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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

ドイツのスポーツクラブ

(5)― 伝統文化「カーニバル」とスポーツクラブ

2019.03.28

ドイツのスポーツクラブ(5) ― 伝統文化「カーニバル」とスポーツクラブ

3月5日をもって2018/2019年のカーニバルのシーズンは終わり、断食の期間に入った。そしてキリストが十字架に磔(はりつけ)にされ、蘇ることを祝うイースター(復活祭)への準備期間となる。断食に入る前に楽しく騒ぐ。これがキリスト教からみたカーニバルの背景である。ドイツの祭り事はゲルマン人の慣習とキリスト教が結びついたものが多い。カーニバルも元はゲルマン人が冬を追い出し、春を迎える行事だったようである。

なお、カーニバルは日本語では「謝肉祭」と言われるが、本来断食の期間は肉食をしない。とてもうまい表現だ。語源は、古イタリア語の「carne=肉」と「vale=さようなら」が結びついたものであるらしい(諸説あり)。

今日の市民の伝統的な行事として、カーニバルは盛大である。一番盛んなのはラインラント地方(デュッセルドルフ、ケルン、マインツ)である。この地方は19世紀初頭ナポレオンにより占拠され、政治活動が禁止された。カーニバルとして市民を集め、パーティーをして面白おかしい話に紛れて、政治批判などをする風習が今でも残っている。この集会では歌や、ラインダンス、アクロバット的なダンスも披露される。これが素人の芸かと感心させられる出来栄えだ。
このカーニバルのハイライトはパレードである。参加者は仮装し、趣向をこらした山車が引き出される。今年はトランプ大統領や、英国のメイ首相がやり玉にあげられていた。音楽隊の演奏に合わせて道化を演じ、色とりどりの衣装で街を練り歩く。大都市の参加グループは100以上になる。もちろん、スポーツクラブも参加する。

私の住む小さな町、メアフェルデン-ヴァルドルフ(Mörfelden-Walldorf)でも、3月2日土曜日の午後、パレードが行われた。先頭はカーニバルクラブである。このクラブは「SKG Walldorf 1888 e.V.(SKG ヴァルドルフ)」の一部門である。ちなみに、SKGはスポーツ文化クラブ(Sport- und Kulturgemeinschaft)を意味する。

カーニバルの様子1

(筆者撮影)

カーニバルに参加しているのはカーニバル関係団体だけではない。赤十字社、市民消防団、スポーツクラブ等…、最後は市長が乗った山車が登場し、選挙前であったためか、山車から熱心に飴を配っていた。

「TGS Walldorf 1896 e.V.(TGS ヴァルドルフ)」は、メアフェルデン-ヴァルドルフにある大型スポーツクラブであるが、TGSが体操クラブ(Turngesellschaft)を意味しているように、元来体操クラブから発展した。そのため、パレードでは、リヤカーのような車にマットとトランポリンを積み、停止すると体操部の若い会員が仮装した姿で、宙返りなどの演技を見せる。観客も大いに喝采を送る楽しい場面である。

カーニバルの様子2

(筆者撮影)

スポーツクラブは、市民に割安の費用で運動するチャンスや質の良いスポーツプログラムを提供するサービス機関になっているだけでなく、町や市民の文化生活の一部なのである。

レポート執筆者

高橋 範子

高橋 範子

Special Advisor, Sasakawa Sports Foundation