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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

青少年に対するオリンピック・パラリンピックの直接観戦推進方策

~オリンピック・パラリンピックの直接観戦希望から~

2019年3月13日

種目別にみた運動・スポーツ実施状況

はじめに

2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催まで500日を切り、チケットの販売開始も迫るなど、開催に向けた準備が本格化している。わが国で二度目となる夏のビッグイベントは、この国に何を残すだろうか。本コラムでは、多感な時期である12歳から21歳の青少年を対象に、どの程度オリンピック・パラリンピックを直接観戦したいと思っているかといった観戦希望を明らかにするとともに、希望をもつ者ともたない者の違いをまとめ、直接観戦を推進する方策について検討した。

調査票一部抜粋

▲クリックで拡大 
図1.「青少年のスポーツライフ・
データ2017」調査票 (一部抜粋) 

1.全体

「青少年のスポーツライフ・データ2017」では、12歳から21歳の青少年を対象に「あなたは、2020年東京オリンピックを直接スタジアムや体育館などの会場でみたいと思いますか」「あなたは、2020年東京パラリンピックを直接スタジアムや体育館などの会場でみたいと思いますか」とそれぞれ質問し、「そう思う」「ややそう思う」「あまりそう思わない」「そう思わない」「わからない」の5択で回答を求めた(図1)。以後の分析においては、観戦希望の態度を保留した「わからない」を除外している。また、割合を合計する場合、四捨五入の関係で数値が合わないケースがある。

2.性別の直接観戦希望

3.学校期別の直接観戦希望

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4.居住地域別の直接観戦希望

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5.運動・スポーツ実施頻度別の直接観戦希望

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6.オリンピック/パラリンピック教育の有無別の直接観戦希望

「この1年間に学校の授業でオリンピック(パラリンピック)について学んだことがありますか」とたずね、「ある」「ない」「わからない」の3択で回答を求めた。

7.世帯年収別の直接観戦希望

まとめと提案

本コラムでは、12歳から21歳の青少年におけるオリンピックとパラリンピックの直接観戦希望をさまざまな属性から分析した。統計的に有意な差の有無を基準に、分析結果を表1および表2にまとめた。

表1
オリンピック 統計的有意差 特徴(観戦に対する希望)
× 有意差はない
学校期 勤労者が低い
居住地域 × 有意差はないが、関東が高く、中国・四国が低い
実施頻度群 中頻度群、高頻度群が高く、低頻度群、非実施群が低い
オリンピック教育 教育ありが高く、教育なしが低い
世帯年収 600万円以上が高く、600万円未満が低い

◎:1%水準以下、○:5%水準

オリンピックをみると、性および居住地域で観戦希望率に差はなかった。一方で学校期(勤労者のみ観戦希望率が低い)、運動・スポーツ実施頻度(実施頻度が高いほど観戦希望率が高い)、オリンピック教育(教育を受けていると観戦希望率が高い)、世帯年収(600万円以上の観戦希望率が高い)で有意な差がみられた。

表2
パラリンピック 統計的有意差 特徴(観戦に対する希望)
女子が高く、男子が低い
学校期 中学生が高く、勤労者が低い
居住地域 × 有意差はないが、関東が高く、中国・四国が低い
実施頻度群 中頻度群、高頻度群が高く、低頻度群、非実施群が低い
パラリンピック教育 教育ありが高く、教育なしが低い
世帯年収 × 有意差はない

◎:1%水準以下

パラリンピックをみると、居住地域および世帯年収で観戦希望率に差はなかった。一方で性(女子の観戦希望率が高い)、学校期(中学生が高く、勤労者が低い)、運動・スポーツ実施頻度(実施頻度が高いほど観戦希望率が高い)、パラリンピック教育(教育を受けていると観戦希望率が高い)で有意な差がみられた。

東京オリンピック・パラリンピックのチケット販売は、2019年4月に抽選申込が始まり、6月中旬に抽選結果発表、2019年秋から冬に先着順での販売が予定されている。多くの青少年に自国で開催されるオリンピック・パラリンピックの直接観戦機会を与え、スポーツの面白さや素晴らしさを感じてもらうとともに、こうした体験をスポーツ界にとどまらず、わが国のレガシーとして受け継いでいくために、販売が始まる直前ではあるが、本分析からみえた特徴から、青少年のオリンピック・パラリンピック観戦における推進策を次のとおり緊急提案したい。

