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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

コロナウイルスとスポーツ(2)

2020.06.05

コロナウイルスとスポーツ(2)

コロナウイルス感染拡大による影響で、スポーツ活動の禁止、スポーツ施設への立入禁止の措置が全国的に実施されるようになった。(コロナウイルスとスポーツ(1)参照) そんな4月初めのある日、郵便受けに私の所属するスポーツクラブTGS-Walldorfからの手紙が投函されていた。クラブの役員でもなく、何のボランティア活動もしていない私にも配布されるということは、4,500名の全会員にクラブ理事会から手紙が出されたということになる。文書の印刷は大した事ではないが、折って、封筒へ入れて、配布するというのは、かなりの手間である。この配布作業はクラブの有志の何名かが行ってくれたものと理解する。

スポーツクラブTGS-Walldorfから配布された手紙

スポーツクラブTGS-Walldorf
から配布された手紙

受け取った手紙の内容は、前回報告させていただいた施設入り口の貼り紙と同様である。少なくとも4月19日までのクラブの活動休止と施設への立入禁止のお知らせであるが、それによりクラブはコロナウイルス感染拡大防止に貢献すると述べられている。また、活動休止であるから会員の会費はどうなるのかという疑問が出てくることだろうと想定して、クラブの財政についても述べられている。大型クラブは独自の施設をもち、有償のスタッフも雇っており、クラブ施設維持のため最低限の業務は行わなければならない。というのも、ドイツのクラブは、公益団体として法律上いざというとき等のための積立金を準備しておくことはできないからである。

クラブは連帯共同体であり、会費はスポーツクラブという共同体が機能するための重要な要素であり、定款で決められているクラブの目的実現のためにのみ使われる。スポーツプログラムを提供して、それを対価とするフィットネスジムやその他のスポーツ関連企業とは違う、ということを明確にしている。クラブと会員の関係は売買関係ではない。これはスポーツクラブを理解する上で重要なことである。

そしてクラブは、4月初旬に「ステイホーム」を強いられている会員が、家で身体を動かせるよう、クラブの指導者による3本のフィットネスプログラム動画をウェブサイトに掲載した。当初は会員限定で暗証番号を設定してあったが、その後方針を変え、TGS-Walldorfのウェブサイトを開けば誰でも見られるようにし、現在ではプログラムの数も19本とずっと増えた。※1) コロナ時代であっても、会員がスポーツ離れしないためのスポーツクラブによるプログラム提供の一例である。

※1)TGS-Walldorfウェブサイト https://tgs-walldorf.de/mitgliederbereich/

クラブがウェブ上で提供している動画

クラブがウェブ上で提供している動画

なお、手紙は「この厳しい時期をみんなで一緒に乗り越えましょう。そして、誠実でい続けましょう」「健康でいてください」と結ばれている。

ドイツ国内では、外出制限、マスク着用の義務、接触制限、1,5m~2mの間隔、学校や保育所の閉鎖、商店・レストラン等の閉鎖、老人ホームでの面会禁止、スポーツ活動の禁止、スポーツ施設への立入禁止、ブンデスリーガの試合中止などの一連の措置で、感染者増加の勢いが少し収まってきた。すると、早速4月後半からのメディアのコロナ危機に関する報道の中心的テーマは、いつどんな規制緩和をするかということに移ってきた。

去る5月6日、メルケル首相は連邦16州の首相と会談した。この会談の目指すところは、どこまで各規制を緩和するかであった。コロナウイルスによる国民の健康を守ることを第一義とするか、それとも、それによる経済への圧迫をいかに抑えるか。また、外出禁止などで市民の自由が制限されているとの抗議デモも行われている。政治は「健康」、「経済」、「自由」のどこへ重点を置くのか、判断が難しい。

ドイツは中央集権の国ではないから、連邦政府がトップダウン政策として、指示を出すわけにはいかない。基本方針に連邦と州が合意し、実際の措置を州が行う。州政府の意向や州ごとのコロナウイルスの感染状況などによって判断されるため、足並みはそろわない。接触禁止やマスク着用義務は州ごとにも変わらないが、何を、いつ、どの位行うのかには違いがある。

ちなみに、この会談で5月16、17日の週末からのブンデスリーガの試合再開が合意された。ただし、無観客試合 ※2)である。一般的なスポーツも屋外で間隔を保って行うことのできる活動は再開される。5月12日のテレビインタビューで、DOSB会長のアルフォンス・ヘアマン(Alfons Hörmann)会長は、通常化への第一歩として喜ばしいとし「9万のクラブ、2,700万の会員からなるドイツの組織化されたスポーツは、ドイツ最大の人的集団であり、社会的責任をもつ。再開されるスポーツ活動でもコロナウイルス感染防止ルールを守ってやっていこう」と呼びかけた。同時に、シュトゥットガルトのあるスポーツクラブの様子が映し出された。グランドの脇に机を据え、二人の女性がトレーニングに来る人達の受付を行っている。二人の前には感染予防のプレキシガラスの仕切りが設置されている。また、トレーニング希望者は、感染が発生した場合の追跡を可能にするために、名前などのチェックを受ける必要がある。

※2) ドイツ語ではGeisterspiele:幽霊試合と呼ばれる

活動休止から2か月経ち、私の所属するスポーツクラブTGS-Walldorfの施設の入口の貼り紙は変わっていた。そして、貼り紙が掲示されているグラウンドへ入る門は大きく開かれていた。

TGS-Walldorfの施設の入口の貼り紙

クラブの施設の入口とスポーツ活動再開に関する貼り紙

再開について

親愛なる会員の皆さん

5月11日から、制限付きではありますが、私達の施設でスポーツプログラムが再開されます。どのコースが再開初期に実施されるかは、ウェブサイトをご覧いただくか、事務局までお問い合わせください。
ただし、14才以下の子供のスポーツプログラムは実施されません。
フィットネススタジオは5月16日から再開される予定です。
入場できる人数に制限があるので、利用希望者は申し込みが必要です。
できるだけ早く全てのスポーツ活動ができるようになることを祈り、楽しみにしています。

TGS-Walldorfチーム

ドイツ国内では、レストランの再開はまだであるが、商店が再開され人々が動き始めている。しかしながら、コロナウイルスの第2波を危惧する専門家も多い。コロナウイルスの収束の見通しはまだない。

レポート執筆者

高橋 範子

高橋 範子

Special Advisor, Sasakawa Sports Foundation