Search
国際情報
International information

「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

知る学ぶ
Knowledge

日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

セミナー「子供のスポーツ」

セイルトレーニング

帆船での航海を通じ、青少年の人間的成長を支援する海洋教育

セイルトレーニングの歴史・沿革

セイルトレーニングの歴史は、1930年前後から「帆船での航海を通じて青少年の人間的成長を支援する海洋教育」として各地ではじまった。しかし普及前に、戦争によって一時中断された歴史を持つ。

その後、セイルトレーニングが世界的に発展していったのは、帆船による航海の青少年教育としての価値が高く評価されたところにある。民間人が中心になって立ち上げたNPOなどの組織が、セイルトレーニングを行い青少年教育の一翼を担い、セイルトレーニング文化を構築してきた。(『セイルトレーニング』ジョン・ハミルトン著・大儀見薫訳・小学館発行より)

セイルトレーニングの歴史・沿革

また、1954年、英国人弁護士バーナード・モーガンの提唱により、「セイルトレーニング国際レース委員会」が設置され、1956年に第1回レースが開催された。このレースは、当初は最初で最後となる予定だった。第2次大戦の被害を受けず残った帆船があり、それらの帆船を一堂に集めてレースを行うことで帆も最後の姿を見せる、というものだったためだ。しかし、想像以上の反響があり定期的開催に繋がり、世界的にも広がりをみせるきっかけとなった。

1970年代には、帆船の多くがセイルトレーニングで利用されるようになる。その為、帆船の数も増えていき、セイルトレーニングは人々を魅了する大きなイベントと認知されるようになり、世界各国で開催され発展していった。

一方、日本でのセイルトレーニングの歴史と歩みは世界とは異なる。

1927年にボーイスカウトの前身となる少年団日本連盟・海洋部が、当時北海道大学が所有していた中型帆船「忍路(おしょろ)丸」を借り受け、その後払い下げられた同船を大規模な改装を経て「儀勇和爾(ぎゆうわに)丸」として復活させ、少年団員を中心に広く青少年・教職員を乗せて行った帆走訓練が日本でのセイルトレーニングの始まりといわれている。

セイルトレーニングの歴史・沿革

その後、職業船員を養成するための練習帆船「日本丸」「海王丸」をはじめ、「進徳丸」「大成丸」など数々の帆船が建造された。5隻の大型練習船は、当時はドイツと並ぶ帆船大国であった。

しかし、第二次世界大戦を境に日本は戦後復興~高度成長期の時代に入る。そのため、帆船は「時代遅れで無駄なもの」という経済一辺倒の価値基準の中で、見向きもされない存在になったのも史実だ。

ここから日本でセイルトレーニングはどのような変遷をたどったのか。

戦後、「時代遅れ」「無駄なもの」と言われた帆船ではあるが、「日本丸」「海王丸」が船員教育に復帰。1980年代には両船は新しく建造され、その存在を高めていく。

この時代に大いに活躍したのは、日本と欧米のセイルトレーニングに対する認識のギャップを知り、危機感をいだいた大儀見薫氏だ。国内へのセイルトレーニング本格導入を目指し、1990年代初めに経済界の要人などに働きかけ、奔走する。

セイルトレーニングの歴史・沿革

帆船「あこがれ」

1991年にはポーランドで建造された帆船「ZEW(ゼフ)」を主に民間人の寄附よって購入し、大がかりな改修を施した後、帆船「海星」として運航を開始。同年、日本セイルトレーニング協会を設立し、日本国内に初めてセイルトレーニングの概念を持ち込むこと流れとなった。

また、時期を同じくして海洋教育・海事思想の普及に力を入れていた大阪市が、帆船「あこがれ」を1993年に建造。1994年には地方公共団体として初めてセイルトレーニング事業をスタートさせ、教育関係者を中心に市民からの高い評価を受けた。その後も、国内で唯一、誰もが自由に体験できるセイルトレーニングとして事業を継続しており、海洋教育の教育効果を普及発展させる存在となった。

セイルトレーニングの概要

セイルトレーニングの概要

【海洋教育としてのセイルトレーニング】

セイルトレーニングは、帆船による航海を通じて一人ひとりのトレーニー(参加者)が精神面で大きく成長できる海洋教育の一つである。大自然という人間が抗うことのできない環境のなかで、「動力は風の力のみであり、その風力を最大限利用して走る帆船」「トレーニーを中心とした限られた乗員」「限られた航海日数・時間」を最大限活かし、トレーニー・乗組員が一丸となって「安全を最優先した予定通りの航海」という一つの目標を達成することによって、日常生活では決して得られない人間的成長を実感できる自然体験学習プログラムとなっている。

セイルトレーニングの概要

帆船の「風の力を活かして航海する」という特性を活かすためには、時々刻々と変化する自然環境の変化を的確に読み取る観察力や想像力、安全で確実な航海を実現するために気象条件などに合わせた的確な判断を下すリーダーシップが必要となる。

また、船長の指揮下で全員がそれぞれの持ち場の役割や責任を果たすために恐怖心を乗り越えマストに登り、チームで重い帆を広げたり畳んだりという船上作業のなかから責任感や自信が芽生えていく。さらに、仲間の置かれた状況を思いやり、陰に陽に仲間を支えていく「思いやり」の気持ちが自然に醸成されていくアウトワード・バウンド(冒険訓練)として、海外ではセイルトレーニングの教育効果が高く評価されてきた。

セイルトレーニングの概要

しかし、日本国内ではその教育効果が体験してはじめて実感できることから認知される機会も少なく、これまではレジャー性の高いマリンスポーツとして理解されることが多く、教育的効果の高い活動として普及する機会がほとんどなかった。

そうした背景を踏まえて近年、教育効果が最も顕著に現れる15~20歳の青少年の体験による精神面での成長を、EQ(心の知能指数)を用いて定量的に測定して参加者が確実に精神面での成長を実感できる仕組みづくりを進めると同時に、教育効果を高めるためのトレーニングプログラムの体系化が図られつつある。