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ニュージーランドにおけるジュニア世代の“補欠をつくらない”スポーツシステムの紹介と提言ニュージーランド・ワイカト大学 経営学部博士課程 西尾 建 氏

高校・ラグビーの事例(13才から17才):シーズン制

ニュージーランドの高校においても同様に補欠のないシステムで運営されている。ハミルトンには、ワールド・ラグビー・ユース大会で2010年11年と2年連続で世界一に輝いたハミルトンボーイズ高校(HBHS)がある。約2000名の生徒を有するハミルトンボーイズ高校の場合なんと16のラグビーチームが登録されている(2012年シーズン)。

写真 高校ラグビー世界一にも輝いたことのあるHBHSには16のラグビーチーム
があり学生はそれぞれのレベルで毎週ゲームを楽しんでいる

サモアやフィジーなどから留学生が来るプロ予備軍ともいえるトップチームから初心者中心の草の根ラグビーまで、ジュニアバスケットのシステム同様、そのシーズンにプレーをしたい学生の数によってチームが編成されるのである。また日本の部活動のように高校の教員がコーチをするというのではなく、おもに父兄がコーチやマネージャーとして別々に練習し活動しており、参加者の競技レベルや目的にあわせて全員が試合を楽しむことができるのである。

『シーズン中は参加者が全員毎週ゲームを楽しむ』

表2は総当たり戦がおこなわれているリーグ戦の一覧である。トップレベルは広域レベルの8つの強豪高校で構成されているスーパー8が2リーグある。一方ハミルトン地域の高校では上位3リーグ、年令別3リーグ、体格差を考慮した体重別2リーグと女子1リーグの計9リーグから形成されている。HBHSではトップ2チームは広域リーグに、残りの14チームはハミルトン地区でそれぞれのカテゴリーに入ってラグビーを楽しんでいる。登録された学生全員が実質活動期間5月から8月の3ヶ月間(2週間の冬休みをはさむ)ほぼ毎週ラグビーのゲームの機会を持つのである。2012年ハミルトン地域では25校73チームが登録されており、各校そのシーズンの希望者に応じて複数のチームが活動している。なお全員がゲームに参加できることに加えて、トップレベルはレギュラーシーズンのゲーム(表2)に加え各年代との州代表が組まれており、年代別全国規模の大会も実施されている。バレーボール、ネットボールなど他の高校チームスポーツにおいても同様に、補欠のない全員ゲームを楽しめるシステムになっている。ニュージーランドにおいては、ほとんどのチームスポーツで全員に週1回ペースでのゲーム参加がしっかり担保されているのである。

日本でも1校1チームを撤廃して参加者みんながゲームを楽しめるシステムの導入へ

日本でのジュニア、中高校生世代のスポーツ活動はどうだろうか?小学生の野球やバスケットボールなどのスポーツでは、クラブや学校で複数チームが登録されるケースはあるが、基本的には1クラブもしくは1つの学校につき1チームという登録になっており、ゲームも公式戦においてはトーナメント形式が多い。全国大会に出場するような強豪チームのレギュラーは多くの試合機会が与えられるが、1回戦で敗退するチームは、公式戦はわずか1ゲームで終わってしまう。さらに試合メンバーに登録されない補欠も多く存在し、その競技者たちはゲームに出場することすらできない。

ここでは平成24年度の中体連5)および、高体連6)のデータをもとに、ひとつの学校で1チームしか登録できないということを前提に、ラフではあるが公式戦に出場できない部員の比率を算出してみた。たとえば中学男子バスケットボールでの登録学校数は7196校で177201人が登録されているが、1試合で10人の登録とした場合、実際には40.6%の71960人しか公式戦には出場できない。つまり残りの59.4%が補欠ということになる。中学女子(49.3%)、高校男子(49.6%)、高校女子(34.2%)においても多くの補欠がいる。またバレーボールやハンドボールなどの他の団体スポーツのデータ5)6)で見ても多くの補欠がいて、練習はやってもゲームの楽しみを十分に味わうことなく、多くの学生がスポーツから離れていってしまうのが現状である。

2011年に制定されたスポーツ基本法7)の前文には『スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全ての人々の権利であり、全ての国民がその自発性の下に、各々の関心、適性等に応じて、安全かつ公正な環境の下で日常的にスポーツに親しみ、スポーツを楽しみ、又はスポーツを支える活動に参画することのできる機会が確保されなければならない』と書かれているが、日本では競技者として登録はされていても、多くの子どもや学生がゲーム(公式戦)を楽しむ機会を与えられていないというのが現状である。1校1チームの弊害も考えないといけない。たとえば強豪校へ入学した学生の中にも、そのスポーツをやるのがはじめてで楽しみたい人がいるだろし、上下関係がわずらわしいという学生や監督のやり方にあわず、スポーツそのものへの参加をあきらめるケースもあるだろう。

ニュージーランドでは、教員というよりも、父兄やコミュニティにいる経験者らがコーチをすることが多く、スポーツ指導にコミットしているコーチは、練習の日は職場を早めに切り上げるなどコミュニティスポーツに対する職場の理解など環境の違いも大きい。今後もし日本でも補欠をなくし試合数が増えると、コーチ、審判や試合会場などさまざまな問題はでてくるだろう。しかしながらスポーツ基本法の『すべての人がスポーツを楽しむ権利』という理念からも、ニュージーランドのように『参加者全員がゲームに参加して平等にスポーツを楽しむ』ことができるように、日本の部活動において1校1チームを撤廃して、補欠をなくしていくという議論をする必要があるのではないだろうか。

著者

西尾 建 氏

ワイカト大学経営学部博士課程
米系金融機関に15年間勤務。ラフバラ大学スポーツ&レジャーマネジメント学科修士課程修了。主な論文は『Analysing the Economic Impact of the Olympics Using Stock Market Indices on Host Countries』『The Impact of Sports Events on Inbound Tourism in New Zealand』『海外スポーツイベントにおけるアウトバウンド・ツーリストの研究』『ニュージーランドのジュニアラグビーについて』など。スポーツ基本法制定のための文部科学省スポーツ政策調査(ニュージーランド)にも参加。

引用

5) 公益法人 日本中学校体育連盟 平成24年度 部活動調査集計 学校数・加盟校数

6) 公益法人 全国高等学校体育連盟 平成24年度 加盟登録状況

7) スポーツ基本法

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