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国際情報

Sport News Germany

2020年1月10日

気候変動問題とスポーツ

  スウェーデンの17歳の高校生グレタ・トゥンベリ(Greta Thunberg)さんが行動を起こし発言するようになってから、地球温暖化を憂い、対策を求める動きが可視化されたように思われる。グレタさんは競技用ヨットで大西洋を渡りアメリカに行き、国連での演説等、様々な活動を行った。昨年12月にマドリードで開催された「第25回国連気候変動枠組条約国会議(COP25)」の際にも、またヨットでスペインに向い、演説等を行ったとのことである。今日、ドイツでも同様に「未来のための金曜日(Fridays for Future Germany)」の呼びかけで若者達がデモに参加している。

  最近のドイツのテレビで報道されるニュースには、気候変動による自然災害のことが多い。カリフォルニアやオーストラリアの山火事、ヴェネツィアの洪水、そして今度はオーストリアの大雪と土砂崩れ。ドイツには森が多いが、突風で木が倒れることがある。それは森の地面が乾燥しているせいだとのことである。気候が変化してきていることは、都会に住む人間でも他人事とは言えないと認識するようになってきた。

  ドイツ連邦議会は2019年11月15日「気候保護法(Klimaschutzgesetz)」を採択した。2030年までにCO2排出量を1990年と比較して55パーセント削減することを目標にし、政府は今後、毎年どの程度達成されたかについての調査、達成されなかったことへの対策が義務づけられる。この法律は具体性に欠けるなど批判も大きい。しかし、気候保護関連法として第1号で、将来へのレールが敷かれたという意味で評価され、同年11月29日、州代表により構成される連邦参議院でも可決された。
  11月に欧州委員会委員長に任命されたドイツ出身のウルズラ・フォン・デア ライエン(Ursula von der Leyen)は、12月11日「欧州グリーンディール(European Green Deal)」を発表した。翌12日、欧州理事会により「グリーンディール」の採択は見送られたが(2020年6月の理事会へ議論持ち越し)、2050年までに温室効果ガス排出を「実質ゼロ」とする目標については合意された。この「グリーンディール」では、その他、エネルギー、建造物のエネルギー節約のための改修、産業、交通などが取り上げられている。

  具体的にどうするのかについては様々な議論がある。プラスチックの包装を減らす、スーパーなどのレジ袋を廃止する、電気自動車への補助金を出す。飛行機にはあまり乗らないで電車で移動する。鉄道の運賃を安くする。ちなみに私は最近、イタリアのフィレンツェへ遊びにいくことにした。片道800キロくらいだろうか。サスティナブルに生きるため、エコな旅を計画し、フランクフルトから電車で行くことにした。運賃は2人で約600ユーロだが、乗り換えは3回あり、11時間半近くかかる。飛行機だったら幾らかと、ついネットをのぞいてみた。うまく格安航空券を見つけられると、運賃は電車賃の半額で、所要時間も1時間25分しかかからない。サスティナブルに生きるとは覚悟がいる…。

  自然をスポーツの場(施設)として使うスポーツ種目は考えてみると結構ある。ドイツの森は平らであるため、森でジョギングする人は多い。ウォーキング、ハイキング、サイクリングも森で行う。スキーは雪山で行う。ヨット、ボートには川、湖が必要であり、サーフィンには海、トライアスロンにも川や海が必要である。身近なスポーツ活動にも自然が必要なのである。

  気候変動問題に関連し、今年の7月からドイツのメディアで取り上げられているテーマが、人工芝のサッカーコートである。ヨーロッパ連合(EU)はマイクロプラスチックの禁止や制限を計画中である。この法案が実現すれば、人工芝の弾力性のために撒かれる顆粒が問題になる。練習や試合が行われ、アスリートが動きまわれば、多くはプラスチック製の顆粒からマイクロプラスチックが飛び散り、雨水等で地中に浸透し、地下水が汚染され、動物や人間に害が出る。ただ、もし、マイクロプラスチック禁止となれば、人工芝からこの顆粒を取り出し、他のものを撒くことになる。代替品としてコルクなども挙げられているが、これというものはまだあらわれていない。

