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書評・書籍紹介

スポーツのちから 地域をかえるソーシャルイノベーションの実践

 スポーツのちから

スポーツが地域を活気づける
先駆的な事例が物語る
ソーシャルイノベーション

    スポーツを通して地域を活性化させよう─という動きが本格化したのは2000年以降の話であろうか。本書はこうした取り組みを丹念に調べ、一定の成果を上げている7つの事例を紹介している。
    副題に「地域をかえるソーシャルイノベーションの実践」とある。ソーシャルイノベーションとは「社会をよくしよう」と思う人々が事業を立ち上げ、身の回りの社会問題を解決していく取り組みだ。言葉自体は新しいが、「はじめに」を読むと、日本では古くから市民が知恵を絞り、ソーシャルイノベーションが実行されてきたという。

    たとえば、明治2年の京都では、町民が各家庭の経済状況に応じて資金を拠出し、64の小学校を誕生させた事例がある。当時の京都は社会状況の変化で人口が減少し、これに危機感を抱いた町民が、未来を担う子どもによりよい教育を施そうと思案した末に、学校を設立するにいたった。こうしたソーシャルイノベーションが市井の人々の努力によって繰り返されてきたとするなら、なんとも勇気の出てくる話である。

    21世紀に生きる我々は、ソーシャルイノベーションの重要なツールにスポーツを選んだ。Jリーグの松本山雅FC、女子サッカーなでしこリーグの岡山湯郷ベルなど、クラブチームを核とした町づくりはスポーツによる地域活性化の象徴だ。これらはチームが強くなって客が増え、財政的に町が潤ったという単純な話ではない。本書を読むと、それぞれの地域が自分たちの持つ財産を生かして課題を乗り越え、チームの存在を町づくりに結び付けたかがわかる。

    象徴的なクラブチームを持たずとも、神奈川県川崎市のNPO法人高津総合型スポーツクラブSELFのように、一見したところ地味ながら、地域の社会問題解決に大いに貢献しているケースも注目に値する。
    SELFは川崎市の学校体育施設の管理業務を受託するにあたり、利用状況を徹底して調査した。その結果、団体ごとの利用時間に不公平がある実態を把握し、利用時間の移動や利用スペースの細分化を進め、より多くの市民が学校体育施設を利用できるようにシステムを変えた。
    さらにこうして得られた信用をもとに、通常であれば用務員らが行う学校施設全体の保守を請け負うようになり、体育施設以外の多目的室や会議室を市民に開放するようにした。これにより学校施設を利用する市民が飛躍的に増え、クラブの財政基盤も安定するという一石二鳥の効果を得た。まさに社会刷新のモデルケースである。

    ソーシャルイノベーションを成就させる肝は、事業者が地域コミュニティーとの関係をいかに構築するかにあるという。自分たちの地域の抱える問題と、コミュニティーの特徴を照らし合わせながら、愛する我が町のイノベーションに考えをめぐらせてみてはどうだろうか。


  • 著者
    松橋 崇史、金子 郁容、村林 裕
    編集発行
    慶応義塾大学出版会
  • 定価
    2,400円+消費税

掲載 : 2017年2月 3日

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