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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

ブラジルのスポーツクラブ

~クルーベ・デ・レガッタス・ド・フラメンゴ~ 後編

2018.03.30

ブラジルのスポーツクラブ ~クルーベ・デ・レガッタス・ド・フラメンゴ~ 後編

(前編より続く)

「クルーベ・デ・レガッタス・ド・フラメンゴ(Cube de Regatas do Flamengo) 」(以下:フラメンゴ)が本拠を置くリオデジャネイロのガヴェア地区には、サッカーのみならず総合スポーツ部門と男子バスケットボールのプロ部門がある。

7万3千m2(東京ドームの1.5倍強)の敷地に7面のテニスコート、5つのプール、3つの体育館、1つのサッカースタジアム、スポーツジム、レストラン、医務室、リハビリ施設、更衣室などがあり、約2万4千人の会員が13種目(うちオリンピック種目は10)のスポーツを楽しんでいる。

施設を利用するには会員になる必要があり、家族会員権の現在の相場が15,000レアル(約48万円)で名義変更料が3,000レアル(約96,000円)。さらに、毎月の維持費として主会員が131レアル(約4,192円)、主会員の家族は各々が20レアル(640円)払う。国内の他のスポーツクラブと比べると、比較的安価だ。

プロバスケットチームの練習の様子:取材時、NBAでも活躍したブラジル代表アンデルソン・ヴァレジョン選手も練習していた

プロバスケットチームの練習の様子:
取材時、NBAでも活躍したブラジル代表アンデルソン・ヴァレジョン選手も練習していた

男子バスケットボールチームは1919年に創設され、2008年から純然たるプロチームとして活動している。1953年と2009年に南米クラブ王者となっており、ブラジルリーグでも6回優勝している強豪だ。2016年リオデジャネイロオリンピック大会(以下:2016年リオ大会)には、ブラジル代表として2選手が出場。今季は、昨年までNBAで13シーズン活躍したアンデルソン・ヴァレジョンが加わり、ブラジルリーグで首位を快走している。

ブラジルの男子プロバスケットボールについて、ジョゼ・ネット監督は、「1部15チームと2部6チームの計21チームが完全なプロ。その過半数が地方自治体と企業のサポートによって運営されているが、我々のような純然たるクラブチームも少なくない」と語り、フラメンゴの下部組織については、「12歳以下、13歳以下、14歳以下、15歳以下、17歳以下、19歳以下の6チームがあり、約80人が将来のプロを目指して練習に励んでいる」と説明する。つまり、選手育成の仕組みはサッカーの場合とよく似ている。

取材に応じるジョゼ・ネット監督

取材に応じるジョゼ・ネット監督

総合スポーツ部門では、一般会員が趣味としてスポーツを楽しむのと並行して、現在、ボート、水泳、柔道、体操、ポロ、シンクロナイズド(アーティスティック)スイミング、バレーボールの7種目に80人の契約選手(事実上のプロ契約)がおり、オリンピックなど国際大会への出場を目指している(これ以外に、サッカー、バスケットボールのプロチームからもブラジル代表に選手を派遣することが多い)。また、これらの下部組織の選手は会員でなくともクラブの施設を無償で使用でき、クラブと提携している高校や大学の特待生として授業料を免除されるという特典がある。

水泳競技の練習の様子

水泳競技の練習の様子

フラメンゴは、1932年ロサンゼルスオリンピック大会のボート競技に3選手が出場したのを皮切りに、2016年リオ大会まで20大会連続でオリンピックに選手を送り出している。計16種目に延べ208選手が出場し、銀メダル6個、銅メダル16個、計22個のメダルを獲得しており、これはブラジルの夏季オリンピックにおける総獲得メダル数の約17%を占める。その種目別の内訳は、男子サッカー8個、男子バスケットボール6個、男子水泳5個、女子バレーボール2個、男子陸上1個。2016年リオ大会では、体操4人、シンクロナイズドスイミングとバスケットボールが各2人、水泳、水球、ボート各1人の計11人、パラリンピックにはボート2人、柔道1人の計3人が出場した。これは、国内のプロサッカークラブの中では最も多い。

体操競技の練習の様子:充実した設備が整っている

体操競技の練習の様子:充実した設備が整っている

2016年リオ大会期間中は、アメリカ代表選手団のバスケットボール、バレーボール、体操、柔道など13種目の選手に総合スポーツ部門の練習施設を提供した。その際、アメリカ・オリンピック委員会から支払われた施設使用料500万レアル(約1億6,000万円)を用いて施設を改修すると同時に、クラブの役員、コーチ、選手らがアメリカ選手団の練習を視察したり意見を交換し、多くの会員がボランティアとしてアメリカ選手の練習を手助けしつつ交流した。また、アルゼンチンの男子サッカーチームにプロサッカー部門のトレーニングセンターの施設を提供し、その使用料として25万レアル(約800万円)を手にした。

ボート競技の練習場:フラメンゴの発展はここから始まった

ボート競技の練習場:フラメンゴの発展はここから始まった

総合スポーツ部門を統括するマルセロ・ヴィドー氏は、「プロサッカーの強豪クラブとして国内外のタイトルを争いながら、他の種目のプロチームをもち、さらに様々な種目でオリンピックを目指すトップ選手を育てようというのは、ひょっとしたら無謀な試みかもしれない。しかし、我々には世界で最も有名で人気のあるサッカークラブのひとつである、という誇りがあり、ソシオ(会員)の数も2万人を優に超える。ファンのため、ソシオのため、困難なミッションにあえて挑んでいる」と胸を張る。そして、「長年、クラブの施設を着実に拡充しながら、選手の育成と強化に力を注いできた。このハード、ソフト両面の強みを生かして、2020年東京大会など今後のオリンピック・パラリンピックにも大勢の選手を送り込んで好成績をあげたい」と語る。

総合スポーツ部門を統括するマルセロ・ヴィドー氏(フラメンゴ提供)

総合スポーツ部門を統括するマルセロ・ヴィドー氏(フラメンゴ提供)

今回の取材を通じて、長年にわたる関係者の地道な努力によってフラメンゴという世界でも有数の名門クラブがあること、そして現状に甘んじることなくさらに偉大なクラブを目指していることを肌で感じた。

※文中、1レアル=約32円で換算

レポート執筆者

沢田 啓明

沢田 啓明

Sports Journalist
Partner Fellow, Sasakawa Sports Foundation