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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

女子サッカー:中学生年代の現状と課題/第4回 日本サッカー協会 野田朱美氏に聞く 1

中学生年代の女子サッカーが抱える問題を検証してきた連載も、いよいよ今回で最終回。
最後は、日本サッカー協会(以下、JFA)の野田朱美氏。

野田氏は、中学女子サッカー選手時代に、日本代表選抜に選手、その後は日本女子サッカーリーグでの活動を経て、JFA特任理事、日テレ・ベレーザの監督を務めたのち、再びJFA特認理事に就任。2014年にJFAの女子委員長に女性として初めて就任している。

一見すると華麗なキャリアの野田氏だが、日本の女子サッカーの歴史における光と陰を体験しており、彼女の言葉の一つひとつには重みがある。
女子委員長となってからは、可能な限り現場を知ることをモットーに、日々、日本各地へと足を運び、そこで見たもの、聞いたことを、JFAの新たな事業にフィードバックしている。

そんな多忙な野田氏にお話を伺った。女子委員長となられて1年、どういった心境なのでしょうか。

野田 朱美氏

野田 朱美 Akemi Noda

東京都出身。公益財団法人日本サッカー協会 女子委員長/特任理事。
1984~1996年まで日本女子代表として活動、76試合出場26得点の成績を残す。「読売サッカークラブベレーザ」「宝塚バニーズ」を経て、2008年に日本サッカー協会 特任理事に就任、女子委員を務める。その後、Lリーグ実行委員、「日テレ・ベレーザ」監督を経て、2014年より現職。

中学生年代の女子への取り組みはJFAの重点施策

―今回のテーマは中学生年代の女子サッカー。ドイツで開催された2011FIFAドイツ女子ワールドカップ(以下、W杯)でなでしこジャパンが優勝。その後、競技者数など変化はありましたか?

野田 優勝する前から、全体として少ないながらも増えてはいたんです。特に高校生年代と小学生年代は、女子サッカーを設置する学校が増えました。小学生の場合は、男子の中に入りプレーし、女子だけでチームを作ったりということがあり、着々と増えてはいました。
ただ、W杯優勝以降、競技人口全体は増えたのですが、どうしてもU-15年代、つまり中学生年代が増えませんでした。W杯で認知度が上がり、女子サッカーのファンが増え、多くの人に興味をもってもらえたのは確かです。ただ、環境も含めた改善としてはまだまだ足りない点が多いのが実感です。

―JFAとしては、どういう取り組みをされていますか。

野田 2011年をターニングポイントとして位置づけしていますが、W杯で優勝する10年以上前から中学生年代の環境づくりに向き合って活動してきました。ここ数年、この年代をさらなる重点施策としています。

真の育成は、小、中、高の一貫した体制をつくること

―具体的な課題と成果をお聞かせください。

野田 当初はU-15のチームを作ったらJFAが補助します、という取り組みを行っていました。ところが現場の意見を聞くと、課題としてあがったのは上と下の世代とのつながりです。つまり小学生年代から高校生年代までを一貫して考えないとダメだと。上の世代のU-18では学校に運動部はありますが、一般のクラブはまだまだ足りません。
U-12年代も、もっと競技人口を増やさなければいけませんが、なかなか……。ただ男女を含めた小学生年代の改革として、四種(小学生)統合といって男女の垣根をなくす登録制度が導入されました。1年間の移行期間を経て、2015年からルール化して始まっています。これまでサッカーをする場がなくてできなかった女子児童もプレーできるようになりますし、中学生年代につなげていくこともできます。男女一緒にプレーする習慣が身につけば、中学校に入ってからも、しばらく一緒にサッカーができます。最近、そういった中学校も増えてきているんです。

―男女一緒の練習はいいですね。男子チームで大会にも出場できますか。

野田 大会によって異なりますが、登録すれば出場できます。各大会の大会概要を読んでいただければわかります。
また、U-15年代の受け皿を増やしていくという意味で、トレセン活動を充実させる予定です。中学3年生と、中学1、2年生の2つに分けて、より多くの女子にチャンスを与えていこうと思います。
さらに『ガールズエイト』という女子8人制の大会を、各地の選抜チームに参加してもらっています。U-12では男子と一緒にプレーをし、中学生になり女子だけでプレーする入口がガールズエイトです。ボールタッチの数を増やすために、FIFAも8人制を推奨しています。

さらなる普及拡大へ―サッカーの楽しさをもっと知ってもらう

サッカーイベントの様子1 サッカーイベントの様子2

―全体の普及への取り組みについてお聞かせください。

野田 競技指向ではなく、サッカーを楽しみたいという生徒たちには『中学フェスティバル』というイベントを主催しています。個人でもチームでも参加できるイベントで、各地域で開催されています。

―サッカーイベントの意義は第2回目に登場いただいた大勝先生も指摘されていました。

野田 FIFAの後押しもあり、このイベントは実現していますが、助成ではなく、ある程度資金的な援助をしてもらっています。日本と同じような問題を各国も抱えている現状を、FIFAもよくわかっているのです。
中学フェスティバルは本当に楽しい内容となっています。年に2回、大阪のJ-GREEN堺で開催されます。イベントでは、それぞれの夢を書いてもらうこともあります。トレセンだと「なでしこジャパンに入る!」という夢が大半ですが、こちらでは「会社の社長になる」「お嫁さんになる」といったユニークなものも飛び出します(笑)。
こういったフェスティバルを、恒久的に継続的に開催していくつもりです。
※JFAフェスティバルに関してはこちら

女子サッカーの発展のきっかけはFIFAの『ロサンゼルス宣言』

―先程から伺っているとFIFAの女子サッカーに対する力強い姿勢を感じます。

野田 1999年に当時のFIFA加盟203協会が集まり女子サッカーの発展を目指すべく、『ロサンゼルス宣言』を世界に向けて発信しました。これは、サッカーの競技人口の10%を女子にするというもので、今も脈々と受け継がれています。
先日のFIFA女子W杯カナダ2015の大会トロフィーツアーで来日された、FIFAのモヤ・ドッド副委員長は、元オーストラリア女子代表です。日本サッカー協会の大仁邦彌会長を交えていろいろなお話をさせていただきましたが、今もロサンゼルス宣言であげられた数値を目標にされているということです。
現在の日本の女子選手は登録人口の約5%にすぎませんが、この先、まだ伸びていく可能性があると思っています。

―FIFAランキング上位のアメリカやドイツなどの競技人口を見て思うことは?

野田 アメリカやドイツの競技人口をみると、本当に底力を感じます。日本が継続してランキング上位でいるための条件のひとつとして、「競技人口の分母」は大きいほうがいい。“世界一”の結果だけではなく、日本の女子スポーツ全体の未来を考えるという意味においても、競技人口をもっと増やしていきたい。現在はまだ5万人くらいですので、登録者数を増やしていくことが私達の最大のミッションとしています。