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国際情報

Sport News Germany

2018年3月20日

子ども・青少年のスポーツ ―SV ロート・ヴァイス  ヴァルドルフの場合―

  今年もドイツオリンピックスポーツ連盟(Deutscher Olympischer Sportbund:DOSB)がスポーツクラブ加入状況に関する統計を発表した(注1。2017年1月1日の数字が最新であり、ドイツにおけるDOSB傘下のスポーツクラブ数は8万9,594で、前年より431クラブ減少した。会員数は2,740万2,981人で、前年比0.43%の減少である。種目別では、サッカーが最大で、単独のサッカークラブあるいは多種目クラブにおけるサッカー部門は2万4,985に上り、704万3,964人が所属している。前年比1.07%の増加である。サッカーは日本でも盛んであるが、ドイツでは何と言ってもサッカーが一番人気があり、盛んである。男子も女子もサッカーをやりたがる。サッカーに次いでクラブ数・会員数が多い種目は、体操、テニスと続く。

 
Freitags Anzeiger 2017年8月31日 引用:Freitags-Anzeiger  文・写真:Ursula Friedrich

  最近の日本からのスポーツ情報としては、子どものスポーツの勝利至上主義、中・高校の部活動での行き過ぎた指導や活動(体罰や長時間の練習、顧問教員の長時間労働等)が問題視されていることが伝わってくる。そんな折、私の住む町の「故郷新聞」のような地域の情報を伝える新聞「Freitags-Anzeiger(フライタークス-アンツァイガー)」で、SV Rot-Weiss Walldorf(ロート・ヴァイス ヴァルドルフ) e.V.の青少年サッカー部門の活動が紹介されていた。これは、このクラブが夏休み後半に実施している「子どもサッカーの日」についての記事である。子どもたち、コーチ、役員、保護者、アシスタント達が集まり、新しく編成されたチームが紹介されたり、コーヒーとケーキを楽しんだりするものである。青少年サッカー部門責任者のUwe Wolf(ウーベ・ヴォルフ)さんは「ファミリー・パーティー」と表現する。記者のインタビューに対してヴォルフさんは言う、「私達のクラブのサッカーにおけるキーワードは楽しいこと、おもしろいこと。大事なのは厳しい反復練習やプレッシャーではなく、サッカーをする喜びである。結果はあまり重要ではない。」

 

  以下、このロート・ヴァイスの青少年サッカー部門を、ヴォルフさんとのインタビュー、提供された資料、ホームページからの情報で紹介してみたい。インタビューでは、ヴォルフさんがとても情熱的に話されたのが印象的であった。

  このクラブ名であるSVはドイツ語のSportverein(スポーツクラブ)の略、Rot-Weiss(ロート・ヴァイス)は赤と白を意味する。e.V.はeingetragener Verein(登録団体)、つまり法人格があることを意味する。ロート・ヴァイスは、1914年にサッカークラブ、FC Viktoria 1914 Walldorf(ヴィクトリア 1914 ヴァルドルフ)として設立され、戦後、現在の名前で再出発した。会員は1千人ほどおり、種目はサッカー、卓球、ケーゲル(注2、体操、バドミントン、ゴスペル合唱、ダンスである。

  サッカー部門には約600人が所属し、そのうち4歳から19歳までの360人が青少年部門に所属する。U7からU19の年齢別チームの他に、4・5歳のサッカー・キッズが40名いる。クラブ入会希望者は後を絶たないが、現在は全て定員に達しており、入会受付をストップしている。会費は未成年(18歳まで)は月12ユーロである。その他、夏休み中には、クラブ会員でなくても参加できる7から13歳対象のサッカー・サマースクールや、4から6歳対象のミニキャンプが開催される。

  年齢別のチームは全部で20チームある。12・13歳のDジュニアの段階は4チームある。Gジュニア(U7)とFジュニア(U9)には競技会があるが、ランキングはない。全国大会はBジュニア(U17) とAジュニア(U19)で実施される。ロート・ヴァイスのAジュニアは上から3番目のリーグ、B は2番目のリーグに属する。同じ年齢で複数のチームがある場合、まずは子どもの競技力、素質などで組分けが行われる。しかし、これは流動的で、例えば学校の勉強が大変だからという理由などで、子ども自身の判断で下のクラスへ移る場合もある。また、近隣の大都市であるフランクフルト等の強いサッカークラブへ移って、もっと自分の競技力を高めたいという子どもがいると、「頑張れよ、また戻りたい時にはいつでも戻っておいで」と送り出してあげる。ブンデスリーガのプレーヤーになった子どもも一人いる。クラブは、積極的に子どもたちが人生のチャンスを掴む支援をするのである。

