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6.韓国の学校における「体育」科目以外の運動活動-「学校運動部」活動などの実態(1)

韓国における学校体育の実態、全体像の把握を困難にしているものとして、日本でいう「運動部活動」の存在が、韓国には従前ほとんど存在しなかったことがある。韓国の小中高における、「体育」(小学校1・2年の「楽しい生活」を含む)の授業以外の、運動に関する(教育的)活動としては、大きく、下記の二つが存在する。

(1)エリート選手向けの「学校運動部」

学校の正課時間以外に、エリートスポーツ選手を養成する学校内の部活動である。

エリート選手向けの「学校運動部」活動は、拠点学校別に設けられており、2009年7月現在、全国に7,811部(小2,909、中2,836、高2,066)置かれている。専任の技術指導を行うコーチは全国で3,399名である。

(※これと関連し、文化体育観光部所管の特殊法人である国民体育振興公団傘下の体育科学研究院や各競技団体などが連携して、有望選手の発掘システムとして「クンナム(夢の木)選手育成」事業が行われているが、学校体育を主題とする本稿では詳細な説明は割愛する。)

小学校(あるいは中学校)では、市道教育庁(※注:日本の都道府県教育委員会に相当する組織。トップの教育監は公選であるなど、独立性が高い組織である)指導の下、校長の判断で、特定の種目に関する「学校運動部」を設置、実施する。ここでは、将来の国家代表の卵などの、エリート選手候補群を近隣から広域で集めて養成する。育成の中では、彼らは、中学校・高等学校は、運動部活動の設置されている中学校や高校、あるいは「体育中学校」「体育高校」など、体育専門の中等教育機関に進学するルートが一般的である。

【「学校運動部」活動を有する小学校の事例】

そのような学校の一つ、ソウル市内のアーチェリー(※韓国の「孝子(ヒョウジャ)種目=お家芸」とされ、金メダル量産種目である。)の学校運動部を有するある小学校を訪問した。

ソウル市南西部に位置するこの小学校のアーチェリー部は、小学校4年~6年の男子9名で構成されている。同種の小学校のアーチェリー部はソウル市内に7~8校程度存在するとのことである。元来男女合同の運動部活動を行う学校が多いようであるが、同校では、指導の容易さを確保するため、男子のみとしている。

監督は、小学校5年の担任を務める教師(体育が専攻の模様)で、主に、運動部活動に関する各種連絡調整等の行政事務と選手のスカウトを行っている。

他方、元アーチェリー選手による「コーチ」も存在し、専門的な指導を受けることになる。「コーチ」は1年単位の契約制であり、ソウル市の場合、ソウル市教育庁が契約を取り交わし、学校に配置している。

監督の業務のうち、選手の選抜は近隣の地区(ソウル市南西部地区、キョンギ道近隣市など)の体育の先生から有望な選手の情報を得て、歩き回って勧誘するとのことである。技術的適性などから言えば、選手選抜へのコーチの関与も想定されるが、この学校では監督の選抜権は絶対であり、コーチの関与の余地はあまり無いように見うけられた。

入部は、意外にもオープンで、希望者は入部できるし、また、素質のある者をスカウトし、体力検査など行って入部させることなどもする。ただ、現在は、そもそも進学希望の者が多いゆえ入部希望者が少ない模様で、この業界に入るのに激烈な競争があるわけでもない状況のようである。

入部にあたり、大学入試至上主義、有名大学進学至上主義の韓国にあって、運動選手という進路について、子どもが10年経って社会に出るときどのようになっているかを見通しながら、保護者を説得することは非常に難しいとのことである。「国家代表を最大の目標として、自信感を持てばその目標の達成は難しくない」ということを丁寧に保護者などに説明し、運動の楽しさを子どもに植え付けて、さらに成績も上げていけば、概ね保護者も納得するとの事であった。

入部するには、学区域外の場合は基本的に同校に転校することになるが、適性なども勘案し、入部を希望する学生も最初は転校させず、1~2ヶ月様子を見た上で転校させる措置を執っているそうである。

練習は月曜日から金曜日までの放課後時間(3時から7時ごろまで)、毎日行う。試合がある時は、月2回の土曜授業日は土曜日も午後4~5時ごろまで練習する。

学校運動部に参加するに当たっての経費負担であるが、コーチにかかる費用はソウル市教育庁が支援しており、基本的に保護者の負担はない。道具費も保護者負担はない。

進路は、中学はアーチェリーの運動部がある近隣の某中学校、高校はソウル体育高校あるいはソウル女子高校に進学し、アーチェリーを続けていくことが多いとのことである。

OBには、国家代表などもたくさんおり、有名実業団の監督に就任している有力指導者も輩出している。

現在韓国では、運動ばかりして勉強をしない運動選手について問題となっているが、同校では、生徒へのフォローとして、先生8名がメンターになり指導している。成績が悪い科目は、夏・冬に補習もしている。確かに、実際国家代表になることができるのは一部であり、アーチェリーの進路が行き詰まったときのために、監督も常々「勉強も良くしなさい。仮にアーチェリーを極められないときは、ソウル大の体育学部に行きなさい。」と指導しているとのことである。

そのほか、運動部活動に参加している生徒にインタビューしてみると、なぜ参加してみようかと思ったかと言えば、「(アーチェリーを見て)アーチェリーが好きでやってみたいと思っていた」「偶然機会があった」という答えが返ってきた。今のアーチェリーをやってみての感想は「おもしろい」「やりがいがある」といった肯定的な反応であった。運動部活動前にアーチェリーに関わったことがある児童生徒はいなかった。他方、大変なことはと尋ねると「体力訓練」「長距離走」と言った声があがった。

コーチ(前任の産休で代替で勤務中)に、指導に当たっての留意点を尋ねると、小学生に関心を持ってもらえるように指導をしており、とにかく褒めるようにしているとのことであった。

全体の印象として、エリートスポーツの運動部活動にもかかわらず、間口が思ったほど狭くないこと、参加に当たっての児童生徒の自発性がそれなりに確保されていることが印象的であった。また、国家代表という頂点を見据えつつも、常にセカンドキャリアも意識して取り組んでいることが、学歴社会韓国固有の事情と言える。

小学校の学校運動部(アーチェリー)で練習に励む子どもたち

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