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前編後編

工藤 : 私たち笹川スポーツ財団(以下、SSF)では、今般、最新の子どもと青少年を対象とした「スポーツライフに関する調査」をまとめたところ、さまざまな動向が把握できました。本日は、そのデータを見ていただきながら、元トップアスリートで、日本陸上競技連盟の理事や文部科学省の中央教育審議会の委員などを歴任され、現在スポーツジャーナリストとして活躍されている増田明美さんにご意見を伺っていきたいと思います。

増田 : 昨年は、スポーツ基本法制定を受けて開かれた、SSFさんの「日本のスポーツのこれからを考える」というシンポジウムに参加させていただきました。今回は最新の子ども達の調査結果を伺えるとのこと。スポーツは子どもの成長にも非常に重要だと思いますので大変楽しみですね。

工藤 : 当財団では、2001年調査で10歳になるときにはもう既にスポーツをする、しないの二極化が始まっていることが分かりました。当時は子どものスポーツ離れが問題視されていて、当財団の調査でも確かに授業以外にまったくからだを動かさない子どもが1割いるのが確認できました。2005年、2009年とその割合はあまり変わらないのですが、一方でスポーツをやる子どもは、かなりやっています。子どもがスポーツをやらなくなったのではなくて、やる子どもとやらない子どもが二極化しているのです。では、なぜ体力が落ちているか疑問ですよね。ある大学の運動生理学の先生に伺ったところ、運動・スポーツをしない子どもの体力の落ち具合が大きいため、平均すると値が下がってしまうということでした。この子どもたちの現状を解決するためには、10代より前の年代を調べなければならないということで、2009年に初めて4歳から9歳の子どもを対象とした全国調査を行ったのです。そこで、男女の運動・スポーツ実施のターニングポイントが8歳にあることが分かりました。最新の2011年調査では7歳にターニングポイントが見られました。

増田 : 7~8歳というと小学校の1~3年生ですね。

工藤 : 7~8歳までは、よく運動・スポーツをするというグループは、実は男子よりも女子が多いのです。ところが、さらに14歳くらいになると、1割以上の女子が授業以外でからだをまったく動かさなくなるのです。文部科学省の「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」でも中学校女子の非実施率の高さが指摘されていますが、私たちも同様の現状を確認しました。

増田 : この7~8歳がひとつのターニングポイントになっているというのは、私もなるほどなと思うことがあります。子ども達が走る大会で学年ごとに走るのを見ていると、スタート前から小学3年生くらいまでの女の子って見ているほうが怖くなるくらい前に行こうとします。実際スタートするとよく転ぶのです。からだを動かしたいという本能が出ています。それが、5・6年生になると、スタートから尻込みして前に行かなくなります。この調査結果を見るとその光景が目に浮かびますね。

工藤 : 4~9歳の最新の調査でもうひとつ新しい現状が確認できました。今回、親に対する調査内容を少し増やし「お子さんと普段どれくらい一緒に運動・スポーツをしていますか」とたずねたところ、親子で運動・スポーツを実施する機会が少ない子どもは、子ども自身の運動・スポーツの実施頻度も低いということがわかりました。逆に、親と定期的に運動・スポーツをしている子は、自分自身でもよく運動・スポーツをしているのです。4歳から9歳が対象なので、幼稚園・保育園の年中さんから小学校2・3年くらいの子どもたちの現状ですが、この時期の親子での活動の差が、子どもにも影響していることがわかりました。

増田 : これは、親の意識の問題ではないでしょうか。特にスポーツは母親だと思うのです。スポーツをすると、体力が養われるだけではなく、自尊感情が高まったり、仲間を作って人とのつながりができたりします。そういうスポーツの価値を母親が分かっていないと、一緒に汗をかこうと思わないだろうし、子どももスポーツ嫌いになってしまうのでしょう。
私の周りでもスポーツ嫌いの友達がいて、子どもにもスポーツをさせないのかなと少し心配になることがあります。このデータを見て感じるのは、4歳から9歳までの間に親子で触れ合いながらスポーツで楽しく過ごす機会をどんどん増やしていくことが大切ですね。

