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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

アメリカのeSportsの現状

2017.03.08

アメリカのeSportsの現状

近年、比較的新しいエンターテインメントとして認識され始めた「eSports」(エレクトロニックスポーツ、サイバースポーツ、ビデオスポーツと呼ばれることもある)が急速な成長を記録している。デジタルゲーム産業に特化したリサーチ会社であるNewzoo社の「Global eSport Market Report」(2017)によると、eSportsの大会を定期的に視聴するeSportsファンはおよそ2,000万人にのぼり、大きな大会のみ視聴するカジュアルなファンを含めると、4,000万人を超えるファンを獲得している。2016年の世界のeSports産業の収益はおよそ500億円と報告されており、数値だけに着目するとそれほど大きな産業にはみえないかもしれない。しかし成長率に着目してみると、eSports産業の収益は2014年から2015年で67.4%増、2015年から2016年は42.6%増という早さで成長を続けており、2019年には世界のeSports産業が1,000億円超の収益を生みだすと予測されている。本稿はこの急速な発展をみせるeSportsに着目したい。

Newzoo 「2017 Global eSports Market Research」を修正加筆

Newzoo 「2017 Global eSports Market Research」を修正加筆

eSportsとは何か?

そもそもeSportsとは何か?eSportsとはパソコンやゲーム機を代表する電子システムによって行われる競技を意味する。「ビデオゲーム競技」というとイメージしやすいかもしれない。eSportsといっても競技に使用されるゲームはスポーツゲームに限らない。たとえば、格闘系ゲームの代表作である「ストリートファイター」や「鉄拳」、シューティングゲームの「コール・オブ・デューティー」や「バトルフィールド」が競技ゲームに指定されることもある。eSportsのゲーム種目の中で最も人気があるといっても過言でないのが、Riot社が開発する「リーグ・オブ・レジェンド」である。リーグ・オブ・レジェンドはマルチプレーヤーオンラインバトルアリーナ(MOBA)と呼ばれるジャンルに属するゲームのひとつで、5人のチームを組み、相手チームの陣地を攻略するという戦略を立てながら行われる対戦ゲームである。

eSportsをスポーツとして認識するかどうかは議論の余地がある。韓国を本拠地とする国際eSports連盟は国際オリンピック委員会(The International Olympic Committee)にeSportsをスポーツと正式認定するよう申請している。eSportsは従来のスポーツがもつ「競争性」という重要な概念を持ち合わせているが、eSportsにスポーツの本質である身体活動が伴うかどうかも主な争点のひとつである。しかし、実際に多くの企業や投資家がスポーツビジネスのコンテンツとしてeSportsに注目しているのは事実である。ESPNやYahooもウェブサイト上でeSportsのセクションを設けて情報コンテンツの配信を行っている。

eSportsの収益構造

1.スポンサー・広告収入

eSportsに関するマーケットリサーチを行うSUPERDATA(2016)やNewzoo(2017)が公表している収入の内訳に関しては若干のズレはあるものの、eSportsの収入のおよそ60~70%はスポンサー・広告から生み出されている。広告収入が獲得できるということは、eSportsが観戦に値するコンテンツと認識され、多くの観戦者を集めている証拠である。

eSportsの観戦者は基本的にTwitchやYouTubeなどの動画共有サイトでライブストリーミング観戦する。リーグ・オブ・レジェンドを例にとってみると、開発者であるRiot社は独自の小さなスタジオをもち、ビデオゲームの試合をライブ配信する。ゲーム開発会社が自前でもつチャネルに加えてTwitchやYouTubeなどのチャネルを合わせると、ライブストリーミング観戦しているeSportsファンは毎試合平均およそ30万人にものぼるという。2014年のリーグ・オブ・レジェンドの決勝を例にあげてみると、ライブストリーミング観戦者は合計で2,700万人と推定されている。この数字は同年のNBAファイナルやNCAA大学バスケットボール決勝トーナメントの観戦者数を凌ぐ。

2.メディアライツ

eSportsの成長は注目に値するといえど、その規模はまだ小さくニッチ市場と呼べる。しかし、既存顧客のテクノロジーに対する適応は一般的なスポーツファンに比べると早いかもしれない。理由は以下の通りである。アメリカではTVのケーブル配信によって簡単にスポーツ観戦ができるが、eSports観戦も同じ手法で観戦できるとは限らない。

世界のeSportsの利益の約15%強はメディアライツによってもたらされているが、その仕組みを支えているのがTwitchを代表とするオンラインストリーミングサイトである。eSports大会組織はオンラインストリーミングサイトとパートナーシップを結び、ゲームの対戦内容をストリーミング配信する。Twitchは観戦者数に応じてパートナー契約したeSports大会組織に報酬を支払うというシステムが確立している。現段階ではオンラインストリーミングサイトの一人勝ちにみえる状況だが、世界のメディアによるeSports放映権獲得の動きが出ると状況は一気に変わると考えられる。eSports放映権料収入が高騰し、eSportsにおける伝統的なスポーツビジネスモデルが整い、メジャースポーツコンテンツとして認識される日はそう遠くないかもしれない。

