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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

女子サッカー:中学生年代の現状と課題/第2回 愛知東邦大学准教授 大勝志津穂氏に聞く 1

テレビで見たスポーツでは圧倒的な人気を誇るサッカー

今回は大勝志津穂・愛知東邦大学准教授へのインタビューです。大勝先生は、この年代の女子サッカーを長年研究されており、またご自身も大学で女子サッカー部の顧問をされています。

徹底したリサーチと現場での声を第一とし、選手や指導者とのコミュニケーションから得た情報を元にしているなど、大勝先生の分析には定評があります。“最前線”ではどんな問題や変化があるのか。

大勝 志津穂 Shizuho Okatsu

2004年中京大学大学院体育学研究科博士課程単位取得満期退学。2004年より中京大学体育学研究科実験実習助手を経て、2007年より愛知東邦大学経営学部地域ビジネス学科に専任講師として着任。2013年4月より現職。専門は、スポーツ社会学。生涯にわたるスポーツ実施環境の整備について取り組むとともに、特に女性の実施環境のあり方に着目をしている。

中学へ進学後、なぜサッカーをする女子は激減するのか?

―現在の中学生年代における女子のサッカーの現状について教えて下さい。

大勝 中体連や高体連をはじめ、少年団でも近年増えています。ただ、男子に比べると数は多くはありません。なかでも、中体連の女子サッカー登録者は男子の1/37しかいません。
部活動でいうと、女子中学生がサッカーをできる環境は圧倒的に少ないです。小学校でサッカーの経験があり、ある程度できる女子は、中学校でも男子と混ざってプレーします。私が顧問をする大学の女子サッカー部員にも、中学校時代に男子と混ざってプレーしていた学生がいます。しかし、そこまでのレベルでない場合は、男子と一緒にはできない。だから、諦めてしまう。中学校に女子サッカー部があるか、身近に女子のクラブチームがあれば続けられるのでしょうが、その環境はまだまだ少ない。これが現状です。

部活動の顧問を担当したがらない教師たち

―町クラブや下部組織はまだまだ少ないですよね、特に地方では。

大勝 学校部活動の数を増やせばいいという話もありますが、そんなに話は簡単ではありません。この問題はかなり根深いです。
顧問を担当する教員が、サッカーをできる人とは限りません。また最近では、やらなくていいなら、部活動の担当をしたくないと思っている教員も増えてきています。ほかの業務が増えているので、部活動顧問はさらに負担になるからだと思います。

―部活動の顧問はあくまで自主的なもので、拘束することは難しいですが、顧問のなり手が減少することで、部活動への影響はありますか?

大勝 体育教員を目指す学生にも「部活動の顧問を特にやりたいというわけではない」という人がいます。昔はどちらかというと、運動部の指導をしたいから体育教員を目指す学生も多くいました。部活動はほぼ毎日あり週末に練習試合や公式戦を行う場合もある。その負担量を教員を目指す学生はわかっていて「別にいいかな」と。体育教員を目指す学生でさえこのような意識ですから、他の教科となるとさらに難しい状況です。この問題は多くの学校でもいわれていることなので、学校部活動を存続させる上でも、考えるべき点だと思っています。
まだまだ問題はあります。仮に中学校や高校に、新しく女子サッカー部を作るとします。最初のハードルは『誰が顧問になるのか』。次に場所の問題です。グラウンドはあっても、そこには野球部がいて男子サッカー部がいて、他の競技もあって…グラウンドは一杯いっぱい。そこに女子サッカー部を作ったとしても、どこで練習するのかということです。グラウンドの取り合いが起きている状況では、新たな運動部を作ることがそもそも難しいのです。

指導者の質と、性別

―指導者の現状について教えて下さい。

大勝 日本サッカー協会(以下、JFA)の指導者資格を質の保障と考えれば、部活動指導者が必ずしも、日本サッカー協会の資格をもっているとは限りません。これは、地域のクラブでも同様の傾向にあると思います。指導者の質については、JFAも指導者資格の取得を推奨しており、ライセンス保有者は年々増加しています。彼らが現場で指導にあたることができれば、ライセンスが有効に利用されれば、その質はJFAが目指すものに近付くでしょう。

―男子の指導法をそのまま女子にあてはめると上手くいかないという事例が多いと聞きますが、女子には女子のノウハウをもった指導者が必要でしょうか?

大勝 女子のチームも今までは少なかったですし、まだまだ女子の指導をできる人、指導をしたいと思う人は少ないのが現状でしょう。男子を指導してきた人が“女子を指導すること”を選択するかもポイントだと思います。女子を指導できる指導者の育成については、JFAも力を入れています。特に、女性を対象にした指導者講習会は近年増えており、女性指導者の育成が目指されています。ただ、女子中学生を指導する指導者が、女性がいいのか、男性がいいのか、それはまた別の問題だと思います。

―なでしこジャパンの佐々木則夫監督という成功例もあります、U-17女子代表を優勝に導いた高倉麻子監督という存在もいますが

大勝 これは本当にどちらがいいのか、私自身まだ答えを出せていません。私も女子サッカー部の顧問となり、学生と関わりをもってきましたし、さまざまなチームを見てきました。そのなかで果たして“女性が女子選手を指導した方がいいのか?”ということに対する答えは、かなり複雑で、デリケートだと思っています。身体の問題などは女性の方が理解できますし、相談もしやすいでしょう。でも、同性だから受け入れられない部分もあったりするのかなぁと。最終的には、選手本人がその指導者を信頼できるかどうかだと思っているので、その指導者が女性であろうと男性であろうと全く関係ないと思っています。あるいは、どちらもいるということが理想なのかもしれません。
さらに、女子(男子もですが)選手が女性の指導者をイメージできないことも、女性指導者を受け入れ難い状況にしているのかもしれません。男性の指導者が圧倒的に多いですから。“自分も将来こういう指導者になりたい”という理想像がなければ、女子選手が指導者の道を選ぶことは少なくなるでしょう。女性の指導者育成、サッカーだけでなく、他の種目においても、本当にこれからだと思います。私は本学の女子学生に「指導者になりたければ、勉強してまずは資格を取り、同じ土俵に上がりなさい」と言っています。

『なでしこ広場』にみるJFAの取り組み

―男子の中で揉まれてもプレーできる女子もいますが、男子と一緒ではプレーできない女子もいる。もし女子サッカー部があるならサッカーをしたいという生徒は、潜在的にいるのでしょうか?

大勝 かなりいると思います。でも中学校には女子サッカー部がないから違う部活に入る。その部活動で開花すると、高校でも同じ運動部に入る。これは本当にもったいないことで、またどう掘り起こすかはとても重要な課題です。
現在、JFAは『なでしこ広場』という取り組みを行っています。運動部やクラブチームに入っていなくても、個人で参加すればサッカーができるという事業です。対象は小学生と中学生です。協会は、どこにも所属していなくても、地域によっては週1回、あるいは月1回女子がサッカーをできる環境をつくっています。チームでも参加できるので、普及という面も広がってほしい取り組みです。