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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

餃子のまちの生涯スポーツ 栃木県宇都宮市 前半

「餃子のまち」で知られる宇都宮市。栃木県の県庁所在地でもあるこの地は、実はサッカーやバスケットボールや自転車といったスポーツのクラブチームが並立する、スポーツが盛んな地域でもある。ここを本拠とするJ2栃木SCの活動を通して「スポーツを通したまちづくり」「生涯スポーツの在り方」を考察する。

餃子のまち・宇都宮を訪れる

餃子のまち・宇都宮を訪れる

宇都宮駅を降りると、そこはまさに「餃子のまち」であった。
東京駅から東北新幹線“やまびこ”に乗って、およそ50分。近くもなければ遠くもない、この何とも言えぬ微妙な距離感こそ、宇都宮という土地の特徴を端的に表しているように思える。駅から一歩踏み出すと、至るところに餃子の店の看板が点在していた。実際、市内には餃子を扱う飲食店は200軒以上と言われ、市もことあるごとに「餃子のまち・宇都宮」を全国にアピールしている。水戸の納豆や高崎のだるまがそうであるように、宇都宮にとっての餃子は、わがまちのアイデンティティを確保するために不可欠なアイコンであった。
とりあえず目に付いた一軒の餃子専門店にて、500円の餃子定食を食しながら、とりとめのないことを考えてみる。人が人らしく生きていくためには、何が不可欠だろうか。もちろん、食べることは重要だ。とはいえ、食べ物を美味しく摂取し、健康を維持していくためには、やはりスポーツは不可欠である。「する」スポーツは身体を鍛え、「見る」スポーツは情緒の幅を広げ、そして「語る」スポーツは仲間とのコミュニケーションを豊かにする。スポーツは何も、アスリートだけのものではない。むしろ、日々通勤ラッシュに揺られ、ビジネスの場でストレスをためこみ、憂さ晴らしにチェーン居酒屋で安酒をあおっている人々にこそ、スポーツは必要であろう。
ここ数年、国内外の地域スポーツ、とりわけサッカーにスポットを当てながら取材を続けている私にとり、自分の名字と同じ栃木県の県庁所在地・宇都宮は、かねてより気になる土地ではあった。実は宇都宮は、意外とプロスポーツクラブが充実している。JBLプロバスケットボールチームのリンク“栃木ブレックス”。自転車ロードレースのプロチームである“宇都宮ブリッツェン”。そして2009年よりJ2で活動している、“栃木サッカークラブ(SC)”。これに、日光を本拠とするプロアイスホッケークラブ、“H.C.TOCHIGI日光アイスバックス”を加えれば、栃木はなかなかにスポーツが盛んな県であることが理解できよう。
今回の取材の目的は、栃木SCと宇都宮市との関わりのなかから、この地における「生涯スポーツの在り方」について探ってみることにある。さっそく、市の繁華街にほど近いところにある、栃木SCのオフィスを訪ねてみることにした。

栃木SCが夢見る「スポーツを通したまちづくり」

「栃木はいいところだと思いますね。緑は多いし、芝のグラウンドもあちこちにある。Jリーグ百年構想で『緑の芝生に覆われた広場やスポーツ施設をつくること』というキャッチフレーズがありますが、栃木の人ってあまり緑に飢えていないんですよね」
まずご登場いただくのは、栃木SC代表取締役専務の新田博利さんである。新田さんは、もともとは埼玉県さいたま市(旧与野市)の出身。Jリーグ開幕前夜からプロサッカーチームの浦和市(当時)への誘致に関わり、00年から10年近くの間、浦和レッズの総務部長、ACL担当、ホームタウン担当、常務取締役を歴任。栃木SCがJ2に昇格した09年6月より「マネジメントが分かる人材を」ということでフロントに入った。最初はさいたま市から通っていたが、今は単身赴任で宇都宮市内に暮らす。そんな新田さんに、浦和と栃木の地域密着の違いについて尋ねてみた。
「浦和レッズの場合、J1のビッグクラブであり、選手もスター選手が多いので市民から見ると遠い存在という感じはありますね。それが栃木の場合は同じJリーガーでもすごくフレンドリーに(市民のなかに)入っていけるという土壌があります。レッズの選手も、もちろんホームタウン活動はしていますが、その量となると栃木の方がはるかに多いと思います。栃木SCでは昨シーズンで引退した佐藤悠介がドリームアンバサダーとして、中学校の部活のサポートをしたり、年間20校以上の小学校を回ったりしています」

新田さんによると、“宇都宮には生涯スポーツを実践するためのアドバンテージ”があるという。そのための「きっかけ作り」となるのが、栃木SCというわけだ。ただ単に、自分たちのまちにプロサッカークラブがあって、勝った負けたを繰り返すだけではない。その先には「スポーツを通したまちづくり」という壮大なテーマがある。
「Jリーグというと、競技スポーツの側面ばかりが強調されますが、Jリーグ百年構想に『スポーツで、もっと、幸せな国へ』というフレーズがあるように、スポーツを楽しむことによる健康づくりが(目標として)あるんです。ここ宇都宮には、緑が多く自然を感じることができる。そこでスポーツができれば、こんなに健康に良いことは無いと思います。スポーツと接する機会を増やすということでいうと、こちらには場所があります。公園もあるし、山登りもできる。スポーツを通したまちづくり、健康づくりを考えると、それらは十分にアドバンテージになると思います」
新田さんご自身、慶大と日立製作所でのプレーヤー経験がある。今でもたまにボールを蹴っているそうだ。今年61歳。ご自身は"生涯スポーツ"について、どのように考えているのか、最後に聞いてみた。
「(自分の役割として)まずは、栃木SCをJ1に上げないといけません。その後、70歳とか80歳になったら、ボランティアをやりたいですね。“生涯スポーツ”という言葉のなかには、見るスポーツ、するスポーツ、支えるスポーツがあります。もう、するスポーツは難しくなってきていますので(苦笑)、支えるところで生涯スポーツに関わろうと思っています」

スポーツによるまちづくり