3.賞金貢献収入

スポンサー・広告収入に続いてeSports産業を支えるのが、eSportsファンと企業による「賞金貢献収益」(prize pool contribution)である。eSportsのファンはわれわれが想像するようなスポーツファンとは異なる性質をもっているのか、独特な収入カテゴリーをつくり出している。eSportsプレーヤーは大会の成績に合わせた賞金獲得に動機づけられているケースが多い。賞金が高い大会は、当然ゲーム技術の高いeSports選手・チームが参戦する。eSportsファンはレベルの高いゲーム対戦を観戦したいため、良いeSports選手やチームが大会に参戦することを望んでいる。そこでeSportsファンは寄付を行ったり、指定されたゲームグッズなどを購入することで大会運営組織が準備した賞金の増額に貢献している。2016年のリーグ・オブ・レジェンドの大会運営組織が設定した賞金総額はおよそ2億円であったのに対して、賞金貢献システムによって増額された最終的な賞金総額は5億円を超えたと報告されている(ESPN, 2016)。

4.チケット・マーチャンダイズ収入

一般的な観戦スポーツビジネスにおいて、チケット・グッズ収入は収益の柱となる。eSportsにおいてもライブストリーミング配信に加えて、リーグ・オブ・レジェンドのような人気ゲームの大会は一般的なスポーツイベント同様、会場で観戦することも可能である。実際、2016年のリーグ・オブ・レジェンドの準決勝はニューヨークのマディソン・スクウェア・ガーデンで、そして決勝はロサンゼルスのステープルズ・センターで開催された。ただし、チケット・マーチャンダイズ収入はeSports全体の収益のおよそ5~9%にしか満たないとの報告もある。

eSports大会会場の様子

eSports大会会場の様子

アメリカにおけるeSports

アメリカでは既存のプロスポーツチームや個人投資家などが活発にeSportsへの投資を始めている。人々の注目を集めるという点ではeSportsのコンテンツ力は従来のスポーツに引けを取らない。コンテンツ力があるにも関わらず、施設やeSportsプレーヤーの獲得・維持にかかるランニングコストが現段階で比較的安価である。この投資対象としての魅力が、投資家がeSportsに注目する理由のひとつである。現段階では個人投資家でも参入しやすいマーケットであるため、元プロスポーツ選手が引退後にセカンドキャリアとしてeSports産業に投資家として参入する道を選ぶケースもある。元NBAのスーパースターであるマジック・ジョンソンやシャキール・オニール、リック・フォックスは既にeSportsへ投資しており、昨シーズン引退したコービー・ブライアントもeSportsへの投資を模索していると伝えられる。

現存するプロスポーツチームもeSports産業での事業展開を進めている。NBAは2018年から人気バスケットボールビデオゲームである「NBA2K」を対戦種目としたeSportsリーグを開幕する(ESPN, 2017)。NBAは所属する全30チームがeSportsチームを保持し、プロアスリートとしてeSportsプレーヤーを雇用し、レギュラーシーズン、プレーオフといった一般的なプロスポーツで採用されているシステムを用いて事業化を狙っている。

アメリカではプロのeSportsプレーヤーを輩出するため、高等教育機関がeSports奨学金を提供し、学生eSportsアスリートを受け入れている。たとえば、ペンシルベニア州のロバート・モリス大学はアメリカではじめてeSportsプログラムを提供した大学である。eSports学生アスリートは授業料の半額免除や学術活動に関する費用のサポートを受けている。カリフォルニア大学アーバイン校は、2016年秋セメスターからeSports学生アスリートの奨学金制度をスタートした。この奨学金制度は、上記で紹介した人気ゲームであるリーグ・オブ・レジェンドの開発会社であるRiot社との産学パートナーシップによって運営されている。カリフォルニア大学アーバイン校ではおよそ2,500万円の建設費によって建てられたeSports専用アリーナをはじめとしたeSports環境の設備投資を行い、eSportsによる大学プログラムの拡大を狙っている。

参考資料

  1. ESPN(2016)2016 League of Legends Worlds prize pool at $5.07M with fan contributions. Retrieved from
    http://www.espn.com/esports/story/_/id/17919126/2016-league-legends-worlds-prize-pool-507m-fan-contributions
  2. ESPN (2017) The NBA is betting on esports, and Jonas Jerebko is all-in. Retrieved from
    http://www.espn.com/esports/story/_/id/18655711/celtics-renegades-jonas-jerebko-balances-basketball-esports
  3. Glixel(2016)Why Former LA Laker Rick Fox is Betting Big on Esports. Retrieved from
    http://www.glixel.com/news/why-former-la-laker-rick-fox-is-betting-big-on-esports-w454532
  4. Newzoo (2017) Esports Revenues Will Reach $696 Million This Year and Grow To $1.5 Billion By 2020 as Brand Investment Doubles. Retrieved from
    https://newzoo.com/insights/articles/esports-revenues-will-reach-696-million-in-2017/
  5. SUPER DATA (2016) eSports Market Report. Retrieved from
    https://www.superdataresearch.com/

レポート執筆者

佐藤 晋太郎

佐藤 晋太郎

Assistant Professor of Marketing Montclair State University Correspondent, Sasakawa Sports Foundation