Search
国際情報
International information

「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

知る学ぶ
Knowledge

日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

オーストラリアにおけるスポーツ実施状況 Vol.1

2014.12.22

オーストラリアにおけるスポーツ実施状況 Vol.1

本シリーズでは、オーストラリアのスポーツ政策や2000年シドニーオリンピックのスポーツレガシーについて、その分析結果を紹介していく予定である。第1回の本稿では、スポーツ実施の現状を把握するために主な全国調査の概要とその結果を紹介する。

1.スポーツ実施に関する調査の概要

オーストラリアにはスポーツの実施状況に関する全国調査が複数ある。スポーツや身体活動の実施状況に特化した調査としては、2001年から2010年までオーストラリア・スポーツコミッション(Australian Sports Commission:ASC)と州・準州政府のスポーツ・レクリエーション担当省が共同で実施していた「運動・レクリエーション・スポーツ調査(The Exercise, Recreation and Sport Survey:ERASS)」があげられる。ERASSは15歳以上の大人を対象とした調査だが、2010年に終了後、ASCはオーストラリア統計局(Australian Bureau of Statistics:ABS)と提携し、ABSが実施している「多目的世帯調査(Multipurpose Household Survey:MPHS)」で大人の実施率(注1)を把握するようになった。MPHSは複数のテーマで調査を行っており、身体活動については2005-06年度(注2)、2009-10年度、2011-12年度に調査をしている。一方、子どものスポーツ実施については、ABSの「文化・レジャー活動への子どもの参加に関する調査(Survey of Children's Participation in Culture and Leisure Activities, Australia:CPCLA)」がある。この調査は5-14歳を対象とし、授業以外の組織的なスポーツ・文化活動の実施状況を尋ねたものである。このほか、健康という観点から日常生活を調査した「国民健康調査(Australian Health Survey:AHS)」でも、身体活動状況を調査している。

近年は、スポーツ・身体活動の実施状況にどのような要因が影響しているのかという観点から、社会経済状況やライフスタイルなど幅広い調査項目で分析が行われている。このことは、スポーツを所管する省庁が環境・観光・地域関連の省から健康関連の省へと変わってきたこととも関係すると考えられる。現在、スポーツは草の根からエリートまですべて「保健省(Department of Health)」が所管しており、スポーツ・身体活動の実施による健康増進と病気の予防を包括的に捉えている。

このようなことも踏まえて、次項では、ABSが実施しているMPHS、CPCLA、AHSの3つの調査結果を紹介する。(Vol.1ではMPHSのみ紹介)

2.スポーツなど身体活動の実施状況の最新動向(2014年11月時点)

(1)大人の実施状況:多目的世帯調査(Multipurpose Household Survey:MPHS)

  • ABSが実施している月例の労働力調査(Labour Force Survey: LFS)の一環として会計年度に1回実施している多目的な調査。
  • 毎年複数のテーマについて調査をしており、身体活動の実施状況については、2005-06年度、2009-10年度、2011-12年度に調査が行われた。
  • 15歳以上の大人を対象とした調査でサンプル数はテーマによって異なるが、スポーツなどの身体活動の実施状況については最終的に13,630世帯から回答を得た。
  • ERASS同様、過去12ヵ月間の実施状況を尋ねている。コーチや審判、家事や仕事は身体活動に含めない点、スポーツ・身体型レクリエーション活動を組織的か非組織的か(注3)という区分で分析している点はERASSと共通している。さらにMPHSでは、地域や勤務状況など社会経済的要因との関係に着目して分析している。
  • 2011-12年度のMPHSによると、15歳以上の65%が過去12ヵ月に1回以上レクリエーション・運動・スポーツといった身体活動を実施していた(2005年度は65.9%、2009年度は63.6%)。実施率は年齢が高くなるほど減少する傾向がある(15-17歳は78%だが65歳以上になると50.4%に減少)。
  • 活動タイプは、クラブなどの組織が運営しているものではない「非組織的な活動」が中心だった(全体の52.8%、身体活動実施者では約80%)。
  • 地域性では都市部のほうが比較的実施率が高い。また、勤務状況では就業者の実施率が失業者や非就労者(注4)よりも高い傾向にある。以下のグラフは、主な属性の実施率を表している。
(出典:ABS「Sports and Physical Recreation: A Statistical Overview, Australia, 2012」をもとに作成)

(出典:ABS「Sports and Physical Recreation: A Statistical Overview, Australia, 2012」をもとに作成)

  • その他の属性による特徴として、家族構成では、夫婦のみ(69%)と単身(67%)のほうが、子どものいる夫婦(59%)・一人親(55%)よりも実施率が高い。また、世帯1人あたりの平均収入が高い層ほど実施率が高く、教育レベルが高いほど実施率が高かった。
  • オーストラリアは移民国家であることから、社会文化的背景による違いも分析されている。たとえば、海外出身者よりもオーストラリアで生まれた人の方が実施率が比較的高く、母国語が英語である人の方がそうでない人よりも実施率が高かった。
  • 活動内容は、男女ともウォーキングの実施率が最も高く、次いでフィットネス、サイクリング、水泳、テニス、ランニングが続く。ウォーキングやフィットネスは女性の実施率が高く、サイクリングやランニングは男性の実施率が高いなど違いがみられた。

注記

  1. 英語では「participation rate」が使われているため、直訳は「参加率」であるが、活動に焦点があてられているため、本レポートでは「実施率」という言葉を用いた。
  2. オーストラリアの会計年度は7月から翌年の6月までの1年間である。
  3. "Organised sport and physical recreation"と"non-organised sport and physical recreation"という区分を用いている。前者は、クラブや協会が運営するスポーツや身体型レクリエーション活動を指す。クラブや組織は必ずしもスポーツ団体である必要はなく、社交クラブや教会団体、卒業生の団体、体育館なども含まれる。後者は、組織化されていないスポーツや身体型レクリエーション活動を指す。(参考:ABS:Glossary)オーストラリアのスポーツ関係の調査では、組織化された活動かどうかに着目しているものが多くみられる。
  4. 非就労者のほとんどは65歳以上の高齢者である。

レポート執筆者

本間 恵子

本間 恵子

Partner Fellow, Sasakawa Sports Foundation
(2015年4月より、日本から情報発信)