①関東以外の地域に居住する青少年に対するオリンピック教育・パラリンピック教育のさらなる拡充と地理的・心理的な障壁の除外

②青少年に向けたチケット料金の設定と家庭の経済力に依存しないチケット枠・制度の創設

①関東以外の地域に居住する青少年に対するオリンピック教育・パラリンピック教育のさらなる拡充と地理的・心理的な障壁の除外

有意な差はみられなかったが、主な開催地域である関東在住の青少年の観戦希望率が高く、それ以外の地域は相対的に低い。特に、中国・四国における直接観戦希望率の低さが目立つ。この要因として、会場まで遠いといった地理的・心理的な障壁が直接観戦希望の低さに繋がっていると想定される。オリンピック・パラリンピック教育の有無によって直接観戦希望率に差が生じることから、関東以外の地域の青少年に対する積極的な教育の実施が有効と考えられる。また、教育の実施により高まった直接観戦希望を実際の観戦に結びつけるため、これらの地域の青少年が観戦できるようチケットに地域ごとの枠を設定し、競技会場までの移動手段の確保(ツアーの実施など)によって障壁を取り除く取り組みが求められる。

具体的には、直接観戦希望率が低い中国・四国を中心にオリンピック・パラリンピック教育を重点的に実施し、青少年の観戦希望を喚起する。こうして希望を喚起した地域や、既に希望をもつ遠方地域に在住の青少年が観戦するためのチケットは、一般の観戦者のための販売枠ではなく、各地域の青少年人口に応じたチケット数の枠を設定した上で、「早いもの勝ち」ではない方法、例えば観戦希望がある青少年に希望する競技の優先順位を提出してもらい、需要を集約した上で何らかの競技は観戦できるようにAIによってチケットを振り分けるなど、可能な限り多くの青少年に観戦機会を与える。加えて、こうして購入されるチケットには「会場までの移動手段」も付属していることが望ましい。オフィシャルパートナー(スポンサー)である旅行会社や鉄道会社、航空会社などと連携した方策が取られることを期待したい。

②青少年に向けたチケット料金の設定と家庭の経済力に依存しないチケット枠・制度の創設

世帯年収の差が直接観戦希望率に影響しているため、既にある程度カテゴリーによって価格の差がついている設定に加え、例えばチケット価格をいくつかのカテゴリーに限り、青少年が観戦する場合はさらに割引するなど、より安価に購入できる制度や、既に発表されている「学校連携観戦プログラム」(全国の小学校から高校および特別支援学校等の児童・生徒が観戦できるプログラム)に加え、青少年がスポーツのグループ(部活動や総合型地域スポーツクラブ、少年団など)で観戦できるような制度および団体割引価格の設定が求められる。

具体的には、現在のチケット価格カテゴリーのDとE(またはCとDとE)に、予定されている価格の3割~半額程度の安価なチケットを追加し、多くの家庭で容易に購入ができるようにする。もちろん、そのチケットで青少年以外が観戦しないよう、親などが代理で購入する際にも青少年本人の身分証明書の提出を求め、入場時のチケットチェックでも身分証明書の提示を義務付けるなどの対策は必要となる。また、既存の「学校連携観戦プログラム」では、学校単位での観戦が想定されている。オリンピック・パラリンピックはスポーツの祭典であることから、青少年がスポーツのグループで観戦できるよう、例えば申込みは学校単位であっても、所属する部活動の競技を友人と観戦できるようチケットを振り分けたり、総合型地域スポーツクラブや少年団といった団体でも連携プログラムと同様にチケットが購入できるような設定を期待したい。

笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 主任研究員 藤原 直幸


調査概要

調 査 名
12~21歳のスポーツライフに関する調査
調査対象
全国の市区町村に在住する12~21歳(3,000名)
調査期間
2017年6月24日~7月20日:訪問留置法による質問紙調査
データの使用申請

最新の調査をはじめ、過去のスポーツライフ・データのローデータ(クロス集計結果を含む)を提供しています。

活用例

  1. 政策立案:所属自治体と全国の比較や調査設計に活用(年齢や性別、地域ごとの特徴を把握)
  2. 研究:研究の導入部分の資料や仮説を立てる際に活用(現状の把握、問題提起、仮説、序論)
  3. ビジネス:商品企画や営業の場面で活用(市場調査、データの裏付け、潜在的なニーズの発見)
テーマ

スポーツライフ・データ

キーワード