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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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Tokyo 1964 - 2020(和訳:東京1964年~2020年)

2015.05.15

Tokyo 1964 - 2020(和訳:東京1964年~2020年)

日本が1964年の夏季オリンピック東京大会から受け継いだレガシーは、今も確実にしっかりと残っている。50年前、アジアで初めて開催された夏季オリンピックは、スポーツに限らず、さまざまな分野で記録を打ち立てた。マレーシアなどの新興国がオリンピックに初参加することとなった一方で、南アフリカはアパルトヘイト政策により参加を認められなかった。1964年のオリンピックは、海外に向けて初めてテレビ放送された大会となり、国内市場に向けては、いくつかの人気競技の放送に東芝の新しいカラー伝送システムが用いられた。大会開催のわずか9日前には、日本で最初の新幹線が開業し、東京、名古屋、大阪間を結ぶ東海道新幹線が世界最速の鉄道となった。競泳の会場には、スタートの号砲からタッチ板に触れるまでのタイムを計測する水泳競技用の新しい計測システムが導入された。東京に初めて建設された3層構造の道路を含むさまざまな技術革新は、日本がいかに技術面で先進国としてふさわしく、有形無形のレガシーをもたらすことができる高度成長国家であるかということを世界に示す機会となった。

2020年の東京オリンピック・パラリンピック(以下、2020年東京大会)は、日本にさらなる成長、変化そして革新を引き起こす契機となるだろう。大会のレガシーに関する事項を組織委員会とは別の組織に委ねた2012年ロンドン大会とは異なり、東京2020オリンピック・パラリンピック組織委員会(以下、組織委員会)は、自らの中心的なミッションのひとつに据えることとした。ロンドンでは、大会の主要レガシーのひとつであるクイーン・エリザベス・オリンピック・パーク(ロンドン東部)を管理運営するため、ロンドンレガシー開発公社(LLDC)が2012年4月に設立された。同公社はロンドン市長管轄の「市長開発公社(Mayoral Development Corporation)」のひとつとして設立されたため、その運営にはロンドン市長自らが市民に対して責任を負う。

2020年に向けてレガシーにかかるミッションを組織委員会が果たすべき中心的な役割のひとつに据えたことは、大会の成功とレガシーを同程度に重視している国際オリンピック委員会(IOC)にとって、良い先例を作ることとなろう。2020年東京大会の国内におけるレガシーに関して、大会に向けた複数の新施設の管理者となる東京都や、オリンピック・パラリンピックに関係する複数の中央省庁が現在検討している計画を、「レガシー共創フォーラム」(プラチナ社会研究会レガシー共創協議会主催)の場で明らかにした。この会議は、三菱総合研究所(MRI)の"ビジョン2020"推進センターおよび民間企業114社、多数の地方自治体からのオブザーバー62人、笹川スポーツ財団(SSF)のようなスポーツ振興を推進する財団、そしてこれまでレガシー共創協議会に参加してきた複数の教育機関の支援を受けて開催された。

レガシー共創フォーラムは2014年11月下旬に早稲田大学大隈記念講堂で開催されたが、この講堂自体が1964年東京大会でフェンシングと近代五種の競技会場として使用された大会のレガシーといえる施設であった。同フォーラムには1,000人を超える参加者が集まった。出席者の中には、英国貿易投資総省(UKTI)による初の訪日団を含む、多くのイギリス人の姿もあった。同省は、ロンドンオリンピックを経験した英国企業数社の代表に幅広い分野からの熱心な聴講者に対して、自分たちの経験・実績を披露する機会を与えた。

日本でもトップクラスの大学のひとつとして高い評価を受ける早稲田大学を会場に、大会運営からレガシープランに至るすべてを統括する2020東京オリンピック・パラリンピック組織委員会および東京都から講演者が招かれ、レガシーとして受け継がれる会場インフラの整備に関する情報などを全体と共有した。内閣官房を含む主要な5つの中央省庁から登壇した政府高官たちは、大会に向けた計画と拡充策、大会後のレガシーについて熱く語った。2020年東京大会時には4Kや8Kの超高解像度テレビが標準となり、それに見合った放送品質(現在の高解像度の4倍および8倍のクオリティ)が実現されるという、非常に興味深い見通しが示された。本大会は第5世代の通信システムによる次世代型競技場を使った初めての大会(第5世代のモバイルネットワークおよび第5世代の無線通信システムが、2012年のロンドンで使われた第4世代にとって代わる)となり、首都圏全域の建物には無料Wi-Fiが完備される。以上は、フォーラムで発表されたイノベーションのほんの数例である。

