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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

アメリカの自治体に存在するコンベンション・ ビジターズ・ビューローとスポーツコミッションの役割と期待 Vol.1

2014.11.27

アメリカの自治体に存在するコンベンション・
ビジターズ・ビューローとスポーツコミッションの役割と期待 Vol.1

はじめに

プロサイクリストが7日間に渡りコロラド州を駆け抜けるスプリントレース、全米プロサイクリングチャレンジの第4ステージが、今夏8月21日コロラドスプリングスで開催された。このレースの招致にリーダーシップを発揮し、レース組織委員会のメンバーであるコロラドスプリングス・スポーツコーポレーション(スポーツコープ)は、2011年と2012年の同レースイベントによる経済効果は約100万ドル(1億円)にも及んだと推計している。出場チームは開催前夜と当日コロラドスプリングスに滞在、レース後にはコロラドスプリングスの5つ星ホテル、ブロードモアにて祝賀会も催された(Grossman, 2014)。このレースを観戦するために多くの観光客がコロラドスプリングスを訪れ市内に宿泊し、市内のレストランを利用した。それらの消費行動が、コロラドスプリングスの産業に大きな経済的な効果をもたらした。

この全米プロサイクリングチャレンジのほかにも、スポーツコープは今年一年間で22ものスポーツイベントを主催もしくは協力をしている。スポーツコープがスポーツイベントの招致と開催に積極的に乗り出す背景には、コロラドスプリングス市への経済波及効果に対する期待がある。

コロラド・スプリングス・スポーツ・コーポレーション

通称“スポーツコープ”でコロラドスプリングス市民に親しまれるコロラドスプリングス・スポーツコーポレーションは、1978年米国オリンピック委員会(USOC)がニューヨークからコロラドスプリングスに拠点を移したと同時に設立された非営利団体である。建設的な経済の発展と市民の良好な生活に寄与することを通じて、コロラドスプリングス市の存在意義を高めることをミッションに事業を展開している(Colorado Springs Sports Corporation, n.i., a)。コロラドスプリングスを代表するビジネス、行政、教育分野からの18名のリーダーが現在スポーツコープの理事に就任しており、そのリーダーシップの下に合計10名の職員が業務に従事している。今年は総予算約4百万ドル(4億円)をもとに、17のスポーツイベントを主催し、5つのイベントに協力している。そして、数年先のスポーツイベントの招致活動にも力を入れている。

特に、毎年7月に2週間に渡り40種目以上の健常者と障害者の競技会がコロラドスプリングス市内および周辺のスポーツ施設を利用して一堂に会して行われるロッキーマウンテン州大会は、参加者が3,000人以上にも上ることからスポーツコープの中でも重要なイベントとして位置づけられている。13回目となった今年の大会は、市内36会場で41種目が行われ、約3,600名の選手が競い合った(Mendoza, 2014)。2012年の第11回大会では36種目の競技会が行われ、7歳から81歳までの幅広い年齢層の競技者とその家族7,000人以上が、24の市と町からコロラドスプリングスを訪れ、市内のホテルとレストランを利用した。その前年となる2011年のデータでは、このロッキーマウンテン州大会がおおよそ$900万ドル(9億円)相当の経済効果をコロラドスプリングス市にもたらしたと推計されている(Smith, 2014)。ロッキーマウンテン州大会内で行われる競技のうち27種目は全米州大会(National Congress of State Game)への予選を兼ねていることから、参加者の競技志向も高い(Colorado Springs Sports Corporation, n.i., b)。

実は、コロラドスプリングスは2005年、2007年、そして2009年と3回連続してこの全米州大会をホストしている。2005年は9,462人、2007年10,803人、そして2009年には43州から9,800名以上のアスリートが参加した。米国オリンピックトレーニングセンターをはじめとするコロラドスプリングス市内とその周辺の22会場を利用して、36種目合計6,600にも及ぶメダルをかけた競技会が開催された。この全米州大会には各種目の全米チャンピオンやパラリンピアンも参加することから注目を集めている(SportsFeatures.com, 2009 & Moran, 2009)。この全米州大会のコロラドスプリングスでの開催による経済波及効果に関する正確な統計データは存在しないものの、参加選手がいずれも約1万人に達し、選手の家族や友人等もコロラドスプリングスに訪れたことを鑑みれば、ロッキーマウンテン州大会で見られた900万ドル(9億円)以上の経済波及効果は容易に想像できる。

