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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

スポーツとまちづくり

街中の校庭から始めよう…

2015年7月10日

もう5年ほど前になるだろうか、スポーツ施設について考えさせられる出来事があった。東京都武蔵野市と三鷹市にまたがる都立井の頭公園。四季折々に表情を変える自然豊かな公園の西南端にある約4ヘクタールの更地がその舞台だった。そこは野球場などのスポーツ施設があった「日産厚生園」の跡地で、同園の廃止に伴い、都が土地を買い取ることになり、旧厚生園の役目を引き継ぐ形で野球場2面やテニスコート、広場などの設置が整備計画に盛り込まれた。しかし、計画に対する地元住民らの声は意外なものだった。

「一部の愛好者のために、樹木の一本もない野球場を造る必要はない」「広さの割に利用できる人数が少ない野球場は、公園には不向き」等々。ホームページ上で計画への意見を募ったところ、野球場の設置に反対する意見は、賛成の倍以上にものぼったという。整備に際して都が地元に行った説明会でも4ヘクタールの完全緑地化を求める声が多く、野球場設置に好意的な意見は少なかったと聞く。結局、整備計画は修正され、野球場は1面に削られた。野球場でなく、サッカー場でも同じだったろう。利用できるのが特定の人に限られることを理由にされてしまえば、スポーツ施設を造ることは難しくなってしまう。

都立公園に設置されている野球場の稼働率は決して低くはない。たとえば、井の頭公園から約5km北西にある都立小金井公園の野球場。この問題が起こった当時で、年間を通して約1万4千人が利用し、週末の利用率は99%。実際、少年野球のコーチをした実体験からも、都内のグラウンドは不足している。抽選に応募してもなかなか当たらない。小学校の校庭を使えればいいが、雨が少しでも降ったら使用禁止にしてしまう学校もある。校庭はスポーツ施設ではなく、あくまでも学校施設という認識が強い。だが、国内のスポーツ施設のほとんどが学校のグラウンドや体育館というのが実態だ。文科省「体育・スポーツ施設現況調査」(2008年)によると、国内の体育・スポーツ施設は22万2553ヵ所で、そのうち小中学校、高校、専修学校などの「学校体育・スポーツ施設」が13万6276ヵ所と全体の6割を占めている。だからこそ、もっと活かすようにしないといけないと思うのだが…。

スポーツをまちづくりに活かそうというと、大型の施設や国際的なスポーツ大会、プロチームの誘致などが浮かぶ。プロスポーツ誘致、大型施設という面での成功例としては、サッカーJ1の鹿島があげられる。交通の便の決してよくない地域でのプロサッカーチームの立ち上げ。プロスポーツで商圏の指標とされる半径30km以内の人口は鹿島が70万人強。首都圏のFC東京は約2千万人ともいわれる。プロ野球の世界では200万人前後が採算ラインとも。そんな小さな商圏で、鹿島は成功してみせた。

「Jリーグ元年」の参加クラブ選定に際し、当時の川淵三郎チェアマンは、鹿島を突き放している。「99.9999%(参入は)ない。1万5千人収容の屋根付きサッカー専用スタジアムを造っていただけるなら話は別だが」。県立カシマサッカースタジアムは、鹿島を救う決定打となったし、鹿島自身、施設を活用しつくそうと努力してきた。2006年からはスタジアムの指定管理者を担う。公共施設の管理を民間会社や法人に委託できる同制度では、指定されると管理者自身が施設の使用許可や料金設置の権限を得たり、利用料を収入にしたりできるからだ。以来、スタジアム内にスポーツクラブを設置、夏場にビアガーデンを開くなどして収入源を開拓。そして当然、人も集う。クラブが単独でスタジアムの指定管理者となっているのは、Jリーグでも鹿島だけ。そんなチームを地域は応援し、まちづくりにも活きている。スポーツ施設をどう活かすかがまちの活性化には重要なのだ。

だが、プロチーム数や大型施設の誘致には限りがあり、リスクもある。見るスポーツでなく、やるスポーツとして身近に感じてもらい、親しんでもらう中でまちづくりに活かすには、公園のグラウンドであったり、どこにでもある学校の施設をスポーツ施設として活用できれば、と思うのだ。

先日、面白い報道を見つけた。アベノミクスの成長戦略の柱、国家戦略特区に「スポーツ特区」を採用してはどうかというのだ。内閣府が特区のアイデアを募集したところ、大阪市の弁護士らでつくる「スポーツ特区推進研究会」が応募し、①スポーツをする場所の充実②子供のスポーツ環境の充実などを要望。①では、多数の公立校が少子化や市町村合併に伴う統廃合などで廃校になっているとし、施設を有効活用するためにグラウンドや体育館、プールなどを譲渡、保有したりする際にかかる税金の軽減や、増改築時に建築基準法に例外を設けたりすることを提言。②は教員採用の要件を緩和し、部活動の指導専門の教員で競技力向上を図る―等々という。特区などと言わずに取り組んでほしい。でなければ、スポーツ施設は減る一方になりかねない。学校から校庭を切り離してみても面白い。土日は意欲ある民間の指定管理者に委ね、スポーツ施設として活性化を図ってみてはと。そうした取り組みから、スポーツを通じたまちづくりは始まっていくかもしれない―。

  • 金子 昌世 金子 昌世 産経新聞社〈東京〉運動部長 水戸支局、社会部等を経て1998年から運動部。夏季オリンピック3大会、冬季1大会、世界陸上4大会を現地取材。2014年7月から現職。