  ドイツサッカー協会によるとドイツには人工芝のサッカーコートは約5,000ある。スポーツクラブ独自の施設もあるが、多くは自治体の施設である。EUの基準が採択され、これにかなった施設にするためには数百万ユーロが必要となる。自治体やクラブはこの資金をどこからひねり出してくればよいのだろうか。冬が厳しいドイツでは、練習や試合のために人工芝のコートが必要であり、人工芝なしでは、サッカーというスポーツの運営が危機に瀕することになる。ドイツサッカー協会と地方自治体連合は、この問題についての声明を発表している。また、同協会、ドイツオリンピックスポーツ連盟、ヨーロッパサッカー協会などは、施設が使えなくなった場合、社会的にどんなネガティブな影響が出るかについて、EUでこの問題を扱っているヨーロッパ化学機関 (European Chemicals Agency=ECHA)に訴えている。スポーツ施設により発生するマイクロプラスチックの量は、考えられているほど多くないという話もあるが、現在のところ信頼できるしっかりとした情報はまだない。2020年前半にECHAは、調査やヒアリングの結果、EU加盟国の意見、各委員会での検討の結果を欧州委員会に提示する。さらには、産業関係者、スポーツ関係者の立場を考慮して、また社会・経済・環境政策の面から検討して、欧州委員会に決定のための法案を提案するものと考えられる。

  ドイツオリンピック連盟(DOSB)には、作業部会「マイクロプラスチック」が設けられている。この作業部会はドイツサッカー協会をはじめいくつかのDOSB 加盟団体、そして学術関係者で構成されている。スポーツ施設が環境にやさしいものであるべきという一方、競技会・トレーニングのためスポーツ施設は欠かせない。ホルスト・ゼーホーファー(Horst Seehofer)連邦内務大臣はスポーツ担当大臣として、EUの意向が発表されるとすぐに、2025年までの移行期間の設置に努力すると反応した。前述の作業部会も、人工芝コートについて6年の移行期間を提案している。加えて、作業部会は人工芝のコートをもつクラブのため、今後の対策の手引をまとめる意向である。

  人工芝のコートを持つスポーツクラブはどう考えているのだろうか。私の住む町メアフェルデン-ヴァルドルフ(Märfelden-Walldorf)のスポーツクラブ「SV Rot-Weiß Walldorf e.V(注1 の青少年サッカー部の部長ウーヴェ ・ヴォルフ(Uwe Wolf)さんに話を聞いた。このクラブは1914年に設立された、会員数1100名の伝統的にサッカーが主流のクラブである。他に卓球、ケーゲル(ボウリングに似た9ピンのゲーム)、体操、バドミントン、ダンス、ゴスペル合唱の部がある。 独自の施設をもっており、人工芝のコートが2面、天然芝のコートが1面ある。それにクラブハウスである。サッカーチームの全会員数は約350人であり、ジュニア部門には20チーム・約290人いる。成人部門は3チーム・約60人で、アマチュアでは最高レベルのヘッセンリーグでプレーしている。新しいコートは2018年に造られたばかりである。建設費は州、郡、市の補助金、寄付と自己資金による。施設建設などにあたってのクラブの方針は、費用を抑えながらも、質の良い施設を作ることである。良いインフラがあれば、良いコーチが来てくれる。チームの成績も上がり良い選手も集まってくるという、いいサイクルが生まれるという。人工芝のコートには砂もまいており、手入れもきちんとしている。

人工芝の様子を見るヴォルフさん

人工芝の様子を見るヴォルフさん

  現存の施設を変化に適合させるという課題は、むしろ政治、学術研究、産業が取り組むべきことである。猶予期間としている6年間では解決できないかもしれないが、クラブは今回の問題でパニックにはなっていない。このテーマを真剣に受け止めているが、不安感はない。

  試合の日にはこれまで通りコーヒーやケーキ等も販売される。ただ、飲み物のプラスチック製のコップはやめた。

注1) SV Rot-Weiß Walldorf e.Vウェブサイト www.rw-walldorf.de

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高橋 範子
レポート執筆者
高橋 範子

Correspondent, Sasakawa Sports Foundation


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