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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

世界が取り組むスポーツの不正対策

4. integrity of sport:スポーツの価値を守るということ

4. integrity of sport:スポーツの価値を守るということ

安藤 悠太 氏

 integrity of sport:スポーツの価値を守るということ1

最近スポーツ界ではintegrity of sportもしくはsport integrityという言葉を聞く機会が多くなっている。これはスポーツの高潔性や誠実性などと訳される概念である。簡潔に言えば、スポーツの発展の基礎はスポーツが持つ感動・挑戦・健康・スポーツマンシップなどのポジティブなイメージにあり、そのスポーツの根源的な価値を守っていこうという概念である。競技会にドーピングやMatch-Fixingが溢れ、チーム内には暴力が蔓延し、犯罪組織の影が見え隠れしていたら、人々がスポーツという文化から離れていくことは想像に難くない。

本連載で扱っているMatch-Fixingは最近のintegrity of sportの分野で盛んに議論されている話題の一つであり、前回お伝えしたように、対策も取られ始めている。しかしながらアクターが分散していることや、対処のレベルが競技者から事業者、そして警察まで複層にわたっていることから、その包括的枠組みはまだ十分にまとまっていない。

一つの事例としては、オーストラリアが2011年に “National Policy on Match-Fixing in Sport”を定めており、スポーツ界とスポーツベッティング業界、法執行機関の相互の情報共有や連携について取り決めている。オーストラリアは連邦制を取っており、スポーツやスポーツベッティングの管轄権限は地方政府に与えられているが、国家内で目的とミニマムスタンダードの統一を図った上で、執行については個々の事情を考慮しながらアプローチを選択できるようになっている。

integrity of sport:スポーツの価値を守るということ2

欧州の政策協調機関である欧州評議会では新しい条約である “Council of Europe Convention on the Manipulation of Sports Competitions” が今年7月に採択、9月に署名開放されているが、この中でも各アクターの連携について定められている。ユネスコもこの動きを注視しており、昨年5月のスポーツ担当大臣会合におけるベルリン宣言において、Match-Fixingの脅威について言及している。欧州評議会からユネスコへの流れはアンチ・ドーピングムーブメントと同一であり、将来的にMatch-Fixing防止体制構築が世界的なスタンダードとなっていくと予想される。

一方で、Match-Fixingの疑惑等が過剰に伝えられ、スポーツへの疑念をただ駆り立てるような状況も好ましいとは言えない。「ファンに対してもMatch-Fixingの現状を強く警告していかなくてはならない」と語る海外の担当者に、「ファンに危険ばかり伝えても困惑してしまうので、同時に実施している対策や脅威と闘う決意を伝え、スポーツの価値を守っていることを伝えられると良いですね」とお話ししたことがある。

本連載の間にも元サッカーオーストラリア代表選手らに禁固刑の判決が下され、仁川アジア競技大会サッカー種目においては監視システムから警告が発せられている。もちろんMatch-Fixingの危険性はサッカーだけではない。同じように連載期間中には、今年6月に日本で開催されたバドミントンの国際大会にてフィクサーから選手への接触があったことが明るみに出ている。スポーツ界としては、integrity of sportのために、スポーツの価値をより高めていくために、各アクターと協力しながら包括的かつ効率的な対策整備を行い、毅然とした態度で立ち向かっている姿を示していくことが大切であると言えるであろう。