本文へスキップします。

書評・書籍紹介

人種とスポーツ - 黒人は本当に「速く」「強い」のか

2020年まで、あと7年。アスリートの成長と成功は、幼児期・学童期における環境と機会の提供が左右する。そのことを考えさせる一冊です。

アメリカには、オバマという黒人の大統領が生まれた。すでに二期目の中間選挙を向かえようとしている。このことがこの本に書かれている訳ではない。が、白い肌と黒い肌が、同じ水に入ることに強い嫌悪感が長く続いたということがここには書かれている。現在オリンピックのメダル大国であるアメリカも、水泳競技ではあまりふるわない。圧倒的な強さをみせる陸上競技と比べてみれば、この異常さに気がつく。この本は、アメリカン・スポーツと黒人の関わりの歴史をひも解いたものだ。黒人は「速く」「強い」。黒人の「身体能力は生まれつき優れている」という生得説も、この歴史の文脈から形成されてきた。この人種生得説はほんとうか。

本書は、歴史を振り返り、現在を見渡しながら、この問題を具体的に詳細に取り組んでいく。

それは例えば、日本の幕末史を読むようなスリルに満ちたものだ。丁寧に読んで欲しい。神は細部に宿るというが、アメリカのスポーツの歴史が実に網羅的にたどられていく。ベースボール、フットボール、バスケットボール。このアメリカン三大競技も、生まれも違えば、育ちも違う。黒人を受容していく過程もそれぞれに異なる。

そもそもアフリカから連れてこられた奴隷につまり黒人にスポーツは縁遠いものだった。彼らには席がなかった。奴隷制度が廃止され、自由黒人が増えても、白い肌と黒い肌は分離され、スポーツ界は閉鎖的だった。20世紀初頭まで、黒人は白人との生存競争に敗れ「滅び行く人種」「劣等人種」と信じられていた。さらにこれはアメリカに限らないが、スポーツ競技は国際化して、国家・人種の優劣を競うという側面を強くもつようになった。ナショナリズムの台頭である。これは「優生学」を引き寄せ、この流れは第一次世界大戦期まで続いた。(もしかしたら現在でも)。結果、黒人のアスリートが急増し、黒人アスリートの活躍が劣等人種説の壁を破りはじめると、今度は逆に黒人生得説が流布するようになったのだ。つまりスポーツは社会の鏡。その面白みも歴史的、文化的、文脈でとらえるといっそう面白くなるという好著。

圧巻は、なんと言っても第Ⅵ章だろう。1947年、MLBに一人の黒人初のメジャーリーガーが誕生した。この第2次大戦直後の野球場からアメリカン・スポーツ界の人種統合が加速されるというくだり。スポーツ界で始まった人種統合が、その後の公民権運動の盛り上がりへとつながり、アメリカは「人種分離制度」を打破し一掃する歴史へと展開していく。オバマもこの潮流がなければ、まだ生まれていないだろう。

  • 著者
    川島 浩平
    編集発行
    中央公論新社
  • 定価
    840円+消費税

掲載 : 2013年10月10日

ページの先頭に戻る