Search
国際情報
International information

「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

知る学ぶ
Knowledge

日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

高齢者スポーツのこれまでとこれから(1) ~高齢者スポーツの参加要因は「仲間づくり」~

高齢者がスポーツを行うことは、今ではごく当たり前のことであるが、半世紀前までは、高齢者をとりまく社会環境は大きく異なり、大人しく静かに暮らす姿が高齢者のイメージであり、女性においては、なおさらであった。当時は庭先でラジオ体操をしている姿を見ると、ずいぶんと元気なお年寄りに見えた時代である。

日本の65歳以上の高齢者人口(総務省平成24年9月15日現在推計)は3074万人で、総人口に占める割合は24.1%となり、人口、割合共に過去最高となった。これを前年(2972万人、23.3%)と比べると、102万人、0.8ポイントと大きく増加している。これは、いわゆる「団塊の世代」(昭和22年~24年に生まれた人)のうち昭和22年生まれが、新たに65歳に達したことによるものと考えられる。そして、すべての団塊の世代が65歳以上となる2015年(平成27年)には3395万人に達する見込みであり、その後も増加していくことは明らかである。

超高齢社会に突入した今、本稿は改めて高齢者スポーツについて考察してみたい。

高齢者の暮らしの一部になったスポーツ

高齢者の生活を変えた「ゲートボール」

高齢者の生活を変えた「ゲートボール」

かつて一世を風靡した代表的な高齢者スポーツと言えば、ゲートボールである。そもそもゲートボールは戦後間もないころ、子供たちのために、日本の北海道で考案されたスポーツであった。
1970年代初頭に世界的になったスポーツ・フォア・オール(国民皆スポーツ参加)運動の「日本版」は、1964年(昭和39年)の東京オリンピックをきっかけに提唱された全世代のスポーツ活動であった。その後押しもあってか、ゲートボールは昭和40年代に体育指導委員(現在のスポーツ推進委員)や地域行政の支援で高齢者を中心に瞬く間に全国に広まった。
それまではある程度の年齢になると家督を子に継がせ、高齢者は家の中で静かに過ごすイメージが一般的であった。ゲートボールの普及に伴い、高齢者が太陽の下ではつらつとスポーツを行う姿は、それまでの高齢者のイメージを変えた。そして高齢者スポーツという新たなトレンドを生み出した。また、スポーツを通じて、仲間づくりの楽しさも知られるようになった。ゲートボールは、高齢者の「するスポーツ」を広め、新たなライフスタイルをつくるなど、当時いろいろな意味で高齢者の社会参加に大きく貢献したスポーツであったことは事実である。

のちに同じく高齢者を中心に広まっていったマレットゴルフ、グラウンド・ゴルフ、パークゴルフも日本で考案されたスポーツである。ここでそれぞれのスポーツの発祥について触れておくと、ゲートボールは1947年(昭和22年)北海道、マレットゴルフは1977年(昭和52年)福井県、グラウンド・ゴルフは1982年(昭和57年)鳥取県、パークゴルフは1983年(昭和58年)北海道で誕生した。以降、高齢者スポーツの選択肢は広がっていくこととなる。

急増した高齢者のスポーツ人口

当時の高齢者スポーツは、「体力を必要としないスポーツ」「コミュニティスポーツ」「誰でも簡単にできるスポーツ」などのキャッチフレーズで親しまれていた。

その後、平成の初めには、戦後生まれの世代が高齢者となり、スポーツ経験も豊富でいろいろな選択肢を持つ世代へと変わっていく中、年を追うごとに高齢者の趣味趣向も変わりニーズも変化する。
高齢者層に戦後生まれが加わることで、高齢者スポーツの定義は「高齢者に適したスポーツ」から「高齢者と定義された年代が行っているスポーツ」に変わったのではないかと思う。つまり、高齢者のスポーツ活動は「体力に合ったスポーツ」から、それまでの経験を基に「自分がしたいスポーツ」を選択するように変わったと考える。加えて、ここでは深く述べないが、第二次大戦前と後の日本の社会経済の変化もさることながら、「家父長制」から「家族制」に変わっていったことも高齢者の意識に変化を与えた一因ではないかと考える。

現在の高齢者の実態とスポーツ動向をみると、高齢者人口は前述のとおりであるが、総務省「国勢調査および社会生活基本調査」によれば、「単身世帯」の高齢者の割合は平成7年の12.1%から22年の16.4%に上昇している。また、内閣府「生涯学習に関する世論調査」(平成24年)における、「行ってみたい生涯学習の内容」のトップに健康・スポーツが選ばれ、60~69歳で47.5%、70歳以上で31.8%となっている。一方、「体力・スポーツに関する世論調査」(文科省、2013)によると、週に3日以上スポーツを実施する高齢者の割合は、60代で42.4%、70 代で53.6%と活発な高齢者が多いことがわかる。

スポーツ活動の時間も増加

また、笹川スポーツ財団「スポーツライフ・データ2012」によれば、加齢に伴いスポーツ活動率は低下するものの、行う人の活動時間は増えている。一方で50代以降の実施種目数は少なく、運動・スポーツの選択肢が限定される傾向にある。
そのような中、20~40代に強い人気を示している散歩・ウォーキング・体操・筋力トレーニングなどが60代70代でも種目別運動の実施率上位種目となっている。全世代に共通して軽い運動系が実施率上位であることから、高齢者も含む現代人の健康志向を窺うことができる。