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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

アメリカ・ミネアポリスにおけるスポーツと自転車政策

2017.05.01

アメリカ・ミネアポリスにおけるスポーツと自転車政策

今回はアメリカの中西部ミネソタ州ミネアポリスの取り組みを紹介する。ミネアポリスは日本ではあまり馴染みのない街ではあるが、人口約41万人(2015年時点)の中規模の都市である。街の中心にはミシシッピ川が流れており、この川を中心に発展した自然豊かな街である。ミネソタ州の州都はセントポールであるが、ミネアポリスと隣接しているため、2つの街を合わせてツインシティ(双子のような街)という愛称で呼ばれている。

ミネアポリスのスポーツ

そんなミネアポリスだが、セントポールを含めたツインシティエリアには、アメリカ4大スポーツのチームがあり、スポーツが盛んな街でもある。
MLB: Minnesota Twins (ミネソタ・ツインズ)
NFL: Minnesota Vikings (ミネソタ・バイキングス)
NBA: Minnesota Timber Wolves (ミネソタ・ティンバーウルブス)
NHL: Minnesota Wilds (ミネソタ・ワイルド) 
2017年シーズンからは新たに、Minnesota United FC(ミネソタ・ユナイテッド) がメジャーリーグサッカー(MLS)に参入した。また女子プロバスケットボールリーグ(WNBA)所属チームのMinnesota Lynx (ミネソタ・リンクス) は、2015年にWNBAファイナルで優勝し、盛り上がりをみせている。加えて、ミネソタ大学の各スポーツチームも非常に人気が高い。

スポーツをする、という面では、アメリカ合衆国保健福祉省(United States Department of Health and Human Services)所管のアメリカ疾病予防管理センター(National Center for Chronic Disease Prevention and Health Promotion)の2013年調査によると、週に150分以上中強度の身体活動を実施した18歳以上の割合は、ミネソタ州では52.7% (全州平均51.6%)であった。また、全く身体活動を行っていない人は23.5% (全州平均25.4%)と報告されている。さらに、ミネアポリスに限っていえば、「ACSM American Fitness Index®」のランキングにおいて、2015年、2016年ともに全米第2位であった(詳細は鎌田研究員の報告を参照のこと) 。このように、ミネアポリスではスポーツをみるだけではなく、スポーツ実施、あるいは健康に対しても意識啓発が行われている。以下に、ミネアポリスでは、どのようなスポーツが行われ、取り組みが行われているのか、その一端を報告したい。

ミネアポリスの自転車政策

ミネアポリスでは、近年、「Active Living」という考えの下、スポーツ実施を促す1つの取り組みとして自転車政策を展開しており、「The League of American Bicyclists」によって自転車に優しい街のひとつとして評価されている。「The League of American Bicyclists」は、人々が自転車を安全に楽しめるよう教育プログラムの提供・環境整備などを行っている、1880年に設立された非営利団体であり、毎年、全米各州の自転車政策やプログラムなどを評価して、ランキングを発表している。このランキングによると、ミネソタ州は2015年に第2位となった。またコミュニティ、大学、企業レベルでも、その取り組み内容に応じて「Bicycle Friendly Community/ Universities/ Business」としてダイアモンド、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズの5つのレベルで表彰している。ミネアポリスは、2015年にゴールドを受賞した。

実際に、2014年に発表されたアメリカ政府の統計では、ミネアポリスの労働者人口204,885人のうち4.1%が自転車通勤をしており、その数は増加傾向にある。筆者も、春から秋の時期にかけては、スーツ姿で自転車に乗るサラリーマンや、週末にロードバイクやサイクリングを楽しむ人をよく目にする。

自転車への人気は、ロンドンやパリなどのヨーロッパでもみられており、健康や環境への意識の高さによるものと考えられるが、スポーツ環境を整えるという観点から、ミネアポリスが行う2つの取り組みを紹介する。

(1)ミネアポリス市による自転車専用道路の拡大

ミネアポリスの自転車政策の変遷を見ると、ミネアポリスが属する郡レベルでの取り組みを含めれば、1997年から自転車専用道路や施設の整備が開始されている。
2001年にミネアポリス市は「Bikeways Master Plan」を作成しており、それ以前の取り組みを合わせて、合計84マイルの自転車専用道路、約44マイルの自転車専用レーンが市内に整備された。2011年には「Minneapolis Bicycle Master Plan」を新たに作成し、自転車利用者の安全性やモビリティの向上といった観点でも施設の整備が進められている。このマスタープランの具体的な目標の一例は、

  1. 自転車専用道路の拡大 (2011年からの30年間で183マイルの自転車専用道路を整備、予算2.7億ドル<約297億円>)
  2. 駐輪場など自転車関連施設の拡充およびメンテナンス
  3. 自転車シェアリングシステムの拡大

といったものである。また電車やバスといった公共交通機関と連携し、車内に自転車ラックを設置し、自転車の持ち運びが可能になるなど、自転車利用者の利便性も向上している。一方で、自転車による怪我や事故は重要な課題となっている。2015年のデータでは、自転車通勤者に対する事故の割合は0.3%程度(自転車通勤者10,000人以上、事故件数約250件)であった。事故の割合は年々減少傾向にあるものの、死亡・重傷事故は引き続き発生しており、安全な自転車専用道路、自転車専用レーンの整備と共に、自転車利用者および自動車運転者に対する教育もこのマスタープランの重要な施策として位置づけられている。

(2)自転車シェアリングシステム

自転車シェアリングシステムは、アメリカの多くの都市で導入されている。ミネアポリスでは、2010年より官民共同により非営利ビジネスとして「Nice Ride(ナイス・ライド)」と呼ばれるシステムが導入された。シェアリングの仕組みは、多くの都市で導入されているものと類似しており、市内190ヵ所に設置された自転車ステーションにて、自転車のレンタル・返却を行う。1回あたり使用時間は30分で3ドル(約330円)、自転車ステーションの使用は24時間可能となっている。

2010年の導入時点では、自転車700台、自転車ステーション65ヵ所であったが、利用者数の増加や利便性の向上のため、2016年時点では自転車1,800台、自転車ステーション190ヵ所にまで拡大している。単純に自転車台数や自転車ステーション数を他の都市と比較すると、少ない状況ではあるが、ミネアポリスのみならず、隣接するセントポールにおいても同じNice Rideが使用可能になっており、行政区を超えた運営が行われている。

また、利用者の利便性を高めるため、スマートフォン向けのアプリも開発されており、各自転車ステーションの空き状況を確認したり、自転車をレンタルしたりすることも可能となっている。Nice Rideが提供する公式アプリ以外にも、電車やバスなど公共交通機関の乗換案内アプリの中にもNice Rideの情報が含まれている。

Nice Rideの自転車ステーション(筆者撮影)

Nice Rideの自転車ステーション(筆者撮影)

まとめ

今回はミネアポリスにおけるスポーツ事情の一端として、自転車に関する取り組みを紹介した。市民の自転車に対する関心も高く、健康促進に貢献している可能性もある。日本においても自転車シェアリングシステムが導入されたり、ロードレース大会が開催されたりと、人々の関心が高まっているが、都市が隣接している日本の地理的条件を考えると、自転車を通じたスポーツ政策の効果は高く期待できる。そのうえでミネアポリスおよびセントポールでの取り組みはひとつの事例になるであろう。

※文中、1ドル=約110円で換算

参考資料

レポート執筆者

相澤 くるみ

相澤 くるみ

Visiting Scholar, Research Institute for Sport Knowledge, Waseda University Visiting Scholar, School of Kinesiology, University of Minnesota Correspondent, Sasakawa Sports Foundation