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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

ブラジルのスポーツクラブ

~クルーベ・デ・レガッタス・ド・フラメンゴ~ 前編

2018.03.09

ブラジルのスポーツクラブ ~クルーベ・デ・レガッタス・ド・フラメンゴ~ 前編

「サッカー王国」ブラジルには、実に800を超えるプロサッカークラブがある。このうち、小さなクラブはプロサッカー部門しかないことが多いが、中堅以上のクラブであれば、元々、地域のスポーツ愛好者らによって総合スポーツクラブとして設立されたケースが多い。希望者が会員権を購入して「ソシオ」と呼ばれる会員となり、好きなスポーツをコーチや専門家の指導を受けて楽しむ総合スポーツ部門があり、それとは別にプロチームとプロ選手を育成する下部組織からなるプロサッカー部門を有する。ただし、プロサッカー部門を維持し、さらに強豪にのし上がるためには莫大な費用と多くのマンパワーを要することから、サッカー以外の種目のプロチームをもっていたり総合スポーツ部門を発展させてオリンピックを目指すようなトップ選手を育成、強化するクラブはブラジル、南米はもとより世界でも数少ない。

その例外的なクラブのひとつが、リオデジャネイロに本拠を置く「クルーベ・デ・レガッタス・ド・フラメンゴ(Clube de Regatas do Flamengo)」(以下:フラメンゴ)である。

トレーニングセンター内にあるプロサッカー部門の建物

トレーニングセンター内にあるプロサッカー部門の建物

クラブ名を直訳すると「フラメンゴ・ボートクラブ」で、その名が示す通り、そもそもはボートクラブとして1895年に市南部ガヴェア地区のロドリゴ・デ・フレイタス湖のほとりに創設された。1911年にサッカー部門が設立され、1933年に州リーグがプロ化されたのに伴ってプロチームとなり、リオのみならずブラジルを代表する強豪クラブとなった。1980年代にはジーコ、ジュニオールらブラジル代表でも活躍した名手を擁して黄金時代を築き、1981年、東京で行われたトヨタカップ(現在のFIFAクラブワールドカップ)でイングランドの強豪リバプールを3-0で下して世界クラブ王者となっている。クラブ史上最高の選手は、ブラジル代表として1978年、1982年、1986年のFIFAワールドカップ3大会に連続出場したジーコ。選手生活の晩年には日本で住友金属と鹿島アントラーズでプレーし、その後、日本代表監督も務めた。1994年から1996年まで鹿島アントラーズに在籍したレオナルド・ナシメント・ジ・アラウージョもこのクラブの出身だ。ブラジル全土、さらには国外にも熱狂的なファンがおり、ファンの総数は推定3,500万人で南米最多という世界屈指の名門クラブである。

クラブハウスロビーにあるジーコの銅像:この他にもフラメンゴ黄金時代の写真などが展示されている

クラブハウスロビーにあるジーコの銅像:この他にもフラメンゴ黄金時代の写真などが展示されている

プロサッカー部門は、市の南西のヴァルジェン・グランジ地区に17万㎡(東京ドームの3.6倍強)の広さのトレーニングセンターをもち、トップチームと下部組織の選手全員がここで練習している。公式サイズの天然芝のピッチが5面、ハーフサイズの人工芝のピッチが1面、ゴールキーパー専用の練習ピッチが1面あり、スポーツジム、選手の宿舎、レストラン、リハビリ用のプール、医務室、リハビリ施設、更衣室などサッカーの練習と選手の体調管理に必要なほぼすべての施設を備えている。

下部組織には11歳から16歳までの各年代と17歳から20歳まで(U-20)の計7チームがあり、200人余りの選手がプロを目指して練習に励んでいる。

ただし、各チームの年齢別の区分けはあくまでも目安に過ぎず、優れた選手はどんどん飛び級してより高いレベルで練習を積み、試合にも出場する。たとえば、トップチームには現在17歳だが、16歳だった昨年(2017年)、スペインの強豪レアル・マドリードへ移籍金4,500万ユーロ(約60億円)での入団が内定したストライカーのヴィニシウス・ジュニオールがいる(欧州では外国人選手は18歳になるまで正式契約できないため、18歳の誕生日を迎える今年7月まで引き続きフラメンゴでプレーする)が、彼は常に実年齢より上のチームで練習を積んできた。

トレーニングセンターの入口

トレーニングセンターの入口

下部組織の統括責任者であるカルロス・ノヴァウ氏は、「ブラジル全土に10人のスカウトを常駐させ、潜在能力の高い子どもを常時探している。優れた子どもがいたらこのトレーニングセンターへ連れてきて、一定期間テストし、現在、その年齢のチームにいる選手より優れていると判断したら入団させる」と語る。この場合、新しく入った選手と入れ替わりにそれまで在籍していた選手が退団することが多く、下部組織といえども競争は激烈だ。「ここでは、ユニフォーム、スパイクなどの用具、毎日の食事、故障した場合の医療費などすべての経費をクラブが負担する。遠隔地の出身で家から通えない子どもは宿舎に入り、地元の学校に通うが、これらの費用もすべてクラブが負担する」(ノヴァウ氏)。

サッカープロチームの練習風景:取材時にはU-14、U-20メンバーも練習に励んでいた

サッカープロチームの練習風景:取材時にはU-14、U-20メンバーも練習に励んでいた

下部組織の年間予算は1,700万レアル(約5億4,400万円)だそうだが、「選手がトップチームに上がって活躍し、さらにヴィニシウス・ジュニオールのように他クラブへ移ることで移籍金が入れば、投資は十分に回収できる。それを下部組織に再投資する」と説明する。。
ただし、ブラジルの多くのサッカークラブと同様、フラメンゴは多額の負債(推定3億5,000万レアル=約122億円)を抱えており、経営は決して楽ではない。「世界で最もモダンな練習施設のひとつ」とノヴァウ氏が自慢するこのトレーニングセンターにしても、1984年に土地を購入しながら、資金不足でなかなか施設の建設が進まず、完成したのは土地購入から実に32年後の昨年。国内ビッグクラブの中では遅い方だった。

※文中、1レアル=約32円で換算

レポート執筆者

沢田 啓明

沢田 啓明

Sports Journalist
Partner Fellow, Sasakawa Sports Foundation