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国際情報

Sport News United States of America

2015年02月16日

米国の健康政策とスポーツ振興 Vol.2 Healthy People

前回紹介した「身体活動ガイドライン」では、どのような種類・量の身体活動を実施すると健康増進につながるかがまとめられている。それでは、そうした種類・量の身体活動を実際に実施する人々を増やすために、アメリカではどのような政策がとられているのだろうか?ここでは、そうした国の一連の政策のベースとなっている「Healthy People」における「計画」と「目標」に焦点を当てて見ていきたい。

Healthy People 目標による管理

Healthy Peopleは、米国の健康政策全般の計画・実施・評価の枠組みとなっているものであり、日本の「健康日本21」もこれを参考に推進されている。「Healthy People 2000」以来、10年ごとに更新されており、現在、「Healthy People 2020」が米国保健福祉省(U.S. Department of Health and Human Services)の主管により推進されている。この政策には、「目標による管理」という考えがベースにあり、現在は、2020年までに達成すべき目標値が、それぞれの分野ごとに設定されている。表1に、Healthy People 2020で設定されている身体活動に関する15分類の目標を示した。

表1.Healthy People 2020における身体活動の目標

目標 数値目標項目(例) 現状値 目標値
(2020年)
  •   1.余暇身体活動時間がゼロの成人の割合を減らす
余暇身体活動時間がゼロの成人の割合 36.2%(2008年) 32.6%*
  •   2.身体活動ガイドラインの有酸素性活動と筋力向上活動の基準を満たす成人の割合を増やす
中高強度の有酸素性活動を150分/週以上もしくは高強度の活動を75分/週以上、かつ、筋力向上活動を2日/週以上行う成人の割合 18.2% a(2008年)
有酸素のみ:43.5%
筋力のみ:21.9%
20.1%*
  •   3.連邦身体活動ガイドラインの有酸素性活動と筋力向上活動の基準を満たす子どもの割合を増やす
有酸素性身体活動を60分/日行う子どもの割合 28.7% b(2011年) 31.6%*
  •   4.全ての生徒に日常的な体育を必修とする公立および私立学校の割合を増やす
体育が150分/週以上の小学校の割合 3.8% c(2006年) 4.2%*
  •   5.日常的に体育の授業を受ける青少年の割合を増やす
週に5日以上体育の授業を受ける9-12年生の割合 33.3% b(2009年) 36.6%*
  •   6.休み時間(recess)を設定している小学校の割合を増やす
小学校に休み時間の設定を義務づける州の数 7州 c(2006年) 17州**
  •   7.小学校が一定の休み時間を設定することを義務付けるか推奨する学校区の割合を増やす
20分以上の休み時間を小学校に義務付ける学校区の割合 61.5% c(2006年) 67.7%*
  •   8.TV・ゲーム等時間(screen time)が推奨上限内の子ども・青少年の割合を増やす
TV・ビデオ・ゲーム時間が2時間以内の6-14歳の割合 78.9% d(2007年) 86.8%*
  •   9.幼児を対象とした身体活動プログラムを認可条件として有する州の数を増やす
子どもの運動能力の発達に資する活動を託児所・保育所等に義務付ける州の数 25 e(2006年) 35***
  • 10.全ての人々が運動施設・場所を時間外利用できる公立・私立学校の割合を増やす
運動施設の時間外利用を認めている小中高校の割合 28.8% c(2006年) 31.7*
  • 11.身体活動に関する助言や教育を含む医師受診の割合を増やす
循環器疾患・糖尿病・高脂血症患者の受診のうち、身体活動に関する助言や教育を含む割合 13.0% f(2007年) 14.3%*
  • 12.雇用主が提供する運動施設および運動プログラムを利用できる成人の割合を増やす(developmental)
雇用主が提供する運動施設および運動プログラムを利用できる成人の割合 (現状値なし)a
  • 13.歩行による移動の割合を増やす(developmental)
18歳以上の成人による移動のうち、1マイル(約1.6km)以下の移動に占める歩行の割合 (現状値なし、
調査データ検討中)
  • 14.自転車による移動の割合を増やす(developmental)
18歳以上の成人による移動のうち、5マイル(約8km)以下の移動に占める自転車利用の割合 (現状値なし、
調査データ検討中)
  • 15.身体活動の機会を増やす構築環境(built environment)に関する法律・政策を増やす(developmental)
身体活動の機会を増やす構築環境に関するコミュニティ規模の政策の数 (現状値なし、
調査データ検討中)
  • 目標値の設定方法:*10%向上; **投影・傾向分析; ***国のプログラムや規制、政策、法律との一貫性
  • a National Health Interview Survey
  • b Youth Risk Behavior Surveillance System
  • c School Health Policies and Practices Study
  • d National Survey of Children's Health
  • e National Resource Center for Health and Safety in Child Care and Early Education
  • f National Ambulatory Medical Care Survey