フォーラムで報告された内容以外の大きなニュースに、ハイブリッド車「プリウス」を真の大衆車として確立させたトヨタが、Mirai(ミライ)を初の大衆向け水素自動車にする計画を進めている件がある。ミライは、停電下では移動式の発電機としても機能する。トヨタは世界で最も成功した自動車メーカーでありながら、同社がつくりだす2020年のレガシーは、燃料電池自動車という新しい形の移動体になるだろう。ソニーは、待望のフレキシブル有機ELタッチスクリーンディスプレイ搭載の腕時計型端末の開発をはじめ、2020年を多くの技術革新を達成するターゲット・イヤーと位置付けている。NTTもまた、2020年東京大会における国内最高位のスポンサーとなる「ゴールドパートナー」第1号となった。

フォーラム参加者はさらに、ラグビーワールドカップ(RWC)2019組織委員会による報告も受けた。2019年RWCは、2020年東京大会に先立って新国立競技場を試用する重要なイベントのひとつとなる。ワールドマスターズゲームズは、参加型のイベントとしては世界最大の総合スポーツ大会で、4年ごとに開催される。2017年には、ニュージーランドのオークランドに25,000人のアスリートが集まり、10日間にわたって28の競技種目で競い合う。2020年以降という観点では、日本パラリンピアンズ協会とスポーツ系企業数社が、大会に向けた準備計画も含め胸が躍るようなアイデアを披露した。三菱グループのコンサルティング会社であり、日本でも有数のシンクタンクであるMRIの大森代表取締役社長が開会挨拶を述べた後、終日にわたり積極的に同フォーラムに参加したことは、日本の民間セクターが2020年東京大会のレガシーをいかに真剣に受け止めているかを示す象徴的な出来事と思えた。

UKTIの訪日団は、今後レガシーとなる競技会場、つまり2020年に使用される既存の施設と建設中の新施設の両方を視察した。視察先は、2つの主要エリア;内陸寄りの「ヘリテッジゾーン」とより新しい「東京ベイゾーン」であった。ヘリテッジゾーンには、柔道の競技会場となった日本武道館や体操競技などが行われた東京体育館といった前回オリンピックにおける最も象徴的な会場のいくつかも含まれた。東京体育館は、現在も幅広いスポーツ活動に使われており、官民と第3セクターのパートナーシップによる施設としては素晴らしい事例のひとつである。 1964年大会以降の建造物のなかで最も際立つものは、おそらく国立代々木競技場である。ここはかつてバスケットボール、水泳、飛び込みの会場に使われ、今でもこれらの競技や他の多くの競技会場として使用されている。また、ナショナル・バスケットボール・リーグ(NBL)に所属するプロバスケットボールチーム、トヨタ自動車アルバルク東京のホームコートでもある。視察時、宇宙船のような形をした同体育館に併設されるグラウンドでは、IBSA(国際視覚障害者スポーツ連盟)ブラインドサッカー世界選手権が開催されていた。代々木競技場から道を隔てたところにある国立競技場は現在閉鎖され、新しい競技場を設立すべく解体が進められている。

私は、日本の人々が「崩壊(disruption)」「漏水(leak)」「遅延(late)」という概念を持ち合わせていないことを知っている。電車が遅れる、会議の開始が遅れるなどは、日本ではとんでもないことと受け止められる。競泳用プールは水が漏れないように設計され、なにかが崩壊する(disrupt)という事象は日本では理解されがたい。この国では何もかもが清潔で、欧米では経験したことのないレベルのサービスが、すべて時間通りに提供される。東京全域に多言語に対応するサービスの完備が計画されており、「言葉の壁によって路頭に迷う」ことはなくなるであろう。前回の東京大会からのレガシーを基盤に置いて前進することで、2020年の東京オリンピックは大きな成功を収めるだろう。

2015年2月2日
David Minton
笹川スポーツ財団海外研究員

レポート執筆者

David Minton

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