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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

スポーツ立県でスポーツ王国の復活を目指す 秋田県 前半

スポーツ立県でスポーツ王国の復活を目指す 秋田県 スポーツ振興は「元気な秋田」の活力の源泉

秋田県は、スポーツを秋田の活力と発展のシンボルとし、スポーツを通じた秋田の元気づくりと地域の活性化、生涯を通じた豊かなスポーツライフづくり、競技力のレベルアップによるスポーツ王国の復活をめざすとして、平成21年9月に「スポーツ立県あきた」を宣言した。一方で、観光を総合戦略産業と位置付け、観光、文化、スポーツの振興は交流人口の拡大を通じた地域活性化に繋がるとし、平成24年度より知事部局に「観光文化スポーツ部」を創設している。

スポーツと観光を強化

スポーツ王国復活、スポーツ立県

佐竹敬久知事

渡邉 秋田県のホームページを拝見しますと、しっかりした広報戦略のもとにさまざまな情報を発信されていますね。先ほど、秋田空港の到着ゲートで県のPRキャンぺーン「あきたびじょん」のポスターが目に飛び込んできましたが、実に印象的なポスターですね。

佐竹 ありがとうございます。写真家・木村伊兵衛氏の代表作「秋田おばこ」の写真を使わせていただき、キャッチコピーの「びじん」の文字の間に小さく「ょ」を入れて、「秋田美人」と「秋田ビジョン」をかけています。なかなか評判が良いんですよ。東京・銀座のサッポロビルに巨大なポスターを掲げましたら、いろんな雑誌やマスメディアが取り上げていただき、おかげさまで10億円くらいの宣伝効果になりました。

渡邉 スポーツによるまちづくりについて、県レベルの取り組みをお聞きするのは佐竹知事が初めてです。知事はマニフェストで「スポーツ王国復活、スポーツ立県」を掲げられましたが、それはどのような背景からですか。

「スポーツ立県あきた」宣言

佐竹 秋田県民は、県の面積や人口規模、経済力と比較して、とてもスポーツ好きな県民性なんです。
かつては「スポーツ王国」と言われたように体操の小野喬先生・小野清子先生をはじめ、たくさんのオリンピック選手を輩出しています。
最近は少し寂しいですが、現在もスポーツ好きな県民性である点は変わっていません。もともと地域の皆さんが日常から行っている生涯スポーツがとても盛んで、競技スポーツとうまく両立しています。高齢者も楽しめる「500歳野球」(生涯現役でプレーしたいとの願いから、出場選手9人の合計年齢が500歳以上、代打や代走などで一度退いた選手も再び出場できるなど高齢者向けのユニークなルールの野球。昭和54年に旧神岡町で第1回大会が開催された。)を考案したり、スポーツ少年団からお年寄りまで幅広い世代がいろんなスポーツに取り組んでいます。

全日本女子バレーボールチーム 江畑幸子選手 (秋田県出身) JVA承認2013-01-009 秋田ノーザンハピネッツ 田口成浩選手 cAKITA NORTHERN HAPPINETS / bj-league 「500歳野球」試合 秋田県スポーツ振興基本計画

佐竹  こうした生涯スポーツの下地ができている理由は、地域のコミュニティが機能しているからです。コミュニティがちゃんとしている地域はスポーツチームが作れるのです。お祭りの数とスポーツチームの数は同じくらいですよ。
それに秋田県は面積が広いので、スポーツ空間は充分あります。高齢化県でも元気なお年寄りがたくさんいます。スポーツを振興するということは、単にスポーツだけでなく、地域のみんながスポーツという共通の切り口でまとまることができるので、健康づくりやコミュニティづくり、地域づくりにもプラスになるのです。

現代スポーツはアメリカ的にショーアップされ、ビジネスとして成り立っています。スポーツを地域づくりの一環として考えた場合、文化や人が交流するという意味でスポーツは非常に大きなファクターになります。単に大会を開催してお客さんを呼ぶというだけじゃなく、秋田には重要無形文化財に指定されて江戸時代から続いているお祭りが国内で一番多いわけですから、観光とも連携できます。
秋田の元気づくり、地域づくりにスポーツ振興は欠かせないと考えたからです。

渡邉 知事は平成21年9月2日に「スポーツ立県あきた」を宣言され、翌年に「秋田県スポーツ振興基本計画」を策定されました。また、観光文化スポーツ部にはどのような効果を期待されていますか。

佐竹 「スポーツ立県あきた」宣言は、スポーツを秋田の活力と発展のシンボルと位置付け、県民の健康、健全な心、夢や感動、誇りを生み出すスポーツの力をさらに高めようというものです。

