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国際情報

Sport News United States of America

2015年02月27日

米国の健康政策とスポーツ振興 Vol.3
National Physical Activity Plan

前回の記事では、アメリカで一連の健康政策のベースとなっているHealthy Peopleの身体活動に関する目標項目についてまとめた。今回は、身体活動の促進に特化して組織・計画された国の政策であるNational Physical Activity Plan(全米身体活動計画、以下、計画)について、その概要を紹介したい。

One day, all Americans will be physically active and they will live, work, and play in environments that facilitate regular physical activity.

いつの日か、全てのアメリカ国民がよく体を動かすようになり、習慣的に身体活動を実施しやすい環境のもとで生活し、働き、遊ぶようになる

この一文に示されたビジョンのもと、この計画は2006年から策定プロセスが開始し、2010年に正式に打ち出された。現在は、非営利組織としてのNational Physical Activity Plan Allianceが官民共同で構成され、その理事会(Board of Directors)の主導で計画が進められている。理事会のトップであるRussell Pate氏(サウスカロライナ大学)をはじめ、メンバーは、身体活動の促進(行動科学等)に関する専門家で構成されている。連邦政府からは疾病予防管理センター(Centers for Disease Control & Prevention: CDC)と農務省(US Department of Agriculture)の代表者が参画し、民間からは米国医師会(American Medical Association)やYMCAなど関連学会・団体の代表者が加わっている。なお、この計画の立ち上げ当初は疾病予防管理センター(CDC)の拠出資金が主たる財源であったが、現在は、構成団体やスポンサー企業による提供資金が財源となっており、事務局はRussell Pate氏の所属するサウスカロライナ大学内に置かれている。

この計画は、1.ビジネスと産業、2.教育、3.ヘルスケア、4.マスメディア、5.公園・レクリエーション・フィットネス・スポーツ、6.公衆衛生、7.交通・土地利用・コミュニティデザイン、8.ボランティアと非営利組織、という8つの領域(sectors)と、全体を包括する戦略(overarching strategies)から成り立っている。理事会と作業部会による計画策定にあたっては、身体活動を促進する手段に関する科学的知見(エビデンス)を提示すること、全ての社会階層の人々のための取り組みを盛り込むこと、健康行動のエコロジカル・モデルに基づいた計画とすること(前回記事の図1に示したような環境を考慮した考え方)、そして定期的に更新していくことで、計画を「生きた文章(living document)」としていくことなどが指針とされた。政策上の位置づけとしては、本シリーズVol.1で紹介した身体活動ガイドラインが推奨する身体活動の内容(種類・時間頻度)を人々に普及させる役割を持ち、そうした身体活動を実際に人々が生活の中で行えるような社会を実現するための戦略と取り組みが、この計画であると言える。

5.公園・レクリエーション・フィットネス・スポーツの領域を例にとって、具体的な計画の内容を見てみると、まず、この領域の中では、6つの戦略(Strategy)が掲げられており、その戦略ごとに、具体的な方策(Tactics)が示されている。

例:戦略3.

既存のプロ、アマチュア、大学のアスリートとスポーツ施設およびプログラムを活用した地域の人々の身体活動機会の強化

その方策の例:

アスリートやスポーツマネジメント・スタッフを対象とした、(身体活動を促進するための)個人の行動変容と環境及び政策的介入に関するトレーニング

  • スポーツ・イベント会場を利用した、(身体活動促進に関する)メッセージの発信と、体を動かすプログラムの提供
  • ソーシャル・マーケティングによる「観るスポーツ」文化の変革と、それを利用した身体活動の促進

Healthy Peopleと同様、この計画でも、策定だけでなく、実践(Implementation)と評価(加えて改訂)を重視しており、コミュニケーション・チーム(Chairはミシガン大学のMichelle Seger氏)も編成されている。ウェブ上で、自由に利用できるロゴやスライド資料が提供されているほか、FacebookやTwitterなどのソーシャル・メディアでそのまま利用できるメッセージ集も掲載されている(Get Involved: Social Media)。

