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スポーツアコード 現地レポートノンフィクションライター 松瀬 学 氏

五輪生き残り。レスリングは第一関門突破

5月29日。IOC理事会の審議の結果、8競技中3競技が最終候補に残った。真っ先に決まったのはレスリングだった。
会見場で「レスリング!」とアナウンスされた瞬間、吉田選手は立ち上がって、ガッツポーズをつくった。すぐに携帯電話で栄和人監督に国際電話をかけた。日本は深夜1時頃。「レスリングが残りました」と報告した。
隣の国際レスリング連盟(FILA)副会長の福田富昭・日本協会会長も顔をくしゃくしゃにして、国際連盟のラロビッチ会長(セルビア)と肩を抱き合った。吉田選手は「本当に跳び上がるほどうれしかった」と言った。
「でも、まだ勝ったわけじゃない。9月の決勝戦に向けて、もっと頑張らないといけないという気持ちになっています」

福田会長はこうだ。
「ホッとはしている。でも決勝戦に進んだだけ。宿題は多い。IOCのお陰でレスリングは変わることができた。もう歴史、伝統にあぐらをかかないで、時代に合わせて変化していかないといけない。改革はすぐ、目に見えるカタチで実行していく」

簡単に説明すれば、IOCに不人気の会長をクビにし、女性委員会と新たな選手委員会を発足させた。新任のラロビッチ会長の下、改革を断行した。合計ポイントで争う方式にするなど、観客にもわかりやすいルール変更に踏み切った。選手の男女比是正のため、階級数変更の検討にも入っている。

ただ、である。もともと2月のIOC理事会でのレスリングのコア競技からの除外決定が理不尽だった。除外危機にあった近代五種には国際近代五種連合副会長のサマランチ・ジュニアIOC理事(スペイン)が、テコンドーには世界テコンドー連盟倫理委員長のウィリ・カルシュミットIOC理事(グアテマラ)がいる。競技の利害を代弁する人が理事会に入っているとは。つまりIOCの進め方は政治パワーと無関係ではないのだ。

IOC関係者によると、レスリング除外は「IOC理事会の失態」だった。IOC理事会はスポーツ界の猛反発に驚き、一転、改革に取り組んだレスリングを最終候補に残すことでメンツを守った。ではIOC総会で大丈夫かというと、これが読めない。
こんどは15人のIOC理事会ではなく、100人余のIOC委員による総会(9月8日・ブエノスアイレス)で審議されることになる。IOC委員の利害、価値観、判断に委ねられることになるのだ。

福田会長は漏らす。
「IOC委員の投票心理はわからない。IOC委員の情報を集め、各国の連盟を通して、ロビー活動を強化していきたい。オリンピックへの道は平たんじゃないのだ」
今回のスポーツアコードの会場は競技団体の歓喜と落胆が交錯した。選から漏れた競技団体関係者の気の毒なこと。
IOCを取材して感じるのは、やり場のない微かな怒りである。「五輪からの除外」「五輪競技入り」を振りかざし、IOCの権力が誇示されているのである。

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