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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

IOC: オリンピックを動かす巨大組織

2013年9月7日アルゼンチン・ブエノスアイレスにておいて聞かれるか
「ウイニング・シティ・イズ…(東京?)」

特ダネになるかも知れないニュースを見つけた時の新聞記者やカメラマンの気持ちがこんなものだろうか。この本を手に取り、読み進むうちに、早くブックレビュー原稿を書きたくて仕方なかった。今だ、この本を読むなら今でしょう、と言うはやる気持ちを抑えながら読んだ。なにしろ30年という長い歳月をIOCで過ごした人の著述である。「はじめに」から読み始め、第1章から第7章までの順を追い、「おわりに」まで読み終えて、まず著者のIOCでの長い献身の働きに敬意を表したいと思った。

「スポーツをかけがえのないものとして受けとめられる人は、なんと幸せだろう」と最後に著者は述懐している。そして「そんな思いをもっと広めていきたい」と。実は、これが猪谷さんがこの本で語り伝えたかった「オリンピック・ムーブメント」であり、IOCという巨大(ビジネス)組織のミッションなのである。

ただ断わっておくが、著者がミッションとかリスペクトなどという生煮えの言葉を使っているわけではない。そんな大げさな言い回しは一言も出てこない。おそらく人柄なのであろう。この人が30年間に出会った人々とオリンピックを招致する、あるいは開催するという重要な局面での出来事が、ただ淡々と水が低きに流れるように語られているだけである。それにしてもIOC王国での仕事とは、なんと壮大でスリリングで息の長い戦略的ドラマなのだろう。そういうスキームが手にとるように理解できる。このような内幕を、これほど嫌味なくスマートに語れる猪谷さんという人は、ビジネスマンとしても最高のリーダーだったに違いない。

時あたかも、2020年五輪、東京招致への正念場である。我々に欠如しているものがあるとすればそれは何?それを考えるためにも、今、この本は読まれるべきだろう。今朝の新聞は、「IOC報告書」のことをトップで扱っていた。東京、イスタンブール、マドリードに絞り込まれた候補都市をIOCがどのように評価したかの評価記事である。2013年9月7日ブエノスアイレスで開かれるIOC総会までの道のりはまだ予断を許さない。一方で全日本柔道連盟のガバナンスの問題や、トルコやブラジルのデモなど、スポーツをめぐるトラブルは新しい局面を迎えている。著者のワールド・ワイドな視点からの知識、見識には耳を傾けるべきだと思う。

(掲載:2013年06月28日)

著者
猪谷 千春
編集発行
新潮社
紹介者
笹川スポーツ財団
ジャンル
スポーツ文化
定価
1,400円+消費税