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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

スポーツ都市戦略-2020年後を見すえたまちづくり-

スポーツツーリズムが都市を変える
モノづくりからコトづくりへ
2020年後を見すえた都市戦略

都市はスポーツをどのように活用すべきか。本書はスポーツツーリズムをその軸に据えながら、「地域密着型プロスポーツ」、「スポーツイベント」、「地域スポーツコミッション」、「アウトドアスポーツ」などを都市が活用すべき観光資源と位置付け、スポーツ都市戦略を展開した。

本書をひもといて最初に気付かされるのは、スポーツを通じた都市戦略が、単にまちの活性化や村おこしというレベルにとどまらず、グローバルな国家戦略に通じているということであろう。
少子高齢化、人口減少という二重苦にあえぐ日本は今後どのような成長プランを描き、困難な時代に立ち向かっていくのか。製造業中心に成長を遂げた戦後のスタイルが限界を迎える中、国はその一つの答えを観光産業に見出した。著者の言葉を借りれば「モノづくり国家」から「コトづくり国家」への転換ということになる。
アジア諸国では海外旅行に出かける中間層が急激に拡大し、実際に日本を訪れるアジアからの観光客の数はここ数年で大きく伸びている。日本国内の需要が先細りする現実と照らし合わせば、外需を取り込むのは必然の流れというわけだ。このような大局的な視点を持ちながら本書を読み進めると、スポーツを活用したまちづくりが、よりダイナミックな印象を帯びてくるから面白い。

郷土愛を強く喚起させるプロスポーツやスポーツイベントが、各地で都市づくりに大きく貢献するケースは最もわかりやすいスポーツ都市戦略であろう。著者の仮説は「Jリーグのある都市は消滅しない」。マラソン大会などのスポーツイベントの成功例なども踏まえると、その仮説には深く納得させられる。

都市活性化装置としての地域スポーツコミッション、スポーツに親しむまちづくりに貢献するアウトドアスポーツもスポーツ都市戦略を語る上でのキーワードだ。南北に長く広がり、急峻な山が多く、海岸線の長い日本はアウトドアスポーツの天国である。このような人を呼び込むための資源も、内外にPRして理解を得なければ集客にはつながらない。そこでスポーツコミッションの果たす役割がクローズアップされる。
スポーツを活かしたまちづくりが語られるようになって久しい。本書はそうした全体像を俯瞰しつつ、細部まで丁寧に説明した貴重な一冊と言えるだろう。副題にある「2020年後を見すえたまちづくり」の青写真が見えてくるのではないだろうか。

(掲載:2017年11月07日)

著者
原田 宗彦
編集発行
学芸出版社
紹介者
笹川スポーツ財団
定価
2,300円+消費税