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国際情報

Sport News Brazil

2016年02月16日

2016年リオデジャネイロ大会のレガシー・プラン Vol.1

2014FIFAワールドカップブラジル大会では、マナウス、クイアバ、ブラジリアなど地元に大きなサッカークラブがない都市に公的資金で巨大スタジアムを建設したが、大会後は十分に活用されておらず、メディアと国民から「税金の無駄遣い」と批判されている。しかも、国内経済は昨年に続いて今年もマイナス成長が予想され、不況の真っ只中。国民の間では、74億レアル(約2,163億円)の巨費を投じて開催するリオデジャネイロオリンピックとパラリンピックのレガシー(遺産)の内容を問う声が高まっている。

すでに昨年7月29日、リオ市はオリンピックとパラリンピックの「レガシー・プラン」(ポルトガル語)※1を発表。エドゥアルド・パエス市長は、「リオ市がオリンピックに奉仕するのではなく、オリンピックがリオ市に奉仕するのだ」と述べ、大会のために建設した各種施設の大会後の活用方法について説明している。

※1 「レガシー・プラン」の詳しい内容についてはvol.2にて報告予定

レガシーは公共交通機関とスポーツ関連施設に大別されるが、このうち市民により直接的に恩恵をもたらすのが公共交通機関だろう(近年、リオ市民は未曾有の交通渋滞に悩まされているが、大会後にそれが劇的に改善されることを夢見て不便を耐え忍んでいる)。

市民が完成を最も待ち望んでいるのが、市南部イパネマ地区と主要会場バーラ地区をつなぐ地下鉄延長工事だ。※2 完成予定は今年7月とオリンピック開幕直前だが、一日に30万人以上が利用すると見られている。

※2 交通網と各地区を記載した地図はこちら

市の中心部を走る路面電車VLT(ライトレール)は、一日に27万人が利用する見込み。

共に主要会場であるデオドロ地区とバーラ地区を結ぶBRT(バス高速輸送システム)も、一日に30万人以上の利用が見込まれている。※3 また、市南部サンコンラード地区とバーラ地区では高架道路の拡張工事が行われており、完成すれば交通渋滞緩和に役立ちそうだ。

※3 VLTとBRTのイメージ:VLTBRT

スポーツ施設の多くは、大会後もスポーツ大会の会場として、あるいはトップ選手の練習施設として使用される。ただし、施設を改修して別の用途に使用するケースもある。

たとえば、バーラ地区のオリンピック・トレーニングセンターの第3ホールはオリンピックのフェンシングとテコンドー、パラリンピックの柔道の会場だが、大会後は全面的に改修されてスポーツ専門校となり、柔道、卓球、バレーボール、バスケットボールなど10競技のトップ選手を目指す青少年850人の練習と勉学の場となる(注:このスポーツ専門校については、今後の記事で詳しく取り上げたい)。

オリンピックのハンドボールとパラリンピックのゴールボールが行われる第4ホールも、全面改修されて4つの小学校や中学校が設立され、約2,000人の生徒が学ぶ。

オリンピックの自転車(トラック)会場は、ボクシング、フェンシング、重量挙げ、テコンドーの練習施設に改修される。

デオドロ地区では、カヌー(スラローム)と自転車(BMX)の総面積50万㎡の会場が巨大な多目的レジャーエリアとなる。リオ市が運営し、地域住民150万人に水泳、バスケットボール、バレーボール、フットサル、マウンテンバイク、ローラースケート、ピクニック、バーベキューなどを無償で楽しむ機会を提供する。

オリンピックのため新たに建設されたゴルフ場は、大会後の20年間、リオ市がブラジルゴルフ協会に管理を委託し、パブリックコースとして使用される。

選手村は民営化されて高級マンションとなり、国際メディアセンターは改修されてオフィスとなる。

ブラジルでは、大半の公立校は体育館やプールなどのスポーツ施設を備えておらず、クラブ活動もない。このため、スポーツを楽しむには地域のスポーツクラブ(有料)に入らなければならず、中流以下の家庭ではスポーツを楽しむ機会が限られていた(このような事情もあり、公園や路上で手軽に楽しめるサッカーに人気と競技人口が集中していた)。

オリンピックとパラリンピックのレガシーによって、少なくともリオではスポーツを楽しむ機会の不平等が多少なりとも是正されることになる。ただし、これらの施設を恒久的に維持、運営するためには多額の費用を要する。仮にリオ市、リオ州、ブラジル政府が適切な運営を怠れば、これらのレガシーは遺産ではなく廃墟となりかねない。

オリンピック開幕まで、約6カ月。競技施設の建設は目途がつき、交通機関も概ね完成しそうだ。

国内では、サッカー、バレーボール、ビーチバレー、バスケットボールなどの限られた人気種目を除くとチケットの売れ行きが不調で、オリンピック、パラリンピック開催の機運があまり盛り上がっていない(その最大の理由は、欧米、日本のように多くの種目を観戦する習慣がないため)。

それでも、いざ大会が始まれば、ブラジル選手の活躍に感動し、奮い立ち、それが経済再建を後押しするのではないか。世界のトップアスリートの超人的なプレーを目の当たりにすれば、これまであまり関心が持たれていなかった種目の競技人口が増えるかもしれない。また、観戦のためブラジルを訪れた世界各国の人々との交流を通じて、自分たちが世界市民であることの自覚が増し、外国への興味と関心が高まるのではないか。

もしこのようなことが起きれば、それこそがリオ市民、ひいてはブラジル国民にとっての最大のレガシーとなるはずだ。

※文中、1レアル=約29円で換算

参考文献

http://www.brasil2016.gov.br/pt-br/legado/plano-de-politicas-publicas
ブラジル連邦政府の2016年オリンピック・パラリンピック公式サイト
「2016年オリンピック・パラリンピックの公共政策とレガシー」(改訂版) (2015年4月24日)

http://www.rio.rj.gov.br/web/guest/exibeconteudo?id=5492328
リオデジャネイロ市公式サイト
「2016年オリンピック・パラリンピックのレガシー・プラン」(2015年7月25日)

レポート執筆者
沢田 啓明

Sports Journalist

Partner Fellow, Sasakawa Sports Foundation

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