スポーツ・コミッション、コンベンション・ビジターズ・ビューローと自治体の観光局

コロラドスプリングスのように経済波及効果を期待してスポーツイベントの招致と開催に積極的な自治体はアメリカ国内では少なくない。その中核を担うのは、スポーツコープのように自治体と強い繋がりをもってイベントの招致と開催にあたるスポーツコミッションであり、あるいはコンベンション・ビジター・ビューローであり、時には行政内の観光局である。

歴史的にコンベンション・ビジターズ・ビューローや自治体の観光局が自治体への訪問者を呼び込む役割を担っている。会議やコンベンションあるいは一般の旅行による訪問客の獲得に関しては、提供可能な会場、宿泊部屋数、アトラクションの数とタイプ等によって、セールスポイントは各自治体により様々である。自治体の持つ強みや弱みを総合的に捉えてマーケティングキャンペーンを展開するのがコンベンション・ビジターズ・ビューローや自治体の観光局の役割になる。彼らは、訪問客を招くためのマーケティングの専門部門とも言える。

その一方で、スポーツツーリズムは会議、コンベンション、一般の旅行と共有できるサービスがあるものの、各競技の特徴、競技会のフォーマット・日程、運営や参加に支障をきたさない宿泊場所の提供等、その特殊性から主催者のニーズに応えるための専門的な知識と経験が問われる。スポーツイベントやスポーツツーリズムの際にスペシャリストとして活躍するのがこのスポーツコミッションである。

また、開催地でのチケット販売やスポンサーシップの獲得、ボランティアの募集等も、開催地外に拠点を置く主催者よりもスポーツコミッションのほうが手早くスムーズに対応することができるのは明白である。スポーツイベントの事前の準備、開催期間中のサポート、事後のフォローアップ等で主催者の手の届かない分野をカバーすることができる。2012年現在、全米でこのようなスポーツコミッションは110存在すると推定されている。

一つの自治体にスポーツコミッションと、コンベンション・ビジターズ・ビューローもしくは行政の観光局の両方が存在し、上記に定義されたそれぞれの分野をカバーし連携し合うことが理想的と言える。しかしながら、自治体の特徴や予算の都合からスポーツコミッションのみが存在、あるいはコンベンション・ビジターズ・ビューローもしくは行政の観光局だけで会議、コンベンション、旅行のほかに、スポーツツーリズムを網羅しているケースもある。

形態に違いはあるものの、どの自治体も経済波及効果を期待してスポーツイベントの誘致と開催に取り組んでいることに違いはない。特にコンベンション・ビジターズ・ビューローでは、自治体への訪問客による宿泊に係る税収入が最大の収入源となっているケースがほとんどである。よって、会議、コンベンション、一般的な旅行のための訪問客を増やすことは最重要課題である。スポーツイベント、特に多くの参加者が結集する競技会タイプのイベントは宿泊数を増やす格好の機会となるため、どのコンベンション・ビジターズ・ビューローも招致には積極的になる。

一方、コンベンション・ビジターズ・ビューローの付属組織として存在するスポーツコミッションを例外として、宿泊による税収入が主な収入源になっているスポーツコミッションは少ない。ただ、訪問客が増えることにより、地元のレストラン業や小売業が潤うことを見込んでいることから、やはり地元への経済波及効果を狙ってスポーツイベントの招致と開催に積極的である。

ただし、訪問客を招き経済波及効果を狙うほかに、スポーツイベントの開催によりスポーツに対する関心が高まる、全米に開催地として知名度が上がる、ボランティアの機会が増える、地域の活性化が進む、結束力が強まると言った効果もまたスポーツイベントの招致と開催の成功の要素と捉えるスポーツコミッションは多い(National Association of Sports Commissions, 2012)。

※1ドル=100円で換算
※参考引用資料はVol.2の文末に記載

レポート執筆者

内藤 拓也 (2014年10月~2015年5月)

内藤 拓也 (2014年10月~2015年5月)

海外研究員
Coordinator of Special Projects, USA Volleyball
Correspondent, Sasakawa Sports Foundation