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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

高齢者スポーツのこれまでとこれから(2)

【目次】

高齢者の暮らしの一部になったスポーツ

スポーツで目指す豊かな社会づくり(高齢者スポーツのこれまでとこれから(2)へ)

スポーツで目指す豊かな社会づくり

スポーツをささえる層として注目

近年では、民間スポーツクラブにおいても中高年シニア向けのプログラムが用意されるとともに、スポーツだけではなく憩いの場の提供も目指すところが出てきており、高齢者が新たなマーケットとして注目されているところである。

高齢者自身がやりたいスポーツを自由に選択できる今だからこそ、個々が選択した種目の年齢体力に応じた指導体制が望まれる。
一方、楽しむスポーツがいつしか勝敗や技術にこだわる競技志向に代わり、結果スポーツそのものの間口を狭めてしまうということがままある。「楽しい仲間づくり」から「勝つためのチームづくり」に変容していく。これ自体はやむを得ないことであるが、一方で、健康づくり、仲間づくり、楽しむスポーツを目的に参加しようとする人々を受け入れる間口は常に広げておかなければならない。この様な点においても良き指導者が必要となるのではないかと考える。

加えて、「する」スポーツだけでなく、「ささえる」スポーツも高齢者のスポーツ活動の一つとなっている。2011年度笹川スポーツ財団「スポーツボランティア団体活動に関する調査」によれば、スポーツボランティア団体への年代別の登録者は、中年層がトップで、次いで高齢者層となっている。また、スポーツに限定したボランティア活動調査ではないが、内閣府「第7回高齢者の生活と意識に関する海外比較調査」(2010年)によれば、日本・アメリカ・韓国・ドイツ・スウェーデンの5か国60歳以上の男女を対象にボランティア活動について調査をした結果、日本では、ボランティア活動やその他の社会活動に参加したことのある人が増加(平成17 年46.6%→平成22 年48.3%)しており、ボランティア活動に現在参加していない人でも、ボランティア活動に「関心がない」人は15.9%のみで、5か国の中で最も少なく、ボランティア活動に対する関心の高さを示している。
2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定した今、高齢者の新たなスポーツ参加の形としてスポーツボランティア活動も注目されるところである。

そのような中、半世紀前も現在も、高齢者のスポーツ活動の参加要因として「仲間づくり」は共通項である。

重要性を増すスポーツ活動拠点

文部科学省は、スポーツ基本計画(2012年)で「すべての人々が幸福で豊かな生活を営むことができる社会」をスポーツを通じて目指す社会の姿としている。その中で、若者に限らず高齢者も「競技スポーツと生涯スポーツ」「スポーツ実施と非実施」を自由にトランジションできる環境づくり、さらには仲間ができる環境づくりが求められる。

特に高齢者の加齢に伴う身体活動の低下は、行動範囲を狭め、あらゆる活動参加機会を制限させるため、結果日常生活の満足度を低くすると言われている。そのため、狭まった活動範囲の中でも高齢者が気軽にスポーツ活動を行える環境作りが必要となる。更にその活動拠点がサロン的機能を有すれば、非常に有意義なことである。高齢者の単身世帯が増加傾向にある中、スポーツを行うだけでなく、地域の人々が日常生活の中でそこに集うことが、高齢者の地域活動への参加を促すことになるからだ。加えて、高齢者のスポーツの実施・非実施のトランジションも必然的に生まれ、地域の活動拠点を中心とするより良いコミュニティが形成されるものと考える。コミュニティ形成という点では、今後ますます総合型地域スポーツクラブの役割は大きく、地域行政との連携も重要となってくる。また、このような環境が整うことにより地域住民がクラブを支える構図も自ずと生まれてくるものと考える。そのためにも公共スポーツ施設等をスポーツクラブの活動拠点として継続的、安定的に使用できるよう検討が急がれる。
また「多種目、多世代、多志向」を理念とする総合型地域スポーツクラブは、地域の競技団体と連携し、地域住民の多様なニーズに応える種目展開の推進と併せて、各競技の普及に繋げていくことも必要であろう。

さらなる地域のスポーツ活動推進を

2011年にスポーツ基本法が制定され、国民全てにスポーツ権が保障された。2013年9月には、2020年東京オリンピック・パラリンピック開催が決定し、更には来年度にもスポーツ庁が創設される様相を呈している。スポーツを取り巻く環境が急速に変化する中、オリンピック・パラリンピック開催国として、当然メダル獲得、トップレベルの競技力向上に注力することはやむを得ないが、オリンピック・パラリンピックレガシーという視点から、生涯スポーツの推進政策の中で、特に地域のスポーツ活動推進の更なる長期的な取り組みを期待するところである。

著者

中島 光

笹川スポーツ財団 総括グループ長(現:常務理事)。
1985年日本ゲートボール連合入社、約20年間にわたりゲートボールの普及・振興に携わる。2007年笹川スポーツ財団へ出向(2010年日本ゲートボール連合退職)、事業部長を経て2017年より常務理事。※執筆時(2014年)は総括グループ長