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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

【総括編】まちづくりにおいてスポーツが果たす重要な役割 後半

スポーツが果たす役割

100を超える野球チームが活動するまち

アグリあなんスタジアム(徳島県南部健康運動公園野球場)

特定のスポーツに焦点を当てたまちづくりを進めているのが、徳島県阿南市と栃木県宇都宮市だ。

阿南市のある四国は何と言っても高校野球に象徴される野球の盛んな地域。人口7万7,000人のまちで100を超える野球チームが活動しているという。甲子園球場を上回る広さの本格球場「アグリあなんスタジアム」の完成を機に、岩浅市長が「野球のまち阿南構想」を打ち出し、全国で初めて「野球のまち推進課」も創設した。

本格スタジアムは、プロ野球独立リーグ・四国アイランドリーグの徳島インディゴソックスの公式戦のほか、草野球チームや高校・大学野球部の合宿や練習試合に使われ、年間の利用日数は150日を超える。

県外からの野球観光ツアーの誘致を始め、いずれは女子プロ野球の世界大会を松山市にある「坊っちゃんスタジアム」と共催するのが目標だという。

岩浅市長は、「阿南市には9つの還暦野球チームが活動している。野球を通じて仲間をつくり、生きがいをつくることでいきいきとした人生を送ることができる。最高の生涯スポーツ」と語っている。

自転車が主役のまちづくり

ジャパンカップサイクルロードレース

宇都宮市は「自転車のまち」を標榜している。アジア最高峰の自転車競技レース「ジャパンカップサイクルロードレース」の開催地であり、公共交通網と地理的な特徴から自転車を愛用する市民が多いことから、自転車が主役のまちづくりを進めている。

自転車レーンを設置し、JR宇都宮駅前にはサイクルステーションを開設した。コンビニエンスストアや市民センターなど市内16か所を「自転車の駅」とし、簡単なメンテナンス道具を設置している。

佐藤市長は、「まちづくりに方程式はない。そのまちに合う方法をみつけたら、どんどんふくらませて、まちづくりの武器にすることだ。宇都宮市の場合はそれが自転車だった。今後も自転車をわがまちの宝として、さまざまな事業を展開していく」と語る。

日本最大級の規模を誇るスポーツ施設

J-GREEN堺

プロ野球やJリーグなどをはじめ、集客力のある大型スポーツ施設を有しているのが政令指定都市だ。

堺市には、日本最大級の規模を誇るサッカー・ナショナルトレーニングセンター「J-GREEN堺」がある。総事業費の約75%を堺市が負担した。年間3,000以上の試合が開催され、61万人以上が訪れることから、その経済波及効果は大きい。

また、バレーボールチーム・堺ブレイザーズの本拠地であり、同チームは数多くのスポーツ教室の開催を通じ、市民クラブとして親しまれている。

同市では、堺3大祭りとして参加者が1万人規模という堺市民オリンピックを開催している。

竹山市長は「市民オリンピックでは、当日だけでなく準備期間も各地域が盛り上がる。市民オリンピックをきっかけに住民同士の絆を深め、地域スポーツを盛り上げている」と話す。

洪水時の遊水機能をもつ日産スタジアム

日産スタジアム

横浜市では国際トライアスロン大会や国際女子マラソンなど、多くの国際大会が開催され、横浜DeNAベイスターズ、横浜F・マリノス、横浜FC、プロバスケットチームの横浜ビー・コルセアーズなどのプロスポーツチームが活動の拠点を置いている。同市の日産スタジアムが洪水時の遊水機能をもっている背景には、立地条件や建設費用の負担軽減などがあるが、今後、自治体がスポーツ施設を建設する際にはこうした課題がつきまとうことは避けられないと思われる。

川崎市もJIをはじめ、実業団チームが数多く、市内で活躍するチームを市民が応援する「ホームタウンスポーツ推進パートナー制度」を創設した。それらのチームが地域住民の応援に応えて、スポーツ教室などを開催し、地域と一体となってスポーツ振興を図っている。

同市の取り組みで注目すべきは、学校開放で体育館がほぼ100%開放されている点だ。

阿部市長は「地域の活動拠点として学校を使うように推奨している。学校の管理を地域の方たちが中心になって管理する体制にしたいと考えている」と話す。

大都市部では、市民のスポーツニーズに応えるだけの施設が十分に整備されていない現状のなかで、既存の学校施設などを利活用したいという要望は強い。どこが主体となって、どのような管理運営の仕組みを構築できるかが課題になっている。そうした課題に対しては、総合型地域スポーツクラブなど公益性の高い民間のスポーツ団体が果たす役割に期待するところは大きいといえる。この点について、笹川スポーツ財団では、2011年7月に発表した政策提言「国民が生涯を通じて、それぞれが望むかたちでスポーツを楽しみ、幸福を感じられる社会の形成」において、「学校体育施設の管理・運営を公益性の高い地域の民間組織に委ねることで、学校を中心に地域社会全体で子どもたちや地域住民の多様なスポーツの楽しみを創出する環境」を構築すべきと提案している。今後、このような状況が広く展開されることが望まれる。

スポーツによるまちづくり