また、各分野における取り組みを促進し、ネットワークの活性化を図る目的で、総会(National Physical Activity Plan Congress)も開催している(2015年2月23-24日、Washington, DCにおける総会のリンクはこちら)。講演やパネル・デイスカッション、各地域における実践の表彰(Champions Awards)が行われ、参加費を支払えば自由に参加できる形式となっている。この総会開催に当たっては、多くの関連団体・企業の協賛を得ており、食品メーカー、フィットネス・トレーニング用品メーカー、出版社、研究機器メーカーに加えて、非営利組織である関連学会・団体(アメリカスポーツ医学会、アメリカがん学会等)や財団(Robert Wood Johnson Foundation)などが協賛スポンサーに名を連ねている。

定期的に実施するとされている評価については、2014年に子どもの身体活動の状況に関する報告書(The 2014 United States Report Card on Physical Activity for Children & Youth)を発表している。それによると、上述したエコロジカル・モデルに基づいて多面的な観点から自国の子どもの身体活動について“成績表”を付けている(表1)。

表1.The 2014 United States Report Card on Physical Activity for Children & Youthによる子どもの身体活動状況に関する評価一覧

指標(Indicator) 評価(Grade)*
身体活動全般 D-
座位行動
活動的な移動(徒歩及び自転車通学)
組織的スポーツ活動 C-
活動的な遊び (データ不十分)
健康関連体力 (データ不十分)
家族及び友達 (データ不十分)
学校(体育) C-
地域と構築環境(公園等) B-
政府の政策と投資 (データ不十分)

*ベンチマークの達成割合:A = 81-100%; B = 61-80%; C = 41-60%; D = 21-40%; F = 0-20%

データ不十分で採点できない分野を除くと、最低ランクである「F」の評定を受けているのが、通学手段(移動)に関する項目である。報告書によると、1969年の時点では、徒歩もしくは自転車により通学していた子ども(幼稚園から中学生まで)の割合が47.7%であったのが、2009年時点ではたったの12.7%にまで下がっている(図1)。また、スクールバスの利用が39.4%で、自家用車による通学がなんと45.3%にも上る。子どもの頃から車でドアtoドアの移動という生活に慣れさせてしまっているこの現状は、将来世代を育む環境として危機的な状況にあると言え、これを反映した「F」評定となっている。地域によっては、スクールバスも低学年については自宅の前まで迎えに来るシステムとなっている。犯罪や交通上の安全、学校と自宅の距離なども影響しているとは言え、保護者を含めた社会全体の認識を変え、有効な取り組みを地域一丸となって取り組むことが必要になるだろう。

図1.アメリカにおける子どもの通学手段(1969年、2009年.K-8 students. The 2014 United States Report Card on Physical Activity for Children & Youthを元に作成)

一方、日本で長年、地道な取り組みが継続されてきた徒歩通学の推進(通学手段に占める割合は98.3%!)は、米国をはじめ諸外国の参考になると考えられる(参考:WHO神戸センター)。筆者も、島根県の中山間地域で、少子化による学校の統廃合が進む中、自宅から離れた学校までバス通学への変更を余儀なくされた子ども達の徒歩時間(身体活動量)を確保するため、学校や地域住民と一緒に工夫して様々な取り組みを行ってきた経験がある。学校と地域が一丸となって取り組めば、アイデア次第でむしろ非常に有効で面白い取り組みが可能となる。米国の悲惨な状況を見るにつけ、日本の文化・システム・ノウハウの価値を再認識するとともに、良い部分は堅持していかなければと決意を新たにする次第である。

まとめ

米国におけるNational Physical Activity Planの内容と取り組みを概観してきた。子どもの身体活動に関する報告書が示すように、現状としては課題が多いものの、今後、国を挙げて取り組もうとしている戦略については、興味深いアプローチが含まれている。実践と評価を重視しているこの計画が、これからどのような成果を上げていくか、注視していきたい。

※本稿は、日本学術振興会海外特別研究員制度による研究の一環としてまとめたものである。

海外研究員
鎌田 真光

Postdoctoral Research Fellow
Brigham and Women's Hospital, Harvard Medical School

Correspondent, Sasakawa Sports Foundation

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