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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

世界が取り組むスポーツの不正対策

2. Match-Fixingの事例と要因

2. Match-Fixingの事例と要因

安藤 悠太 氏

The European Sports Security Association(ESSA)の2013年

ヨーロッパのスポーツベッティング(賭け)事業者と協調して賭けの監視およびMatch-Fixingのリスク評価等を行っているThe European Sports Security Association(ESSA)の2013年のレポートによると、ESSAが2012年に発した警告は109回であり、そのうち6回の警告が十分な疑いのあるものとされている。FIFA関連のEWS社の担当者に直接聞いた際にも、EWS社が年間に出す警告の総数は非常に多いと話していた。競技別に見ると、ESSAのレポートでは、48%がサッカー、40%がテニスとなっており、この二つの競技が他を圧倒している。テニスについても、処分の事例や連盟の対策等取られているが、昨今の流れを追うために以下ではサッカーについて記述する。

2005年にドイツカップやブンデスリーガ2部等でホイツァー主審を中心とするMatch-Fixingスキャンダルが起きた。同年には、ブラジル、ベルギー、フィンランドでMatch-Fixingがあり、これらはそれぞれ逮捕、刑事裁判、実刑判決等の法的処分およびリーグや連盟からの資格停止や追放等の規律的処分に発展している。この際、ベルギーおよびフィンランドのスキャンダルには同一の中国人実業家が関与していることが疑われたため、組織的犯罪者が関与しているのではないかとの認識が持たれ始めた。

2006年には日本でも有名なユベントスを中心とするイタリアでの事件が起きている。2009年にはドイツにて継続的に捜査を行っていたボーフム警察が、中東欧を中心として200試合以上および200人以上にMatch-Fixingの疑いがあるとの発表を行った。その捜査の対象には欧州チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグの予選も含まれていた。2011年には韓国、ギリシャ、トルコで事件が明るみになり、特にギリシャでは関与したクラブ会長の逮捕および当該クラブのヨーロッパリーグ出場権はく奪、トルコでは強豪フェネルバフチェのチャンピオンズリーグ出場権はく奪や事件捜査等の影響によりリーグ開幕が1か月遅れるといった影響が出た。

世界が取り組むスポーツの不正対策

日本でも大きく報道されたものとしては、ユーロ2012直前の代表選手逮捕で注目を集めたイタリアでの事件がある。当初イタリア3部リーグにおけるMatch-Fixing捜査であったが、次第に国際的なネットワークを持つ犯罪組織の関与が明るみになり、捜査対象もセリエAまで拡大した。この過程で元同国代表FWシニョーリの逮捕が起きている。これ以降は前回記述した2013年2月のユーロポールの発表を挟み、クラブレベルおよび代表レベルで捜査や逮捕が続いている。

近年大きく問題として取り上げられているのは賭博での利益を目的とした組織的かつ国際的集団がMatch-Fixingを引き起こしていることであり、現在徐々に解明されてきているところである。スポーツと賭博については、古くからその歴史があるものの、このように大規模な様相を見せるようになったのは、技術革新やスポーツの商業化および世界規模での人気拡大等の現代的な環境も要因として大きく関係している。

Match-Fixingが引き起こされる要因は大きく三つに分類することができる。まず一つ目は実行の容易性である。インターネットの発達に伴い、賭博もオンライン化している。スポーツベッティングも同様に全世界からのアクセスを受けている。その中には多くの違法、もしくは法のグレーゾーンで営業している事業者があり、それらがMatch-Fixingの温床ともされるが、一般利用者がその事業者の適法性を見分けるのは容易ではない。一方でMatch-Fixingを仕組むフィクサーとしては、世界のどこにでも指示を伝えるだけでMatch-Fixingを実行でき、スポーツベッティングを利用することで世界中を彼らの市場とすることができる。麻薬の密輸等のように物理的に国境を越える必要がない。

二つ目は捜査の困難性である。スポーツベッティング市場の拡大とともに、その商品である賭けの対象も多様化し、試合の一部分のみを対象とする商品も多くなっている。例えば試合で最初にスローインをするチームが予想対象となっている場合、観客が試合の不自然さに気付くことは困難である。また、オンライン化で試合中に随時賭けが行えるライブベッティングが可能となり、賭け率等の不自然な動きの捕捉が難しくなっている。さらに、捜査の段階においては、国境をまたぐ活動が必要とされるケースが多いことから、各国の警察や行政、スポーツ界、スポーツベッティング界それぞれの協調が必要となることも捜査のハードルを上げている。

三つ目は弱い立場の選手の存在である。国際サッカー選手協会(FIFpro)は2011年に中東欧を中心としたサッカーリーグの選手にアンケート調査を行っている。FIFproは調査結果の中から、Match-Fixingを持ちかけられた選手のうち半数以上が給与遅滞にあっていることや、練習からの締め出しや暴力被害等弱い立場の選手であることを指摘しており、十分な相関関係を読み取れるとしている。