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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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カナダBC州の車いすバスケットボールプログラム

~BC Wheelchair Basketball Society 前編

2018.02.20

カナダBC州の車いすバスケットボールプログラム~BC Wheelchair Basketball Society 前編

カナダ・ブリティッシュコロンビア州(以下、BC州)の車いすバスケットボールを統括しているのがBC Wheelchair Basketball Society(BCWBS)である。もともと車いすバスケットボールはBC Wheelchair Sports Association (BCWSA) の管轄であったが、プレーヤー数の増加や主要メンバーたちの自立もあり1983年に独立した。インクルージョン、スポーツ参加、エクセレンスの達成を激励するべく様々な車いすバスケットボールプログラムを提供し、会員や会員クラブチームのサポートをしている。現在アクティブな会員は200名弱。カナダでは健常者も障害者とともに車いすバスケットボールを楽しむことができ、州代表レベルまでは障害を持つプレーヤーとほぼ同じ条件での参加が可能なため、BC州でも多くの健常者がプレーを楽しんでいる。
カナダではLong Term Athlete Development Model (LTAD: 長期競技者養成モデル)*といって、プレーヤーがスポーツを始めてからそれぞれの段階でどのようなことをすべきかを示す指標を各スポーツ競技団体が提示している。これが効果的な競技者育成を促すツールとして活用されている。車いすバスケットボールもLTAD**が確立されているため、その段階に沿ってBCWBSのプログラムを見ていきたいと思う。

*Long Term Athlete Development ModelについてはCanadian Sport for Life ホームページを参照

**車いすバスケットボールのLTADについてはWheelchair Basketball Canada ホームページを参照

Awareness / First Contact ~ 気づき、最初の接触

車いすバスケットボールを知ってもらう活動(Awareness)や車いすバスケットボールに興味がある、持ってもらいたい人へのアプローチ(First Contact)は、以下のようなものがある

  • リハビリテーションセンターやコミュニティーセンターでの体験会
    Canadian Wheelchair Sports Association と協同で展開されるBridging the Gap (BTG)プログラムを通して開催される。
  • リハビリテーションセンターでのビギナープログラム
    月に2回行われる外来患者も参加可能なプログラムで、車椅子の操作やパス、シュートなど基礎的なスキルを体験・練習できる。参加費は無料で、受傷後間もない人でも車いすバスケットボールを気軽に試してもらうことを目的としている。
  • スクールプログラム
    地域の学校やコミュニティーセンターにスポーツ用車椅子を貸し出したり、体験する場を提供するプログラム。通常は有料で身体障害を持つ生徒がいた場合は割引や無料で行うこともある。
  • 対象者を絞った体験会
    カナダでは競技人口が比較的少ない切断や最小障害(怪我などの後遺症で健常者スポーツが高い競技レベルでできない人など)をもつ人を対象としたり、女性を対象とした体験会を行う。対象者を絞ることで参加しやすくなったり、その人たちが特に興味を持ちそうな内容を提供することが狙いである。

Active Start / FUNdamentals ~ 導入、基礎づくり

車いすバスケットボールに興味を持った人がプレーを始め、ある程度継続的に基礎を学んでいくためのプログラムには以下のようなものがある。この段階以降のプログラムに参加するには、通常BCWBSの会員になる必要がある。年会費は19歳以上がCAD35(約3,150円)、19歳未満がCAD20(約1,800円)である。

  • BTGゲームナイト
    前述のBridging the Gap プログラムの一環として初心者を対象とし、地域の体育館で月1回平日の夜に開催される。基礎スキルを学ぶが、退院後自立生活を始めた人が参加したり、健常者が参加できることもあり、リハビリテーションセンターのプログラムよりもスピード感があり、よりアクティブである。経験者も参加でき、常にフレンドリーな雰囲気で行われているので、プログラム内で友達ができたり、経験者からバスケットボールのことはもちろん生活のことなど学ぶ機会ともなる。このような環境が長くこのスポーツに参加していくことを促すことにもつながっている。参加は有料だが2時間のセッションが1回CAD10(約900円)、全4回(秋・冬それぞれ)参加すればCAD30(約2,700円)と低額だ。

Learn to Train ~ 習得

さらに基礎を練習して、試合などで応用していきたいと考えるプレーヤーには以下のようなプログラムがある。

  • BTGゲームナイト・パート2
    週1回行われるこのプログラムには誰でも参加できるが、参加者の約半分はBTGゲームナイトを経験したことのある人で、学んできた基礎スキルをさらに練習し、試合形式の練習の中で応用することができる。レベルに応じて二つに分かれて練習するため、自分に合ったペースで楽しみながら練習することができる。加えて、最後に経験豊富なプレーヤーたちと試合形式の練習をすることで、学んだスキルを応用したり次のステップのスピード感を体験したりすることができる。高いレベルの選手との交流で、上達していきたいという気持ちを育むことにもつながっている。
  • ジュニアチャレンジ
    ジュニア選手(20歳以下)のための2日間のイベントで、州の様々な場所から選手が集まり、スキルセッションと試合が行われる。同じ世代のプレーヤーと長い時間を一緒に過ごすことで、友情が芽生えたり、独立心や協力する力を育んだりする機会ともなっている。参加費は年によって異なるが、概ねCAD70(約6,300円)程度である。後述するTrain to Train (次の段階) の選手の参加も歓迎している。

