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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

日本初の「野球のまち推進課」を創設 徳島県阿南市 後半

ニーズに応えて発展し続ける

観光業界との連携が継続のポイント

「お父さんの甲子園」であいさつする市長

渡邉 野球観光ツアーによる産業振興はどのように実現しているのですか?

岩浅 阿南市にはもともと大きな工業団地があり、王子ネピアや王子製紙の工場、新日鉄系列会社の事業所のほか、四国電力と電源開発の発電所があります。発電所は、2年に1度定期検査が行われ、検査のための作業員500~600人が約3カ月間阿南市に滞在します。阿南市は、県外から観光客が来ることはほとんどないので、定期検査が実施されるときはとても大きな経済効果があります。
作業員の方が500~600人宿泊できるということは、同規模の選手を集めた野球大会が開催できるということです。そこで、約500人の選手が参加する野球大会を、アグリあなんスタジアムで開催することにしました。現在では、同規模の大会を1年に8回前後開催することを目標としています。1度大会を行うと、市内の全ての宿泊施設が3日間満室になります。野球大会がないときには野球観光ツアーを開催するなどして、昨年は計2,000人以上の方が阿南市を訪れ、市内に宿泊してくださいました。

渡邉 阿南市のまちづくりの中心として野球を定着させた秘訣を教えてください。

岩浅 この、野球大会のお手本となったのが、長野県上田市で開催される「お父さんの甲子園」(全日本生涯野球大会)です。整形外科医の吉松俊一医師(76)が提案した大会で、2011年に行われた第23回大会出場の選手の平均年齢は、約60.8歳。同大会には、元広島東洋カープ監督の古葉竹識さん(74)や、『ドカベン』作者の水島新司さんらも選手として参加しました。私はこれまで2回ほど、野球のまち阿南の市長として開会式に出席させていただきました。昨年は、「野球のまち推進課」の田上課長を含めた視察団が阿南市からバスで訪問しました。
「お父さんの甲子園」には、全国から約200の還暦野球チーム、約4,000人の選手らが参加し、そのほとんどが上田市や千曲市の温泉宿に宿泊します。大会が開催されるのは、温泉客が少ない6月。実は、「お父さんの甲子園」の運営事務局は、温泉旅館組合のなかに設立されていて、地元の方々も「お父さんの甲子園」を大歓迎しています。「お父さんの甲子園」が20年以上も継続して行われているのは、観光業界としっかり連携しているからだと思います。

渡邉 旅館組合や観光協会など、特定の業界だけでイベントを開催すると継続しないことが多いのです。イベントの主催者が毎年入れ替わっても、結局は続かない。しかし、自治体や行政がしっかり中心となって連携体制を整えて実施すれば、いろんな応用も効き、素晴らしい取り組みに成長するのだと思います。

岩浅 阿南市でも、旅館組合とのつながりや地元の方との交流を大切にしています。「野球のまち阿南構想」を打ちだした当初は、市民から「なぜ、サッカーではなくて野球なんだ」という声もあったのですが、野球が経済効果を生むようになった今、野球のまちとしての認識が市民全体に浸透してきたと実感しています。

ニーズから生まれる、新しい野球振興企画

佐渡高校の選手たちを歓迎する様子

渡邉 市役所内に「野球のまち推進課」を設置して、世間からはどのような反応がありますか?

岩浅 「野球のまち推進課」ができて1年が経ち、たくさんのメディアに取り上げられるようになりました。宣伝効果に加えて、行政が主体となって野球のまちづくりを推進していることで、興味を持ってくださった方が安心感を持って問い合わせをしてくれているようです。問い合わせの内容は実にさまざまで、お寄せいただくご要望に応えるなかで新しい企画がどんどん生まれています。

渡邉 要望から生まれた「新しい企画」、取り組みにどんなものがありますか?

岩浅 2011年春の甲子園に出場した新潟県立佐渡高等学校は、阿南市で直前合宿を行いました。阿南市から甲子園まではバスで約2時間半という距離ですが、課の職員でも甲子園と連動したプランは考えてもいなかったので、問い合わせをいただいたときには驚きました。佐渡高校が合宿した4日間、阿波踊りでの歓迎から、地元食材の差し入れ、徳島県立小松島高等学校・阿南工業高等専門学校との練習試合、最後は市民での見送りまで、全市をあげて応援しました。
その翌月には、日本女子プロ野球リーグ2011リーグ戦における四国初の公式戦・シンデレラシリーズの開幕戦を開催しました。こちらは、「野球のまち推進課」からのアプローチによって実現しました。女子プロ野球自体がこれから発展を目指すものなので、連携して盛り上げていきたいと考えています。いずれは、女子プロ野球の世界大会をアグリあなんスタジアムと愛媛県の坊っちゃんスタジアムで開催するのが目標です。

渡邉 海外への情報発信や受入れなどは考えていないのですか?

岩浅 2012年の夏には、オーストラリア、グアム、サイパンのマスターズチームによる国際大会を開催する方向で検討が進んでいます。これは、オーストラリア・ゴールドコースト在住の日本人の方が、「野球のまち阿南」のWebサイトを見たことがきっかけで実現しました。今、「野球のまち推進課」が頭を悩ませているのは、海外から来る選手たちの宿泊先です。体格の大きな選手がたくさん来るので、ゆっくり休んでもらえるにはどうしたらいいか、また外国の選手は家族連れで来る方が多いにもかかわらず、市内の宿泊施設にはツインの部屋が34室しかないことです。嬉しいことに、県内の野球関係団体から協力したいとの声をいただいているので、連携してともに大会運営をサポートできればと考えています。

還暦チーム

渡邉 野球のまち・阿南を推進して、何か市民の変化を感じられますか?

岩浅 徳島県内には、還暦野球チームが13あり、そのうちの9チームが阿南市で活動しているチームです。これまでは、「60歳や70歳にもなって野球をするのは恥ずかしい」「孫に笑われる」と言っていたのですが、今では市役所内でも「退職後はうちのチームに来てください」とちょっとした勧誘が行われているほど還暦チームが盛り上がっています。
野球を通じて仲間をつくり、生きがいをつくることでいきいきとした人生を送ることができます。生涯スポーツというと水泳やウオーキング、ゴルフなどがありますが、私は野球が一番良いと思います。チームがあって、仲間ができて、60歳を過ぎても楽しめる、最高の生涯スポーツです。

渡邉 最後に、今後の展望をお聞かせください

岩浅 野球のまち阿南は、まだまだ発展していきます。施設面ですと、次は室内練習場の建設を考えています。室内練習場ができれば、雨天であっても質の高い練習ができると佐渡高校からも期待が寄せられています。これからも、全国の野球好きの方たちからの声に応えながら、街全体をあげて野球のまちの振興を行っていきたいと考えています。

渡邉 地域の無形文化財とも言える野球を活用したまちづくり、阿南市の10年後を楽しみにしています。

スポーツによるまちづくり