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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

スポーツとまちづくり

スタジアム、アリーナを街の中心へ

新聞記者となって30年余。うち約20年を東京中心に全国を飛び回るスポーツ記者として過ごしてきた。だが、地方支局も1度だけ、2007年から3年間は新潟に勤務した。新潟といえば、スポーツと地域創世を語る上で特別な場所である。

雪深いイメージが強く、「スポーツ不毛の地」とまで揶揄(やゆ)された新潟に誕生したサッカーJリーグのアルビレックス新潟は、JR新潟駅南約4kmにある新潟スタジアム(現デンカビッグスワン)に毎試合4万人を超える観客を集め、「新潟の奇跡」と呼ばれた。赴任した当時は、サッカーだけでなくバスケットボール、野球にもアルビレックスが登場。新潟はスポーツによる地域活性化のモデルとして注目を集めていた。

アルビレックスは現在、サッカー男女、野球、バスケット男女、ランニング、スキー・スノーボード、チアリーディング、モータースポーツにまでチームを拡大。バスケットでは休廃部した企業スポーツの大和証券(男子)、日本航空(女子)の受け皿となり、ウインタースポーツでも五輪代表選手を送り出すなど、日本トップスポーツ全体を支える意味でも貴重な存在となっている。

誤解されている人も多いのだが、アルビレックスは複数のチームを抱える総合型クラブではなく、それぞれが独立した法人として運営されている。ただ、どこも新潟を中心に多数の専門学校などを運営するNSGグループが経営をサポートし、同グループの池田弘代表が仕掛け人となる。

池田代表は新潟市の中心市街地、古町の神社の宮司という顔も持つ。新潟時代に何度も話をする機会があった。次々とスポーツチームを誘致する理由は明快だ。「宮司の後を継ぐため、新潟を出ることができなかった。だから、楽しいことをたくさん持ってきて、新潟をだれもが行きたいとうらやましがる街にしたい」。それが原点だという。

では、アルビレックスによって新潟はどう変わったか。地域のアイデンティティーとして機能している面は大きい。だれもがスポーツに関心があるわけではないのだろうが、「新潟はアルビレックス」のイメージが定着し、県民の誇りや一体感は増した。亀田製菓などスポンサー企業の知名度もかなり全国区になった。高校野球や高校サッカーでも最近は新潟勢の活躍が目立つ。

だが、私がいた3年間、アルビレックスの存在にもかかわらず、新潟市の中心市街地の衰退に歯止めがかかる気配はなかった。古町の年中シャッターが下りた店は着実に増えていった。政令指定都市になった新潟市でそうだから、人口減が続くもっと田舎に足を向けると、消滅自治体という言葉が実感できる町並みを見ることになる。スポーツの力による地域活性化というのは、言葉にするのは簡単だが、生半可なアイデアや努力では実現しないのだと実感した。

スポーツイベントの取材で各地に行くたびに思うのだが、どうしてスタジアムや体育館は街中から離れた郊外にあるのだろう。デンカビッグスワンもJR新潟駅から南へ4km。09年にはプロ野球や独立リーグの試合を開催する野球場も完成したスポーツ施設の集積地区だが、開催日こそにぎわいの場となっても、集まった人たちのほとんどは、駅の北側の中心市街地に足を伸ばさずに、そのまま帰って行く。もったいないと思う。

広いスペースが必要なスポーツ施設は用地コストの面から郊外に置かれるのは分からないでもない。スポーツ施設を中核としたまちづくり「スマート・ベニュー」を提言する早大スポーツ科学学術院の間野義之教授は「騒音や光を出す迷惑施設と思われているのも大きい」と指摘する。確かに、美術館や映画館ならそんな反対も少ない。高齢者が増える中で医療施設やショッピングセンターはかえって歓迎されるようになってきた。

2020年東京五輪・パラリンピックに向けて、スポーツを活用して日本の社会全体を未来に適合するよう変えていこうという機運が高まっている。ならば、スタジアムやアリーナもスポーツイベント会場としてだけでなく、都市、地域のインフラ機能としてさまざまな用途にフル活用するべきだろう。

来年秋に発足するバスケットボール男子の新リーグは、チームのホームタウンに収容5000人以上のアリーナを求めている。シャッター街が増える地方都市では用地の確保もそれほど難しくない。自治体が土地を提供し、民間の資金とノウハウを上手に活用すれば、税金の無駄遣いとはならないはずだ。

この20年間、企業スポーツが衰退する一方で、地域密着を掲げるチームが地方都市にたくさん誕生した。スポーツイベントが中心市街地で当たり前のように開催されるようになった時こそ、こうしたチームが真価を発揮することになると思う。

  • 北川 和徳 北川 和徳 日本経済新聞社 運動部編集委員 1960年生まれ。1984年日本経済新聞社入社。93年から運動部で一貫して日本オリンピック委員会(JOC)、日本体育協会などスポーツ行政を中心に担当。96年アトランタオリンピック、98年長野大会、2006年トリノ大会などを取材。新潟支局長、地方部長、編集局次長兼運動部長を経て、2015年4月から現職。現在は日経電子版スポーツセクションで「GO20 チームNIPPON大変革」を連載。