Train to Train ~ トレーニング

Learn to Train の段階を経てさらに上を目指そうとする選手たちは、所属するクラブチームや個人でのトレーニングに加えて、BCWBS が開催する大会や合宿などに参加する。この段階のプログラムやイベントには以下のようなものがある。

  • BCゲーム
    BCゲームソサエティ*という団体が州内の開催地域組織委員会と隔年で開催するマルチスポーツイベント。BCWBSは車いすバスケットボールのチーム編成や競技規定、スケジュールなどを決めて、前述団体とともに競技運営を行う。12~20歳のジュニア選手を対象としており(競技によって異なる)、地域別のチームに分かれて対戦する。開催地への移動はBCゲームソサエティが用意する大型バスを利用し、選手、スタッフ全員が開催地域内の学校で寝泊まりする。Learn to Trainの選手も参加しているが、ジュニアチャレンジよりも競技性が高く、上位3チームにはメダルも授与される。また、コーチや成人のサポートスタッフ以外は、家族であっても一緒に宿泊できないので、初めて親と離れて宿泊する選手も多くおり、様々な面での成長の機会となる。参加費はCAD200(約18,000円)程度で、3泊4日の大会参加費用、交通費、宿泊、食費が含まれている。

    *BCゲームソサエティとは、BCゲーム(夏季・冬季)の運営とカナダゲームなどに参加するBC代表団を統括する州の政府系機関である。これらの活動を通して、アスリート、コーチ、オフィシャル(審判、クラス分け委員など)、ボランティアの育成や地域の発展をサポートしている。

  • BC-CWBL (BC Canadian Wheelchair Basketball League:州リーグ)
    州内のクラブチームが参加するリーグで、通常6~7チームが参加しており、ここ数年は国境に近いアメリカ・ワシントン州からも1チームが参加している。10月~2月の間に3~4回リーグ戦が、3月にリーグ優勝をかけて決勝リーグが行われる。Train to Train に参加している選手が多いが、他のレベルの選手の参加も許されている。より多くの選手やチームの参加を促すために、クラス分けのルールは国際ルールと異なるものが設定されている。リーグ参加費はチームで1シーズンCAD700(約63,000円)程度。

Train to Compete ~ 競技

さらに競技レベルを上げていきたいという選手たちは以下のようなプログラムに参加することができる。ただし、ほとんどのプログラムでBCWBSコーチからの推薦が必要となる。

  • カナダゲームプログラム
    カナダゲームとは、4年おきに開催されるジュニアのためのマルチスポーツイベントで州対抗で行われる。オリンピックのように冬季大会と夏季大会があり、車いすバスケットボールは冬季大会の競技で、男女混合で行われる。競技に関わらずジュニア選手にとっては国内最高峰の大会で、オリンピック・パラリンピック選手の多くはこの大会を経て次のステップへと進んでいく。BC州代表チームは4年を掛けて、このプログラムを通して育成される。最大限のパフォーマンスを発揮できるように、技術面、メンタル面、栄養面など多方面からアプローチをするが、そうした対応が、その後、シニアチーム、ナショナルプログラムに進む準備にもなっている。
  • 州代表プログラム
    シーズン終盤に行われる国内選手権で州の代表として戦うチーム(男女混合、女子)を育成するためのプログラム。3~4回の週末合宿、スキルテスト、メンタルトレーニングなどを選手に提供する。またBCWBSのコーチ陣が、日常的なトレーニングのサポートを行う。遠征と国内選手権には選抜選手を派遣。移動費、宿泊費などの遠征費の選手負担額はCAD100~180(約9,000~16,200円)程度で、それ以外はBCWBSが賄っている。またトレーニング費用などの助成金を提供することもある。
  • その他、カナダ代表になる可能性を持っている選手たちを、カナダ連盟(Wheelchair Basketball Canada)に推薦したり、合宿参加への費用サポートも行っている。

Learn to Win / Train to Win ~ 勝利

BC出身のカナダ代表選手たちの日常トレーニングをカナダ代表コーチ陣と協力してサポートしたり、費用的なサポートを行うこともある。

Active for Life / Competitive for Life ~ 生涯

多くの選手たちは最終的にActive for Life あるいは Competitive for Life の選手となる。前者はレクリエーションとして競技性よりも楽しむこと、アクティブでいることに重きを置いてプレーをし、後者はカナダ代表などを目指すような激しいトレーニングはしないが、州代表などとして競技を楽しみながらプレーを続けていく。
各々の目的やスキルレベルによって、BTGゲームナイト、BC-CWBL、州代表プログラムなどに参加している。あるいは地域のクラブ内だけで練習を楽しむ選手も多くいる。

文中、1CAD=約90円で換算

レポート執筆者

原田 麻紀子

原田 麻紀子

Manager of Program Development,
BC Wheelchair Basketball Society
Partner Fellow, Sasakawa Sports Foundation