工藤 : そういえば、「新宿シティーハーフマラソン」という大会があるのですが、その中に「ひよこの部」というクラスがあって、就学前の小さな子どもと保護者が42.195メートルを走るのです。ヨチヨチ歩きの幼児とお母さんだったり、おばあちゃんと孫だったり、とても会場が沸きます。

増田 : 微笑ましい光景が目に浮かびます。そこで“楽しかった”と体感したことは心にも染み込みますものね。それに、たくさんの人達から応援されたという喜びはかけがいのないものになるはず。きっとその大会で走った子どもたちは、汗をかくことをずっと好きでいると思います。

工藤 : やはり小さいころから運動・スポーツに親しみ、基礎体力の大切さも学んでほしいですね。災害時などにも自分のからだを守るための体力は必要ですから。また、スポーツには、勝ち負けがあったり、相手との駆け引きがあったり、達成感があったりして、増田さんがおっしゃるとおりプラスの楽しみがあります。そうした、スポーツが持つ両輪の価値を親が分かって経験させてほしいと思います。

増田 : 以前、子どもたちの体力を向上させる会議である著名な方とご一緒したのですが、遊びとかスポーツというのは、体力向上だけではなく、大人になった時にまさに自分の身を守れるんだということを真っ先におっしゃいました。その方は子ども時代に北九州で育ち、関門海峡のすごい渦のある海で漁師の息子に流れに逆らって進む泳ぎ方を教えてもらったと。大人になり、南太平洋で仕事をした時、危うくサメの餌食になるところを助かったのは、子どもの時に泳ぎを教わったからだとおっしゃっていました。まさに生きる力ですね。

工藤 : そこにスポーツの要素が加われば、生活が豊かにもなっていくと。

増田 : まさにそうですね。本当に、スポーツというのはクオリティ・オブ・ライフ、いわゆる生活の質を向上させるし、幸福感を生みだします。
私が、オレゴン大学に通うために2年間アメリカに住んでいた時、ホームステイ先の家族がスポーツ観戦好きでした。家族でアメリカンフットボールの試合を見に行くのですが、朝からオニオングラタンスープやサンドイッチを作って、もうピクニックなんです。家族みんながウキウキして。スポーツをするだけではなく見ることで心豊かになれるというクオリティ・オブ・ライフの基本に触れた感動でした。でも日本も負けていないなと思うのが東京マラソンです。走る側も見る側も本当に楽しんでいますね。

工藤 : あと、今回の10代の調査で「あこがれているスポーツ選手」と「好きなスポーツ選手」について聞いているのですが、その人のようになりたいあこがれの選手、いわゆるロールモデルと、好きなスポーツ選手というのは、ちょっと違うのですね。特に、ロールモデルになる選手がいるかどうかについては男女差があり、10代で「あこがれのスポーツ選手」として名前が挙がったのは、男子の127人に対して女子は57人、女子にはロールモデルとなるスポーツ選手が少ないことがわかりました。

増田 : これは面白いですね。この結果は、これから大事な視点になってくると思います。男子と女子の意識の差が分かります。男子は「好きなスポーツ選手」と同じ選手が「あこがれのスポーツ」にも挙げられています。男子は、好きな選手は、同時に自分もそうなりたい選手であるのでしょう。野球選手とかサッカー選手とかね。これに対して女子は、好きな選手はいるけれど、自分がそうなるのは無理でしょという感じ。

工藤 : そうなんです。女子は、「好きなスポーツ選手」と「あこがれのスポーツ選手」が必ずしも一致しません。浅田真央選手は好きだけど、自分もそうなりたいというあこがれにはならないところがあって、スポーツ活動に結びつかない。しかし、今後それが変わってくるのではないかと少し期待しています。サッカー女子日本代表、なでしこジャパンの澤穂希選手たちの活躍で、「好きなスポーツ選手」が自分の目指す選手になる女子が増えてくるのではないかと。

増田 : なるほどね。

増田 明美氏 プロフィール
成田高校在学中、長距離種目で次々に日本記録を樹立する。1984年のロス五輪に出場。1992年に引退するまでの13年間に日本最高記録12回、世界最高記録2回更新という記録を残す。現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。2007年7月には初の小説「カゼヲキル」(講談社刊)を発表。厚生労働省健康大使。

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