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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

東京2025 ポスト五輪の都市戦略

なぜオリンピックが必要なのか?
「都市力」という視点から提示する、
2025年の東京のすがた。

2020年東京オリンピック・パラリンピック開催が4年後に迫り、夢舞台を目指すアスリートや大会運営に携わる関係者の動きは慌ただしさを増してきた。一方で「オリンピックにはまったく関心がない」と東京大会の開催に否定的な層も少なからず存在するだろう。本書はそうした「なぜオリンピックが必要なのか」という問いに対し、五輪後の2025年をターゲットに据えて、都市力という視点から一つの回答を提示している。

都市力とは何か。著者の市川宏雄氏が理事を務める森記念財団都市戦略研究所は、さまざまな指標に基づき、世界の都市総合ランキングを毎年作成している。いわば都市の魅力を数値化したもので、2014年の統計によると東京は世界主要40都市の中でロンドン、ニューヨーク、パリに次ぐ第4位だ。  東京の都市力を分析すると、経済、研究・開発の分野が強みで、交通・アクセス、文化・交流の分野が弱点だという。東京の公共交通は街中をくまなく網羅し、時間に正確というイメージが強いが、交通・アクセスのスコアが低いのにはしっかりと理由がある。たとえば「国際線の直行便就航都市数」はロンドンの3分の1以下で、空港から都心までのアクセス時間も長い。都市力を比較する項目は詳細で、東京の強みと弱みをこれでもかとあぶり出すことに成功している。

こうした弱点を克服し、東京をより魅力ある都市に成長させ、海外からの投資や企業、観光客を呼び込もうというのが都市戦略だ。東京オリンピック・パラリンピックはその起爆剤という位置づけになる。実際に2020年の東京大会開催が決まり、海外から日本を訪れる観光客数は増え、羽田空港や成田空港から都心へのアクセス向上に向けた取り組みも始まった。五輪を契機に都市ランキングの2位からトップに立ったロンドンと同様に、東京もまたオリンピックを契機に都市力を向上させようと動いている。

著者が東京の都市力アップが不可欠と考える理由は、それがひいては地方も含めた日本の将来にとって重要と考えるからだ。日本は今、超高齢化社会の到来による社会保障費の増大、人口減少による税収減、あるいは地域社会の崩壊といった、かつて経験したことのないさまざまな問題に直面している。高齢化と人口減少はこれからますます進むことが確実だ。こうした困難を乗り切るための一つの処方箋が、東京の都市力アップということになる。本書では海外の都市のデータも豊富に紹介しており、その比較からも都市力向上が国にとって非常に重要なテーマであることを示している。

オリンピックというと「いくら儲かる」という短期的な経済波及効果や「施設の莫大な建設費、維持費」といった経済的損失という視点で語られることが多いのではないだろうか。本書はそうした視点とは一線を画し、都市というユニークな立場からオリンピックの必要性を論じた。「オリンピックは無駄」と考える人でも「おやっ」と気づかされることが多いであろう一冊だ。

(掲載:2016年07月27日)

著者
市川宏雄
森記念財団都市戦略研究所
編集発行
東洋経済新報社
紹介者
笹川スポーツ財団
ジャンル
スポーツ政策
定価
2,000円+消費税