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書評・書籍紹介

教育という病 子どもと先生を苦しめる「教育リスク」

 教育という病

なぜ教育の現場で事故は起きるのか
“感動と美談”に隠されたリスクとは
データが物語る驚くべき実態

    スポーツが青少年の教育において重要視され、近年では地域おこしなどにも活かされる一方で、きれいごとでは済まないスポーツの暗部も現実にはある。たとえば組体操における重大事故、部活動における体罰問題などはその代表といえよう。本書は表題にもあるように、こうした問題を「教育の病」と位置付け、豊富なエビデンスをもとに、暗部にメスを入れようと試みた。

   組体操は後遺症の残るような大きな事故が多発し、メディアでもその危険性が盛んに取り上げられるようになって久しいのに、いまだ抜本的に見直される気配はない。むしろより難易度の高い、より危険な組体操(たとえば巨大ピラミッドだ)にチャレンジし続ける学校もあるという。

   なぜ学校は組体操に取り組むのか。それは「達成感」や「一体感」という教育的意義が高いからであり、さらには周囲で見ている大人たちが、子どもたちが組体操に励む姿を見て「感動する」からだ。保護者や地域住民から拍手喝さいを浴びるべく、教員たちは組体操が一歩間違えれば重大な事故を招くというリスクを楽観視してしまう。

   体罰も社会を揺るがす問題となりながら、その教育的効果は根強く認められ、いまだ肯定的な意見も少なくない。ここでも体罰(暴力)によって大けがをするとか、自殺に追い込まれるといったリスクは軽視されている。「苦難を乗り越えて栄冠を手にする」という美談が広く浸透しており、行き過ぎた猛練習などは見過ごされてしまうのだ。

   また、本書は教員という視点からも教育の病をあぶりだした。土日を返上して若い社員を安い給料でこき使う会社を、我々は「ブラック企業」と呼んで問題視している。しかし、教員がボランティアで私生活を削りながら部活動の指導にあたる現状には鈍感と言わざるを得ない。ブラック企業と何ら変わらないというのに、教育という名のもとにすべての問題は正当化されるのだ。次の一説が端的にその現実を表現している。

   「教育という“善き営み”がリスクを美談化、正当化し、子どもとさらに教員を巻き込みながら、学校にリスクを埋め込んでいく。そして、市民社会も一緒になってその作業に手を貸している。」

   耳をふさぎたくなるような話が数多く紹介される中で、柔道界が柔道事故と真剣に向き合い、死亡事故をゼロに減らした(2012年~14年)事例は一筋の希望といえるだろう。過去30年の間に118人の子どもが学校の柔道(主に部活動)で亡くなっていることを考えれば長足の進歩である。

   エビデンスを提示しながら今日の教育問題を冷静に語る本書は、教育の病の診断書だ。言うまでもなく、病を治療するための第一歩は正しい診断にほかならない。


  • 著者
    内田良
    編集発行
    光文社
  • 定価
    780円+消費税

掲載 : 2017年3月 15日

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