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国際情報

Sport News Canada

2017年12月26日

カナダにおけるスポーツ実施率の向上策 Vol. 1:国民調査の結果から

  カナダのスポーツ政策(Canadian Sport Policy)において、「スポーツ実施率の向上」は古くも新しいテーマであり、特に国民の健康(Health)や生活の質(Quality of Life)、幸福(Well-being)といった観点から重要な位置づけとされてきた。しかしながら、その現状を見てみると1992年から2010年にかけてスポーツ実施率は19%も低下しており 注1)、いかに解決が容易ではない課題であるかがわかる(図1)。本稿では、2回にわたってカナダで実施されているスポーツ実施率の向上策を検討していく。今回は、カナダ国民を対象としたスポーツ実施率に関する調査結果をもとに、スポーツや運動といった言葉の定義づけに着目し、スポーツ実施率調査のあり方について考えていく。

  図1は、カナダにおける「スポーツ実施率(Sport Participation)」と「身体活動量(Physical Activity)」の変遷を時系列で表したものである 注2)。「スポーツ実施率」に着目すると、1992年から2010年にかけて減少傾向がみられ、「身体活動量」に関しては、1992年に比べて2010年のデータは上昇していることがわかる。すなわち、2種類のデータ間で逆の傾向がみられるという不思議な現象が起きているのである。こうした違いが生まれる原因のひとつが「スポーツや運動の定義の仕方」である。たとえば、図1におけるスポーツ実施率については、カナダ統計局(Statistics Canada)が15歳以上を対象に実施した調査(General Social Survey; GSS)であり、そこで定義されるスポーツとは、「過去1年間(あるいは一定期間)において、ルールや手続きなどが整備された活動で、競争(競技)を目的としており、少なくとも2人以上が週に1度その活動に実施していること」としている。この定義には、レクリエーションを目的とした非競争的なダンスやハイキング、ジョギングやウォーキングなどは含まれていない。つまり、このスポーツ実施の定義は厳密であり、より狭く、限定的な活動であるといえる。

カナダにおけるスポーツ実施率および身体活動量の経年変化

図1.カナダにおけるスポーツ実施率および身体活動量の経年変化


Sport Participation (2013)およびPhysical Activity Monitor (2008)をもとに筆者作成

* 身体活動量のデータは1994年のデータである

**身体活動量のデータは2007年のデータである



  一方で、身体活動量についてはカナダフィットネス・ライフスタイル研究所(Canadian Fitness and Lifestyle Research Institute)が調査主体であり、20歳以上のカナダ人を対象としている調査である(The Physical Activity Monitor Reports)。ここでの身体活動量とは、スポーツに限らず料理や家事などで体を動かすこと等すべてを含めた活動を指し、1日1.5 MET (Metabolic Equivalent) – hours daily(少なくとも1日30分以上中程度から高強度の身体運動に相当)以上の身体活動をしている人の割合を指す。ちなみに、中程度の活動とは窓ふきやモップがけといった「日常生活の動作」から、レクリエーションを目的としたバドミントンやテニスのダブルスといった「スポーツ」などが相当するとされている。本研究所はスポーツ実施率についての調査も実施しており、2011年と2014年における18歳以上のカナダ人のスポーツ実施率は約34%であり、カナダ統計局が実施した2010年時点での実施率(26%)よりも高い値が算出されている。この理由としては、本研究所が行った調査における「スポーツの定義」がより広義であることが指摘されている(Donnelly, 2013)。

  これらの結果からいえることは、スポーツや身体活動、レクリエーションといった関連する言葉をいかに定義するかによって、その実施率の割合が異なってくるということである。現在日本では、第2期スポーツ基本計画にもとづき、成人の週1回以上のスポーツ実施率を65.0%程度、週3回以上のスポーツ実施率が30%程度になることを目標にしているが、平成28年度に行われた「スポーツの実施状況等に関する世論調査」によれば、成人の週1回以上のスポーツ実施率は42.5%、週3日以上が19.7%となっている。現時点での調査結果やカナダで行われている調査結果を踏まえると、スポーツ庁が掲げる目標値はいかに挑戦的であるかがわかる。しかしながら、図1の結果からわかるようにスポーツや運動をいかに定義づけていくのかによって、算出される数値は変わり、たとえばカナダにおける身体活動量の数値は既に50%程度の割合となっている。日本におけるスポーツ実施率向上の目標達成に向けて、まずは、スポーツ(Sport)や身体活動(Physical activity)、レクリエーション(Recreation)といったキーワードについて、慎重かつ大胆な定義の見直しや取り組みに期待していきたい(表1参照)。

  次回は、スポーツ実施率向上ためのプロモーション活動に着目し、その中心を担っている非営利組織「ParticipACTION(パティシパクション)」を題材として取り上げる。

注1)スポーツ実施率低下の原因として、1)人口の高齢化に伴う身体活動量の低下、2) 移民の増加、3) 労働時間の増加に伴うスポーツ実施時間の減少、そして4) 具体的な実施計画や戦略の不在などが挙げられている(Donnelly, 2013)

注2)わかりやすさを重視し、同じ図に2つの情報を含めているが、統一された調査対象やサンプリング手法・調査年度ではないため、単純な比較ができない点には注意が必要である

注3)この数値は、2004年、2006年においても同様だったとされている

Vol.2に続く)

参考資料

表1. キーワードの定義(Cragg et al., 2016より筆者作成)


身体活動*
(Physical Activity)
身体活動とは、エネルギー消費をともなう骨格筋による身体運動のことを指し、
あらゆる体の動きに関する総称
スポーツ**
 (Sport)
スポーツとは、試合や競技またはそれに類する活動であり、特定のルールに従いつつ、
身体活動や技術をともない、楽しみや仕事として行われる活動
レクリエーション***
(Recreation)
レクリエーションとは、個人やコミュニティにおける幸福の追求を目的とした身体的・社会的・
相互的・創造的かつ精神的な経験であり、その経験への参加は自由意志によって行われる

* World Health Organization. “Health topics: Physical activity.” (2015). www.who.int/topics/physical_activity/en/
** Cambridge University Press. “Sport Definition.” (2016). Retrieved from
   http://dictionary.cambridge.org/us/dictionary/english/sport
*** Framework for Alignment of Active Canada 20/20, Canadian Sport Policy and National Recreation Agenda (not published)

参考文献


レポート執筆者
押見 大地

Visiting Scholar, School of Human Kinetics, University of Ottawa
Partner Fellow, Sasakawa Sports Foundation

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