これらの目標が選定された背景には、健康の決定要因(Determinants of health)に関する図1のような認識がある。すなわち、健康に影響を与えるものには、個人の特性や行動だけではなく、個人を取り巻く環境等も含まれる。したがって、表1の1番目、2番目のような身体活動の実施率・行動に関する目標に加えて、職場や環境に関する目標とその達成に向けた取り組みも重要となる。12番目の職域関連目標のように、ベースラインとなる現状値に関する全国データが存在しないものの、developmental objectives(発展途上の目標)として選定されているものも含まれている。

図1.Healthy People 2020における健康の決定要因の考え方

また、Healthy People 2020策定の一連のプロセスにおいて中心的な役割を果たしたのは連邦省庁間作業グループ(FIW: Federal Interagency Workgroup)である。この作業グループは、保健福祉省だけでなく、農業(U.S. Department of Agriculture)、教育(U.S. Department of Education)、都市計画(U.S. Department of Housing and Urban Development)など、実に多様な省庁からメンバーが集められている。身体活動の分野においても、例えば、個人の行動に影響を与えている「環境」という視点で考えると、歩道の設置や自転車道の整備などは、都市計画分野の参画なしに進めることはできない。こうした、多分野協働、分野横断的なアプローチの必要性を認識した上で推進がなされている。

Healthy People 2020では、ただ策定された計画が示されているだけでなく、ウェブ上でその達成状況が随時確認できるようになっている。例えば、計画全体の中でも優先度の高い目標と位置づけられているLeading Health Indicatorsの一つである「2. 『中高強度の有酸素性活動を150分/週以上もしくは高強度の活動を75分/週以上』かつ『筋力向上活動を2日/週以上』行う成人の割合」の達成状況を見てみると、図2のように推移している。2010年には、既に目標値である20.1%を上回っており、早々に目標を達成していることが分かる。この目標値は、ベースラインとして設定された2008年の値から10%向上という相対的な基準をもとに設定されているが、絶対値の割合としては2割と決して高い水準ではないため、2020年にはさらに高い割合にまで目標を引き上げることが検討されるべきであろう。

図2.「中高強度の有酸素性活動を150分/週以上もしくは高強度の活動を75分/週以上」かつ「筋力向上活動を2日/週以上」行う成人の割合
(Healthy People 2020ウェブ上の情報をもとに作成。データ元:National Health Interview Surveyによる自己申告データ)

こうした目標に関連するデータのほか、Healthy People 2020のウェブ上には、身体活動を促進するための様々な介入の効果に関する研究知見へのリンク(Interventions & Resources)が張られており、Consumer Informationのコーナーには、国民にとって直接生活に役立てられる情報をまとめたリンク集が掲載されている。

以上、Healthy Peopleの身体活動に関する内容について概観してきた。この政策全般の考え方や、インターネットを活用したその進め方には、興味深い点が多々ある。ここでは紹介しきれなかった部分もあるため、興味のある方はぜひ一度、ホームページを訪れて眺めていただきたい。

※本稿は、日本学術振興会海外特別研究員制度による研究の一環としてまとめたものである。

海外研究員
鎌田 真光

Postdoctoral Research Fellow
Brigham and Women's Hospital, Harvard Medical School

Correspondent, Sasakawa Sports Foundation

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