本文へスキップします。

書評・書籍紹介

パラリンピックの楽しみ方

パラリンピックの楽しみ方

リハビリからスポーツへ
美談だけでは語り尽くせぬ
障害者スポーツの奥深い現状

2020年に東京でオリンピックとパラリンピックの開催が決まり、障害者スポーツの祭典たるパラリンピックへの注目は年々高まっている。本書はサブタイトルにある通り、パラリンピックの「ルールから知られざる歴史まで」を分かりやすく読者に提示する一冊だ。パラリンピックの入門書、あるいはガイドブック的な役割を十分に果たす一方で、読み進めていくと、思わず「へ~」と声に出してしまいそうになったり、思いもよらぬ現実にはっとさせられたりすることになる。

たとえば、1964年の東京パラリンピックの運営費は、バーやキャバレーに置かれた募金箱に集まった寄付金で賄われた─。ちょっとしたトリビアではないか。東京パラリンピックの運営費は約1億円で、多くは民間からの寄付だったという。その中に日本バーテンダー協会の360万円が含まれていた、というのが正確な話だ。なぜ同協会が寄付を買って出たのかは残念ながら記されていないが、当時の「国際イベントを成功させよう」という国民の熱を感じさせるエピソードである。

選手発掘のくだりには、虚をつかれたような思いをさせられる。今日のパラリンピックは、0.1秒を争うアスリートの祭典になった。メダル獲得に向けては、才能のある選手の発掘と育成が、メダル獲得の最も重要なポイントになることは、一般のスポーツと同じと言える。  
 ところが、日本では「平和で戦争がなく、安全な職場が増えていて、交通事故も減っている」ため、パラリンピックに出場できるような障害者の数は減っている。著者は「それはとても良いことですが、障害者スポーツの振興を考えた場合、これまでとは違う取り組みが求められます」とつづる。

逆に言えば、テロや内戦に見舞われている地域では、爆撃で足を失うなど、日本に比べて障害を持つ可能性が高く、すなわち障害者スポーツ選手が供給される土壌がある─ということだ。もともと障害者スポーツは戦争で負傷した軍人のリハビリで始まったそうだが、パラリンピックを観戦しながら、ここまで思い至る人はなかなかいないだろう。

パラリンピックは障害の重さによってクラス分けされているが、これについて「常に選手たちから不平不満が出ています」という一文にも驚かされた。障害が重ければ重いほど体の動かせる範囲は狭くなり、競技のパフォーマンスは落ちる。つまり上位進出を考えれば、選手にとってはより重度のクラスに振り分けられるほうが有利だ。ある日本選手は大会でいくつもの金メダルを獲得していたが、障害のより軽いクラスに変更させられ、まったくメダルが取れなくなったという。何とも厳しい現実だ。

障害者スポーツの報道は、美談で語られることが多いがゆえに、なかなか見えてこない世界があるのだろう。本書は障害者スポーツの奥深さを教えてくれる。

  • 著者
    藤田 紀昭
    編集発行
    小学館
  • 定価
    1,200円+消費税

掲載 : 2016年9月 5日

ページの先頭に戻る