  ロート・ヴァイスの青少年サッカー部門のホームページを見ると、試合や大会の日程の他に、「私達について」というページがある。その中には、理事会・コーチ・組織図・フィロソフィー・目的・戦略・アドバイスと続く。ここには青少年サッカー運営におけるクラブのコンセプト、基本理念が述べられている。

  クラブは2005年頃から、青少年サッカーのコンセプトづくりに取り組み始めた。その背景には、社会が変わってきた;子どもの環境が変わってきた;子どもへのプレッシャーが大きくなってきた;子どもが子どもでいられなくなってきた;という認識がある。これに対処するために、青少年サッカーがどうあるべきかを考え直したのである。競技力の向上もさることながら、基本は、子どもたちを社会的、人間的に強くすることが目標である。「社会的リテラシーを身につけさせることが重要である。」とヴォルフさんは言う。サッカーで良い成績が出ればもちろん喜ぶが、サッカーの成績にこだわることはむしろ避ける。どんなに小さな子どもでも、一人の人間としてリスペクトをもって接し、怒鳴ったり、プレッシャーをかけたりすることはしない。一人一人が大事なのだ、という気持ちを子どもたちに伝えることを大切にする。サッカーを楽しく体験して、末長くスポーツをする人間をつくることを心がけている。

  ロート・ヴァイスの青少年サッカー部門では、約50名の関係者がクラブの運営・競技指導にあたる。皆ボランティアである。なお、ヴォルフさんは「青少年指導者」という肩書で青少年部門の責任者を務める。クラブのホームページに紹介されているコーチは35名いるが、この町在住の人ばかりではない。青少年を指導するには、指導者の資質が大切である。コーチはそれぞれレベルの差はあるが、皆コーチのライセンスをもっている。ライセンス取得の講習会に参加して首尾よく合格する場合、また、再教育の講習会に参加する場合もクラブが費用を負担する。どの年齢でどういうことを習うべきか、というサッカー指導者用のカリキュラムができていて、コーチはそれに従って指導する。コーチの連絡会議も定期的に行われる。クラブの基本的方針に反した場合、やめてもらう場合もある。
  前述したようにチーム分けが競技力によって決められると、下位のチームになった子どもたちが劣等感をもつようにならないだろうか。ヴォルフさんは言う、「だからこそ、そういうチームの指導には優秀なコーチがいるのだ。特に教育学的、心理学的に良い指導が必要となるから。」

  近年、ドイツは多くの避難民を受け入れた。ロート・ヴァイスでもそのような人たちの「スポーツのふるさと」になってもらうため、インテグレーション活動も重視する。ただし、誤解を避けるためクラブで使用する言葉は「ドイツ語」と決めている。

  また、このクラブで見落とせないのが、保護者との関係である。クラブのホームページや子どもが入会した時に配布する保護者へのパンフレット「スポーツクラブ ロート・ヴァイスへようこそ。クラブのサッカーを子どもたちと一緒に体験しましょう」にも、8項目に渡って保護者へのアドバイスが記載されている:

  • 1)サッカーはおもしろいということ
  • 3)子どものサッカーの発展
  • 4)チームへの支援
  • 5)ピッチ脇での行動・態度
  • 6)スポーツ的にフェアでいること
  • 7)サッカーを一緒に体験すること
  • 8)問題を共に解決すること
 

  さらに保護者には、「私達は皆さんの子どもたちのために活動しています。信頼して、支援してください。」と伝える。そして、「応援するのは歓迎ですが、相手チームの子どもを侮辱したり、自分の子どもを叱ったり、レフェリーに文句を言ったりすることはご遠慮ください。そして相手チームのいいプレーには拍手を送ってください」と呼びかける。クラブの方針に反した保護者の行動に際しては、退部をお願いすることすらある。

  ヴォルフさんは再度熱く語る。「コーチの顔色を伺ったり、『どうしたらいいの?』とコーチの方を見たりするのはだめ。自分で判断してもらう。そうすれば、上手くいかなかくとも、次に子どもが自分自身で考えるようになる。サッカーの結果は気にしない。私達がやっているのはプロサッカーではない。余暇活動であるのだから。」

注1)DOSBウェブサイト、「Bestandserhebungen - Mitglieder-Statistik」
http://www.dosb.de/de/service/download-center/dosb-organisation/bestandserhebung/

注2)ボウリングに似た9ピンのゲーム

参考資料:SV Rot-Weiss Walldorf Jugendfussball ホームページ

http://www.rww-jugendfussball.de/

「Freitags-Anzeiger」(2017.8.31)、クラブ提供資料、DOSBウェブサイト

レポート執筆者
高橋 範子

Correspondent, Sasakawa Sports Foundation


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