この宣言を実現するために、平成22年3月に「秋田県スポーツ振興基本計画」を策定しました。「生涯スポーツの振興」「競技スポーツの振興」「子どものスポーツ活動の充実」「スポーツ環境の充実」「スポーツ振興による地域の活性化」の5つを施策の柱にして、さまざまな取組みを進めているところです。スポーツ立県宣言に続いて、文化ルネッサンス宣言、観光立県宣言をしていますから、スポーツ、文化、観光をひとつにして、昨年、知事部局に「観光文化スポーツ部」を創設しました。
スポーツ担当部署はもともとは教育委員会に置かれてましたが、思い切って知事部局内に持ってきました。組織再編前は、観光施策は産業労働部観光課、スポーツ施策は企画振興部スポーツ振興課、文化施策は生活環境部県民文化政策課などに分かれていました。
スポーツ政策を行っていると、必ずまちづくりや観光政策と繋がってくるんですね。施策を一元的・総合的に推進する体制にしたわけです。

観光は総合戦略産業

渡邉 秋田県と同様に、沖縄県でも文化観光スポーツ部を置いていますし、札幌市や新潟市もひとつの部局に一元化しています。海外ではイギリスが文化メディアスポーツ省、韓国は文化体育観光部(省)ですね。日本政府としては観光庁が前溝畑長官時代にスポーツ・ツーリズムの推進基本方針を定め、12年4月にスポーツ・ツーリズムの推進機構が設立されました。当初、私も委員をしていましたが、観光とスポーツと文化はとても親和性が高いということは当初からの共通認識でした。

佐竹 そうですね。観光は総合戦略産業です。第一次産業から第三次産業、そして現在の第六次産業化といったものまで、すべてのファクターが入っています。経済波及効果や雇用創出力が大きく、県の将来の発展を支える産業です。
それに観光とは光を観ると書きますが、人の生き様や人間の活力が光なんだろうと思います。そういう意味で、文化・スポーツとぴったりマッチするわけですね。

渡邉 観光、文化、スポーツ分野の政策を一元化する難しさもあると思いますが、いかがでしょうか。

佐竹 日本の文化は歌舞伎や工芸美術品だけじゃありません。それぞれの地域の人たちの生き様や表現があり、それが地域の文化そのものですから、観光ともオーバーラップしますね。
また、スポーツはショーアップすることでファンを増やすことができます。スポーツにはいろんな入り口があって、競技スポーツは、本来競技者だけのものですが、ショーアップすることで、観る人もスポーツの素晴らしさを自分の感覚としてとらえることができます。そうなるとレベルは違っても自分自身も、何かスポーツに親しみたいと、それが健康づくりに繋がりますね。
そういう意味ではそんなに県民の皆さんも違和感を持たれず、むしろ連携すべきという声が多かったですね。
特に地域活性化の分野に関しては、観光的な切り口からどのようにスポーツを組み入れて地域活性化を図るかが大きな使命です。
例えば、どのスポーツも最終的には必ず競技大会などのイベントに帰結するんですよ。イベントなら、どこに宿泊するのか、お昼ごはんは何を食べるのか、多くの人が移動するわけですから、バスを使うのか列車で行くのかといった交通対策も不可欠です。さらにそこに観光政策もついて回るわけです。
イベントに対応できるよう組織を連携させ、さまざまな情報を一元化してスピーディに動かしていかなければならないわけです。ひとつの部になると効率もよく、結果としてサービスも行き届き、お客さまに喜んでいただけるわけです。

渡邉 そういう意味ではスポーツ・ツーリズムの観点からも期待できますね。
先ほど、秋田は地域のコミュニティがしっかりしているから地域のお祭りとスポーツチームの数が一緒だといったお話がありましたが、いま全国各地でコミュニティの再生にスポーツはどのような役割を果たせるのかといった議論がされています。知事は就任以来、県内各地で「村なか街かどミーティング」を重ねていらっしゃいますが、知事は、地域コミュニティと生涯スポーツの関係についてどのような視点で見ていらっしゃいますか。

高齢者バレーボール大会

佐竹 そうですね。地域の皆さんは、他の地域がコミュニティ内でどんなことをしているのかを知りたがっていますね。たとえば、生涯スポーツでは同じ競技をしている他のチームにとても強い興味を持っていて、一度、お手合わせしたいから相手チームの情報が欲しいというんです。他の人間に興味を持つと元気になるんですね。若い人もお年寄りも、適度に競い合うことは人間としてプラスになりますね。小さなまちで勝ってトップになると、もっと広いエリアで試合をしてみたい、次は全県で大会をやりたいという目標が出てきますね。秋田は高齢者バレーボールも盛んで、なかには80歳近い女性も地域のチームで活躍してますよ。

お年寄りも含めて地域の人たちが何かに興味を持ち始めると、他を知りたくなり、自分で移動するようになる。こうしたことが、地域活性化の原点になるのです。
そういう意味で、誰もが共通の切り口でまとまることができるのがスポーツなんですよ。あまり難しいことは共通の切り口にはならないんですよね。スポーツのルールは秋田も沖縄も同じですからね。共通のルールで他の地域の人たちと競い合うことで、人間の闘争本能が適度に刺激されるんです。これが一番地域に必要なことだと思っています。過疎地域は何もしなければ次第に意気消沈していきますから、スポーツはとても効果がありますよね。

スポーツによるまちづくり