボランティアレガシーとして活動を継続している。まさに、成熟型先進国のレガシーとして、ハードだけでなくソフトレガシーを創り遺したと言えるだろう。

2020東京大会においても未知の世界の巨大イベントを前に、ボランティアへの期待は人材面から量的にも質的にも高まりつつある。ただ、懸念していることは、大会組織委員会や東京都、あるいは各開催都市といったボランティアマネジメントを行う組織側のニーズと、2020東京大会にボランティアとして参加したいとする人の想いがどのくらい重なっているのかということである。

大会後のボランティアレガシーとは、大会に関わる全てのボランティアがさまざまな分野で活動することを通して、市民全体のボランティア認識が柔らかくなり、大会後もさまざまなボランティア分野において横断的に活動できる人材が育ち残ることではないだろうか。そして、もっとも大切なことは、こうしたボランティアムーブメントが東京を中心とする都市部だけではなく、全国各地へと展開され、地方等においてボランティアマネジメントに苦労をしている各方面に良い波及効果をもたらすことである。

市内の観光地に配置された4ヶ国語を話す語学ボランティア (2008年8月/北京)

市内の観光地に配置された4ヶ国語を話す語学ボランティア (2008年8月/北京)

ロンドンに倣うならば、まず必要なことはボランティアを認識し、大会を支える人材として最高のリスペクトを示す文化を構築することであろう。ボランティアという言葉と同時に「無償性」ばかりが引き合いに出され、「無償の労働」などの議論が飛び交っているようでは、ボランティアに真剣に取り組む人たちに大変申し訳なく思う。彼らの活動は有償無償に関わらない「意思」としての活動なのだから。

だからこそ、ボランティアマネジメントを行う組織側には最高の待遇(食事、交通、宿泊等)とともに、「ボランティアエンゲージメント」についてもっと真剣に向きあって欲しい。その姿勢ことが、ボランティアへのリスペクトであり、その姿勢が一般市民へも波及するのである。そうした姿勢の先に、スポーツボランティアを含めたボランティア文化の醸成があると信じている。

オリンピック出場経験者を「オリンピアン」と呼び、パラリンピック出場経験者を「パラリンピアン」としてリスペクトするならば、これからはオリンピック・パラリンピックボランティア経験者を「ボランティアン」とし、選手同等の立場として呼称することはできないだろうか。事前の研修や学習をこなし、長期間の活動を実践し、活動期間の滞在費を出費し、大会の成功に尽力するかれらを私たちはもっと真剣に認識しなければならない。そうしたボランティアを認識する姿勢の構築こそ、2020年後に各ボランティアが主体的に活躍する社会のベースとなるはずだ。

スポーツ歴史の検証
  • 二宮 雅也 文教大学 人間科学部 准教授
    日本財団ボランティアサポートセンター 参与
    日本スポーツボランティアネットワーク 理事